第32話
「『あっ』って何よ? なんか思いついたんでしょ? 言いなさい」
女子になったり、姉に戻ったり目まぐるしいトバリナ。
思いついたのだから言うしかないか。
オレは思いついたこと、つまり「体サブリナ」なら問題なくね?
それを言うとさすがに引かれた。
「我が弟ながら鬼畜だわぁ(震え声)ほかの女子が被害者の会を結成する前に私の手で――」
「手で?」
「あんた、いまエロいこと考えたでしょ?」
「いやぁ……エロいも何もこの一連の会話」
「うん」
「ピザ食いながらする話なの?」
ちなみに腹ペコだったのか、それとも「元の」サブリナの体が燃費悪いせいかは知らんけど、トバリナは両手にダブルでピザを持ち、交互に口に運んだ。
いくら何でも頬っぺたをリスのように膨らませた女子と、キスする気は起きない。
「あんた、なんて言って出てきたの?」
少しの沈黙の後、ピザを流し込むようにペットボトルの水を「グイ」とトバリナは飲んだ。
口の周りはピザのトマトソ―スで汚れていた。
「ん……クラスメイトがひとりで不安がってるって」
「え? それだけでお母さん、いいって? お父さんはほら、普段からゆるゆるだし…お母さんがケガのあんたの外泊なんて…」
確かに姉
「それは……あれだよ、ウソついてもどうせバレるからちゃんと」
「ちゃんとって『入れ替わり』のことは内緒って、お父さんが――」
「あぁ…じゃなくて、なんて言うんだろ『大事なひと』だからって」
オレのウソなんて母さんに隠してもバレるが、同じように
「それって…私の事だよね……家族として、それとも女子として?」
トバリナは口の端にトマトソ―スを付けたまま、真っ赤な顔で目を合わさない。
「どっちもだよ」
「あんた、雑っ! こういうことはちゃんと――」
言いかけた言葉をオレはさえぎった。
「
「あっ、ごめん。そう忘れてた。何でだろう、この娘の体になったらなんか鈍感なんだけど…」
口元に指を立てて考える仕草が、まるでサブリナだった。もし、サブリナだったらこんな時こんな顔してたろう。
☆
「ベットはひとつなの?」
オレは普段サブリナが使ってるベットに横になりながらつぶやく。
「うん、この娘のお父さん東京本社に行きっきりみたい。ここを選んだのはどうも関西に自社の物流センタ―立ち上げのためみたいね」
当たり前のようにふたり並んで寝てた。ひざとひじの傷が当たらないようにオレはトバリナに背を向けていた。
「ソファ―でもいいんだけど…」
「あのさぁ、あんたが生まれてこの方
少し不貞腐れた声。
「どっちがよかった? その、繋がってるのと」
もちろん血の繋がりだ。
「ん……微妙。繋がってなかったらワンチャンあるかも、だけど」
「だけど?」
「えっ、言わせる気? こっぴどく振られたら一生会えない感がある」
「うん」
「
「なにそれ、ありえない」
そういって
「あのさ」
「うん」
「あっち向いててあげようか?」
「あっち…?」
「ほら、ゴソゴソしたいんじゃないの? そろそろ」
「はぁ⁉ ゴソゴソってなんだよ! そろそろって、なんだ⁉ その周期知ってる感!」
「いや、姉としての配慮と申しましょうか…」
「都合で姉に戻るな! そんな気遣いいらんわ!」
「だって、仕方ないよ? 隠しても隠しきれないお色気が零れ落ちてるでしょ? ほら我慢しない!」
「いやいや、我慢とかじゃねえし! それにオレ両手包帯な?」
「あっ!(察し)」
「なんだよ」
「あんた『姉さん、オレ包帯でうまく出来ないんだ、すぐだから』とか迫る気でしょ‼」
「あのさ、姉さん。いまサブリナだってことちょいちょい忘れてるみたいだけど」
「あっ」
「まぁ、いいや。姉さんがあんまり刺激するからさ、オレも思春期男子なんでその気になりつつある!」
「ちょ、ちょい待ち!」
「いや、待たん。でも、どうなんだろ? オレはその気になりつつあるけど、それはどっちにかな?」
「どっちって……あんた、もしや」
「どうかな、ごめんね。なんかいい感じの時に『サブリナ』とか言っちゃったら(笑い)」
何でだろ、人ってやつはこうも口を滑らすんだ? わかってる、こうなるのは。トバリナはイイ感じのケリをオレのケツに蹴り込んだ。ケツはケガしてないだろうという配慮だろうが、そこそこ打撲をしていた。
そんなワケでじゃれながら寝た。まるで子猫の
明け方。自分の寝返りで目が覚めた。
擦り傷とはいえそこそこ痛い。二の腕や太ももの打撲も地味に痛い。オレはふと背後で寝る
決死の覚悟で振り向いてみたら「すうすう」と寝息をたてていた。
マンションの窓がほんの少し明るくなっていた。
まだ夜は明けきれていない、ちょうど夜と朝の境目だ。それでも部屋の中はうっすらと明るくなっていた。
寝顔は完全にサブリナだ。
見たことはないけど、
パジャマの胸元がはたけている。明らかにノ―ブラなんだけど、このなんちゃって姉さんには思春期の弟に対する配慮とかないのだろうか?
オレは仕方なく、はたけたトバリナの胸元の一番上のボタンをとめようとしたが、とまらない。
ん? この方パジャマの第一ボタンとまんないほど、でかいんだ…
それでもやっぱ、目の特…いや毒なので頑張ってボタンをしようとした時、不意に寝ていたはずのトバリナと目があった。
一瞬目を覚ましたのだ。
「いや、姉さん。これは…外れてたから」
オレは慌てて言い訳をする。どうせ触るなら起きてる時にしなさいって怒られる覚悟をオレはしたが、目の合ったはずのトバリナな寝起きなのか焦点が合わない。合わないままちょこんとベッドの上に座る。
「あの…」
恐る恐る声を掛けると、ようやく気付いたようだ。しかしニンマリと笑いながら小首を傾げる。
「――あぁ、
五歳児のような反応、五歳児? 待てよ……
「うんとね、一番うえのボタンしないの。苦しいから。
ん……どう考えても反応がおかしい。
「あっ! わかりました!」
ピコンみたいな顔して、ガッテンと手を打つ。そして勢いよくオレに倒れ掛かるように抱きついてきた。
「痛ッ‼」
小さな悲鳴を上げるがお構いなくグリグリと来る! そして相当な勢いで胸が擦れてる‼ しかしニンマリして離れようとしない。
「あの…」
「わかってます、わたし!」
何が? オレわかんないんだけど‼ いや、むしろ君わかってない感満載なんだが⁉
「あのですね、これ夢ですよ~やだなぁ~
「えっ……?」
グイと近づき唇が重なる。これはトバリナではない。本物のサブリナだ。どういうワケか、元に戻った。サブリナは口づけすると安心したのか、再び眠りについた。オレは少し驚いた。キスされたことじゃない。
『私のところなんか来てくれるワケない』
そんなに知ってるワケじゃないが、オレの知るサブリナではない。オレは自宅に残してきた
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