第4話 新たな恋はじまる日

「ほら、そっちに行った」

「お、おう」


俺は今、ゲームセンターのシューティングゲームを新庄と一緒に楽しんでいた。それは放課後前の出来事だった。


授業は何もなく受けられた。もちろん、隣の新庄はいつも通り大爆睡していた。初めて四時間すべてを睡眠に費やす行為を見せられたが、おどろくばかりの行動だ。それでも寝ているにもかかわらず、授業の問題に答えるのは信じられないくらいの頭脳を持っているようだ。本当にその脳を欲しくなると思わずにはいられない。


昼休みは新庄につかまりつつも、由利花のトラブルに巻き込まれ、あれやこれやと忙しい状態だった。新庄は普段は冷静なのだが、四時間も寝たことで元気過ぎるのが痛手だ。要は授業が終わるとすぐに教室を飛び出し、どこかへ行ってしまう。本当に奇跡的なタイミングだ。


午後からの授業では新庄は普通に授業を受けていた。ノートをとっているように見せかけて、実は絵を描いていることもあるが、真面目に黒板だけは見ていた。


そして、放課後。いつものように、由利花が元気にやって来て、とても冷静な様子で歩いてくる要だった。


「今日はどこか行こ!」

「今日も行くのか?」

 

今日はではなく今日もが正しい。基本的に俺が振り回されることが多い。由利花がこう言ったらどこかに行く必要がある。そうしないと彼女は一人でどこかに行ってしまい、家に帰れなくなる。だから、予定がない限りは付き合うしかない。


「あー、今日はこいつは私がもらうね」

すると新庄が俺の首を引っ張って顔を近づけてきた。

「なら、四人で」

いつも新庄が来ると四人になることが多い。しかし、今回はいつもと違い二人で行くと言っていた。

「だめ。付き合い始めたんなら二人でどこかいかないと」

「でも」

新庄が正しいことを言っている。そして由利花も正しいことを言っている。二人ともこの反応は間違っていない。確かに由利花と要は付き合っている。だから、二人でデートをするべきだ。正直、俺が行くのは邪魔だ。


しかし、由利花は一人では帰れない。だから、要を付き合わせるになる。家の距離を考えると、この方法は失礼すぎるし、俺がいたほうが確実にいいだろう。


「わかってる。だから十七時半にどこかで集合。そうすれば君の執事は返してあげるから」

「なるほど!」

俺は由利花のものから執事に昇格したような気がする。ただの表現の違いで意味は全く変わらないが。


要約すると、帰りに迷子にならないように待ち合わせ場所を決めて、そこに集まって解散することになった。


そして現在に戻る。


「いやー、こういうの久しぶりだね」

「そうだな」

由利花と新庄が知り合ってからは、基本的に由利花が中心に場所を決めてきた。だから、こういうゲーセンの中でもアーケードやシューティングのゲームをすることはまずなかった。要が登場してからは、さらにゲーセンに行くことも減っていたし。


