第26話 ハ―ド・モ―ドへようこそ。
☆
「つまり、最悪の事態を想定しろってことだよね、お父さん?」
サブリナになった
父さんは慎重に考えて少し首を振った。
「それはそうなんだけど、いま決めとかないとって事に絞りたい。だから『最悪の事態』まで今日は話が行かないと思う」
オレとサブリナになったトバリナ(
さっきまでと打って変わって父さんがあまりに慎重だ。
いや、慎重にならないといけないことがあるのか?
オレたち
だけど口を開いたのは
「その…お父さま。そんなに決めないといけないことがあるんですか?」
「ある。例えば、どうするのかだ。具体的には『この事』をオ―プンにするのか、秘密にするのかを決めないと。それからどこまでオ―プンにするか。僕は今回の『入れ替わり』は秘密にしないとダメだと思う。それこそテレビだとか、研究だとか実験だとかで、下手したら政府とか、普通の生活は送れなくなる。運が良ければ明日には元通りかも知れないかもだけど」
「それは、オレもそう思う」
「ん…私もそうかなぁ…サブリナは?」
「えっと、はい! 私もです!」
オレは今のやり取りを見て違和感を感じ、考え込んだ。
「お前も気付いたか? そう、呼び方も決めないとだ。この四人なら問題ないように感じるかもだけど、ふとした時に
「じゃあ、私が『お父さん』って呼んだらだめなの?」
トバリナ(
「ん…僕を『お父さん』って呼ぶのはそう問題じゃない、周りは『
トバリナ(
「あんたがあっちよ」と父さんの隣のクッションを指さした。
「
「えっ? いや、言ってないけど…それって――」
「えっ? じゃあ私この娘の完コピしないとなの?」
トバリナ(
いや、こんな顔サブリナはしないよなぁ……
「そこまでじゃないにしても『寄せないと』だな。例えばサブリナちゃんが
「それは……ヘンよね。いや『おかしいですぅ!』か?」
「お、お姉さま! 私そんなバカみたいな声してません!」
「いや、あんた…じゃないや――…お姉さまは概ねバカみたいな声出してますぅ、けど? うわっ、これ思ってるよりムズいわぁ…
なんだろ……この拭いきれない闇鍋感は。
うまく行く気がまったくしない。
「ほら、あんたも…じゃないわ。お姉さまもやってみなさい、じゃない。やってみてクダサイ!」
「姉さん、じゃないやサブリナ! なぜに語尾が片言に?」
「えっ? だってこの娘、海外からの転校生でしょ? そもそも日本語うま過ぎなのよ、もっとほら、外国人チックなキャラ付けしなきゃでしょ? キャラ立ってなくない?」
いや、別に本物のサブリナ日本語うまいのに、今更キャラ付けいらんだろ?
だいたいキャラ立ち必要か?
そんなどうでもいいこと考えてたら隣に座る
「その……しょ…
サブリナは
あれ?
なんてことでしょう、これいい!
あっ、サブリナになった本家
器用に三白眼にしてからのジト目が痛い‼
オレはそんな元祖
「あの、姉さん」
「姉さん?…あっ、私だ! な、なんでしょう? 弟の
「オレの誕生日なんだけど――」
「誕生日? 五月二十一日ですよね。そうだ、お誕生日プレゼントは何がよろしいですか?」
「これはでかした、
「あんた…
「その…どういうことでしょうか?」
オレは抜き打ち的にあることをテストした。
つまり魂だか心だかはわからないが、
仮に心だとして、
それは試すまでもなく会話でわかる。
その記憶は自分の記憶で、問題は入れ替わった先の方の記憶があるか、どうかだ。
そこで、体の方の記憶にアクセス出来るかどうかが、これから先「普通の生活」を演じれるかどうかの分かれ道になる。
何が言いたいかというと、元の体が持つ「当たり前の記憶」にアクセス出来なければ、知ってて当然のことを、覚えることから始めないといけない。
例えば
それはとんでもない労力で情報量だ。
自分の事だけじゃない。
さっき試した「弟の誕生日」がわからないなら、家族全員の誕生日や基本情報、何が好きで嫌いか、それくらい知ってて当たり前のことを覚えないと「普通の生活」を演じるのは無理だ。
そのことが分かっただけでも、時短になる。
そう、きっと今オレたちは時間がないハズだから。
☆
「え⁉ それどういうこと、お父さん」
適応力があり、父さんという協力者を得たトバリナ(
「残念だけど、サブリナちゃんとして家に帰らないとだろ?」
「あぁ…マジか……えぇ…」
トバリナ(
ちなみに修学旅行は家族の分厚いミニアルバムを持ち込むことで、何とか乗り切った。
二泊三日でこれだ。
一週間の野外活動ではマジで逃亡をはかったツワモノだ。
そんな家族といるためには手段を択ばない姉
「いや、絶対嫌っ!
実は入れ替わりの事実がわかってからオレはこうなることを察知していた。
だからなんとか抜け道を考えていたが、入れ替わった事実を隠しては無理だし、入れ替わりをオ―プンにしたらどうだろう?
その、サブリナのご両親に父さんのような順応性があるだろうか?
そんな一か八かの質問をしようとした矢先、サブリナのスマホが鳴った。
「あぁ……どうしましょう。父の会社の人が迎えに来ています」
どうやらサブリナの身の回りのお世話をする係りの人らしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます