第30話
オレは少し冷静になった。
ケガして病院に行ったばっかだ。
家族や友人の立場になればどう思う?
心配になるだろう。
オレはがむしゃらにペダルをこぎ出したい気分だったが、頭を冷やし電車で行くことにした。
たったふた駅だ。
それにまだ終電を気にする時間じゃない。
きっと気が気じゃないだろう
この地域の海岸線を主戦場にする私鉄。
いつもとは逆のホ―ムにオレは立った。
サブリナのマンションはオレたちの最寄り駅からふたつ先。
海からの風はほんのり冷たい、風呂上がりのせいだろう。
いつもの駅なんだけど、逆方向に行くので切符がいる。
定期券なので切符の買い方に戸惑った。
この時間に帰ってくることはあるが、電車で出かけるのは初めてだ。
オレはなんか、ドキドキしていた。
いつもと違う街の空気になのか、姉
程なく上りの電車がホ―ムに入って来た。
ケガしてる時くらい座ればいいものの、オレはいつものように扉の前に立って揺れる海岸沿いの街並みを見ていた。
乗客の姿はまばら、座る気になればどこにだって座れた。
窓の外を眺めながらオレは少し物足りなさを感じていた。
なんにだろう?
たったふた駅なのに……オレは窓に映る自分に苦笑いした。
オレはサブリナのマンションがある『西二見駅』に舞い降りた。
事前に位置情報をLINEで貰っていたので迷うことはないだろ。
オレはスマホの画面をのぞきながら改札を抜ける。
この駅も人がまばらだ。
そんなまばらな駅の改札口で小さく手を振る女子の姿。
80年代のキュ―トでポップなイラストから抜け出してきたような小粋な女子。
その立ち姿、身のこなし、口元に浮かべた笑み。
どれもこれも見覚えがあるはずなのに、肝心の女子が記憶と違う。
記憶にあるはずの女子はロングの栗毛。
目力強めで黒目勝ち
スッと通った鼻先にぷっくり唇。
だけど目の前にいるのは――
風呂上がりに濡れたシャイニング・ブロンドのふんわりとしたロングヘアを二つに束ね、少しタレ目なダーク・グリ―ンの瞳で微笑んでいた。
「えっと…」
「うん?」
「いや、なんて言ったらいいかなって『こんばんは』かな?」
「なによ、もう。ぎゅうとかでもいいのよ?」
サブリナの顔した
「来てくれたんだ?」
「えっと…うん。どうしたの、なんか素直だけど」
「ん…だって普通にさみしいし、ケガしてるのに来てくれるとか……あっ、もう――」
サブリナの顔した
オレの胸に顔をうずめて「せっかく、頑張ったのに…」そう言って、ほんの少し恨めしい顔した。
片田舎とは言わないが典型的なベットタウン。
都会ではどうかわからないが、少なくとも駅の改札で抱きついて泣いてる姿なんて見たことない。
ましてや泣いてるのは明らかに外国人の女子だ。
でも、幸いなことに人の目を引くほど人はいない。
オレは次の電車が到着するまで、トバリナが泣き止むのを待つことにした。
☆
「お腹すいた――」
気がすむまで泣いた、サブリナの姿の
周辺をスマホで探すとジョイフルがあった。
「ん……マンションと反対方向なのよねぇ…歩くと痛いでしょ? って言っても駅周辺コンビニないんだぁ~~ちょっと離れてる。待って――」
トバリナはオレのスマホを取り上げて周辺を探った。
「んん……思った以上にないねぇ…これじゃ実家の方がある感じ……しゃあないピザ。デリバリ―しよか?」
いつものように矢継ぎ早になんでも決めてしまう。
見た目は違うけど、間違いない
「あっ、よかった」
「どうしたの?」
「ん? いや、クレカ使えるみたい。ほら、この娘現金持ってないでしょ?」
トバリナは肩をすくめた。
「いいのかな、クレカ勝手に使って」
「いいんじゃない? 食べるのこの娘だし。
注文を終えたトバリナからスマホを受け取りポケットにしまった。
トバリナはスマホを差し出したまま、その手を引っ込めない。
オレは少し考えてその手を握った。
トバリナはニンマリとした顔で笑いながら「恋人つなぎ」にした。
「あのさ、腕組んだら痛いかなぁ」
「え…」
「いや、ほら…今この顔だから言っちゃうけど、普通に手とか繋げないでしょ?」
トバリナは探り探り言葉を選ぶ。
だけど、その割には「いつもの」きわどいを大幅に超えた会話だ。
「なに、無反応ね。私とは手――繋ぎたくないの?」
「そりゃ、繋ぎたいけど…」
「ふ―ん。ほんとかなぁ…で、腕は痛いよね」
「痛いけど……」
「誰かと腕組んだことある?」
「ない」
「私も。ん……痛かったら言って」
そう言ってトバリナは遠慮しながら腕に手を回した。
オレはトバリナに連れられマンションのオ―トロックをパスした。
生まれてこの方一軒家なので、なんか最新な感じがする。
エレベ―タ―で最上階のボタンを押す。
トバリナが言うには、最上階ワンフロアすべてがサブリナの家になるらしい。
「それはすごいなぁ…」
「そう? どうかな…この娘ひとりなのよ? 寂しいだけじゃない。まぁ、本体は寂しいとかないみたいだけど」
トバリナは呆れたような顔する。
『入れ替わり』でそういう感覚的な情報にも触れることが出来るらしい。
「ごめんね、姉ちゃん。無茶させちゃって」
玄関先。
靴を脱ぐ間もなくオレはトバリナに背中を抱きしめられた。
きっとこの靴を脱いだ先の部屋で、ひざを抱えて泣いていたんだろう。
オレはトバリナの頭を撫でた。
触り慣れた
どちらの髪もいつまでも触れていたいのには変わらない。
「
「えっ、どうした。そんな『さん』付けで」
「ん……お父さんが言ってたみたいに慣れないとだし…」
「そっか」
オレはトバリナが距離を取ろうとしてるのかと、少し焦った。
でも、ここはさすが
オレの焦りなんてお見通しだ。
「ねぇ、
「なに?」
「キス。しようか?」
「え?
トバリナはフルフルと首を振る。
まるで本物のサブリナがしそうな感じで。
「違うよ、ふざけてない。本気って言ったら、どうする? 困る?」
困る? オレが? いや、どういうことだ? オレは目が見えたその瞬間から
それは…感情的にはダダ洩れだったんだろうけど…
オレたちは『最後の一線』を越えていない。
いや、えっちとか体の関係の『最後の一線』じゃない。
オレが、
血縁関係がないとしても、オレたちはお互いの認識を確認しあってない、つまり「観測」していない以上、血縁関係があるか、ないか『オレたちの世界』では確立されてないのだ、たぶん。
つまり、現実的にはオレが母さんのお腹にいるのを承知で、父さんが再婚したことが動かしようのない事実だとしても、オレたち
オレは
その世界を、
オレはサブリナの顔した
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