「お前、こういうことがしたかったから、二人を別れさせたのか?」

「なわけないじゃん。邪魔者を離しただけですよ」


確かに、俺たちは邪魔者だからな。


「いいことしてんじゃん」

「う、うるさい」

なんでここで照れるんだろう、このやつ。


「で、どうなの?現実を受け止めた感想は?」

「スッキリしたとは完全には言えないけれど、割と落ち着いている」

「そっか。じゃあ、あきらめるの?」

「あきらめる。当たり前のことを聞いてくるな」

「本音は?」

意図がよくわからない。俺はもうあきらめている。今は仕方なく彼女と一緒にいる。それでもほかの人からしたら、俺たちはしつこく見えているのだろうか。

「本音だよ」

「なら、ほかの人から告白されたらどう考える?」

「そりゃ考えるさ。ただ、知らない奴とかはごめんだけどな」

「へー、そうなんだ」

完全に嘘をつかれていると思われている。


「なんだ、その顔」

「なーんでもないよ」


彼女のはげまし方はいい加減だけど、感謝しておこう。


そのままシューティングのゲームを全クリした。そして、格ゲーに移ることにした。


「負けたほうはジュースね」

「了解」


確かに、新庄はうまい。だが俺だって家で練習している。負けるわけにはいかない。


「PERFECT GAME」

しかし、完全な敗北。二本勝負で一本も取れず、さらに一ダメージも相手に与えることができず、珍しいノーダメの時にPERFECT GAMEを表示させてしまった。


「弱すぎ」

「やめろ、その暇そうな目」

「お前が強すぎるんだよ」

「私は負けないゲームしかやらない。なんのために日々学校で寝てると思ってるの」

「夜はMMOとかやってんじゃねーんかよ」

「もちろんメインはそっちだけど、最近はこれのレート上げが忙しいのよ」

レート上げか。そりゃエンジョイ勢の中で強い俺が勝てるわけないな。

「何を欲しい?」

「なんでもいいよ。私は心広いから」

調子こいてるな。


もちろん俺は優しい。彼女がなんでもいいと言うなら、ちゃんとしたものを買ってくる男だ。


「ほら、これ」

「ありがとう。ってオレンジか」

「なんだ、その嫌そうな顔は」

オレンジにハズレはない。基本的に迷ったときはオレンジを渡せば誰もが喜ぶ。あの好みが急に変わる由利花ですら、オレンジジュースだけはいつでも喜ぶ。だが、この俺の理論はいま折られようとしている。


「嫌いじゃないよ。ただ、僚友に何でもいいって言ったらいつもオレンジだなーって」

やばい、単純なやつと思われてるのか。

「まだ時間はあるけど、どうする?」

「そうだな」

することもないし、流れに合わせていこう。


たどり着いた場所はショッピングセンターにあるただのベンチだった。


「座って」

なんだこの雰囲気。


「疲れた」

「え、?」

「膝を貸して」

「何を言ってるんですか?」

「久しぶりに外で遊んだから疲れた。だから寝る」


なるほど、まあ仕方がない。俺に気を使ってこうやって振る舞っているのだろうし、疲れるのもわかる。


俺の膝に頭を置くと、彼女はすぐに目を閉じた。

「ねぇ、もしさ。私が好きな人がいるって言ったら変?」

「どうした?疲れすぎて頭おかしくなったのか?」

完全に疲れ切っているようだ。二次元の話ならもっと元気になるはずだ。彼女が三次元の男を拒絶しているのもわかっている。つまり、新しい趣味ができたんだろう。


「お前が好きになったんなら、応援してやる」

「ほんと?」

ゴツン。


「いったー!!」

急に頭を上げてきたため、俺は二人の頭突きを食らった。

「よし、早いけど、待ち合わせ場所に行こうか」

切り替えが早い。

「おい!」

こいつ、これ言うためだけに急かされたと芝居したのか。新しい趣味か。彼女もだんだんと変わってきているんだな。


まだ三十分くらい余裕があるから、待っていよう。


「あれ、あの二人いない?」

集合場所の時計塔の下が見えてきた。するとスマホをいじっている二人が見えた。由利花が本物なのは確実だろう。


「二人は付き合ってるんだよね?」

「そうだな」

「あの距離感は何?何か気まずそうだし」

由利花が顔を上げてこちらに気づいてきた。するとものすごい笑顔になった。


「どうする?逃げる?」

「その方がいいかもな」

今の彼女に絡まれると、めんどくさそうだ。


「でも、逃げて大丈夫?追いかけてきたら迷子になるかもよ?」

それはそれでやっかいだな。


そう思っていたら、ちょうど電話がかかってきた。


「電話だ。行くか決めといて」

「あ、にげんなし」


電話をかけてくれたことに感謝する。あれ、これ要の声だ。

「どうした?」

「早く来てくれ。互いに気まずい雰囲気になって、ほとんど何もしていない。詳しい話は後で。とりあえず、この状況をどうにかしてくれ」

「わかった」

マジで何があったんだろう。あの由利花がコミュ障を発動するような仲ではないし。


電話を切り、新庄の元に戻る。


「そろそろ行かないとまずいかも」

「そうだな」

要に言われたからもう行く予定だった。だが、それ以上にやばい状態になりそうだ。そろそろ由利花が我慢できなくなって泣きそうだ。そうなると迷子以上に後々めんどくなる。前は三日くらい部屋から出てこなくなったこともあった。すねると引きこもって、仲直りが大変なんだよな、マジで。


「お、お疲れー。早いね、二人」

「うん、そうだね」

「悪い、数分だけど、僚友を貸してくれ」

そう言うと、返事なしに俺を引っ張っていく要。相当焦ってる様子が目に入る。

「いったん、何があった?」

何があったんだ、本当に。由利花がこんなに不安定になるなんて、珍しいことだ。

彼女の気持ちを察すると、もしかしたら何か問題があったのかもしれない。

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