第63話 父と息子の決着-side灯屋-8
──それから。一ヵ月後には幽特内では俺と幽雅さんの婚約が発表された。
「さすがドンだなぁ。法律が変わる前提で動くんだもんな」
「良い事じゃないの~そういう権力の使い方は歓迎だわ」
こんな感じで社内は相変わらず平和である。
誰も驚く事なく『知ってた』みたいな空気で受け入れられてしまった。
その二ヵ月後。
何か大きく変わったと言えば、社員が一人増えた事だろうか。
「登坂さん、例のオカルト儀式が行われている場所わかりましたか?」
「はーい。血液反応アリの倉庫の内部資料です。目星を付けた二カ所には何人か見張りも置いてるんで、誰か来れば捕まえる事もできますよぉ。悪鬼に捧げる生贄を集めてる業者っぽいのも見つけましたからその名簿も付けておきますんで。気になるなら調査にまわしてください」
「うお、すご……いつものごとく仕事が早いですね。助かります」
「んふふ」
裏の情報網に強く、特殊悪鬼を視る事ができる登坂を幽特が逃がすはずが無かった。
登坂が飲んだ謎の薬品は自ら調合したもので、取り憑かれた悪鬼を安全に引き剥がす効果があるらしい。
正義のために登坂は自死する気はさらさら無く、最初から体を完全に明け渡すつもりがなかったのだ。
俺が無理に正義を引き剥がさなくても、登坂が意識を取り戻せば追い出されていたのだろう。
どれだけ深い愛があっても、ずっと報われなければどこかで終わりが来る。
俺を正義の代わりに側に置く選択肢があった時点で気付けた事だった。
正義は結局、一番の相棒にすら見限られていた。
悪鬼に取り憑かれた人を救えるものを作り出せてしまう才能が登坂にはあるのだ。味方になれば凄い利益を生む。
意識が戻った登坂をどうやって会長が勧誘したのかは知らないが、怪我が治ると同時に俺の部下として配属されてきた。
登坂はヤマに恨みがあるらしいので、俺の近くでヤマへの復讐を企てている可能性も否定はできない。
それでも今の所はとても優秀な仕事ぶりだ。
殴れとも愛せとも言ってこないし、当初、俺が目的としていた裏の調整役としても活躍してくれている。文句のつけようがない。
正義がいなくなった事で、登坂はまさに“憑き物が落ちたような”という表現がしっくりくる落ち着きっぷりを見せている。
さすがに武器の携帯は許されてないが、いつかは悪鬼退治の担当になるかもしれない。
「うわっ、そろそろあのバケモノが来るので僕は帰りまーす」
「はい、お疲れ様です」
どうやらヤマが近くまで来ているらしい。
よっぽど嫌いなのか、ヤマの気配を感知すると登坂はすぐに退社する。自由な勤務も条件のうちなので誰も登坂が会社を出ても気にしない。
悪鬼として存在が幽特に認知されたヤマは、今では会長の秘書をしている。
だからこうして頻繁に幽特のオフィスに顔を出すのだ。
「よっ、善助!」
「大和!」
今のヤマは『
それに伴って俺達の呼び方も変化した。
「大和が直接来たって事は、危ない仕事が入ったな?」
「まあな。でも、わざわざ来るのは単純に俺が善助に会いたいだけ」
ニコリと笑うヤマは相変わらずイケメンオーラが凄い。
仕事中だというのに俺とヤマが顔を合わせた喜びを隠しきれずにいると、幽雅さんが咳払いをした。
俺達が声の方を向けば、デスクにいる幽雅さんが渋い顔でこちらを見ている。
やましい関係でないと理解していても、幽雅さんとしては俺達の仲の良さが複雑らしい。
ヤマが幽雅さんに近付いて書類を渡しながら言った。
「マー君怒らないで。ちゃんとお仕事の話だから」
「誰がマー君だ。普段そんな呼び方せんだろう。しかもそれではお爺様も同じ呼び方になるんじゃないか?」
「確かに。んー、じゃあドンツグとツグりんとツグツグ、どれがいい?」
「ビックリするほどどれも良くないのだが!?」
こんなやり取りも見慣れた光景となり、社員の間からは小さな笑いが聞こえてくる。
しかし、いくらヤマが人間生活が馴染んでいても悪鬼としての危うさは常につきまとっている。ヤマの性質上、俺を害す存在がいると勢いで殺してしまうかもしれない。
それを理解しつつ、ヤマは人間として生活できるよう
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