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それから、あいつは普段は砕けていたが、俺の知人と会うときは滅茶苦茶綺麗な言葉遣いで話すようになった。身分違いの姫様とそのお付きのようだった。その振る舞いは街の子供たちに痛く気に入られ、あいつは少年少女に人気だった。
「そういえば、外の人間はどうやって子供を作るの?」あいつと暮らし始めて半年が経とうとしたころ、寝る前にいきなりそんなことを訪ねてきた。俺も年頃の男だったから、ドギマギしちまったもんだ。
「そりゃ……するんだよ」俺は頭に手をまわしながら言った。あいつは俺のことをからかっているのだと思った。
「するって……何を?」綺麗な顔を俺の目の前に持ってきて、あいつは言う。俺はどうにかなってしまいそうだった。
「いやだから……その……セックスだよ」俺は言った。そうするとあいつはうんうんと頷いて、
「セックスって……なんだ?」と言った。マジでなんて答えればいいかわからなくて、「愛がある二人がする行為」なんて言った。そしたらあいつは「そうか!じゃあ私たちもいつかやろう!」なんて言うもんだから噴き出してしまった。
お世話になった人はいろいろいた。自然から食料を運んでくれる姉さんに医者のおっちゃん、いつも俺の店から物を買っていってくれる喫茶店の店主、余った工具や資材等を分けてくれる工場の兄さん、どうやらみんな俺の両親の世話になった人らしい。人と人との助け合いは、しっかり返ってくるんだな、って思ったよ。
「これはどういう仕組みでできているんだ?」あいつは時折店にあるものに対して疑問に思って俺に訪ねてきた。恐らく、ここには多くの『セントラルでは失われた歴史の遺物』が存在していた。あいつが興味を持つたびに、俺は丁寧に商品の仕組みや存在意義を説明した。俺が作ったものや、両親が遺したもの、それらに興味を持ってくれて、目を輝かせてみてもらえることに関して、俺はとても嬉しく思っていた。
あいつは程なくして、街の人気者になった。容姿端麗で言葉遣いもよく、みんなに優しいあいつはそれはそれは人気だったが、男に手を出されることは無かった。うちの店に来る奴らはみんな、俺に「いい嫁を貰えてよかったな」と茶化してきた。俺は恥ずかしかったし、あいつに失礼なんじゃないかって思っていたがそんな度にあいつは照れくさそうにしていた。
そうして一年が経った。あいつは目に見えて具合が悪くなっていったが、それでも笑顔を絶やさなかった。時折、「私たちが犯した罪だから」なんてことを言っていた。それがどんな意味か、その時の俺は全然見当もつかなかった。
あいつは最低限自分の荷物を持ってきていたので、着るものはセントラルから持ってきたものがあったはずなのだが、気付けば街の少女たちにあげてしまったらしい。そしてあいつはボロ街で流行っているファッションを好むようになった。正直、綺麗な奴は何を着ても似合うんだな、と俗な感情を抱いてしまった。そして一年間、あいつはずっと俺が作ったボロボロの時計を付けていた。「そんなのつけていても時間がわからないだろ」と俺は言ったが「私の脳は一級品だから、ちゃんと正確に反対に針が動いているから今の時間もちゃーんと計算できるんだよ」と言った。
さらに半年が経った。あいつは自分の余命をわかっていながら、その時既に二分の一を俺と共に過ごしていて、世界に興味がありそうな割にここを出て何所か行く素振りも見せなかった。その時には特区に気付いていたが、どうやら俺はあいつに痛く気に入られていたらしい。まあ、俺があいつを必要以上に大切にしていたのがこの一年半で強く伝わったのかもしれない。
「俺と結婚してくれないか?」ある時、俺はそんな風に言っていた。ロマンも何もない、ボロ家の中で、あいつと一緒にハンドメイドの商品を作る作業をしながら。そしたらあいつは今まで見たこともないような綺麗な笑顔で、「喜んで」、と言った。
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