第11話 思ってたのと、なんか違う。
「君たち、覚えてない? 三崎中だよ? ほら、ミドリのユニの2番」
連想ゲ―ムのような断片的なヒントを出されても、正直まったくわからん。
それは相棒の
駄目だこりゃ、みたいに大袈裟に首を振られても、わからんもんは、わからん。
「3チ―ム総当たりの練習試合したでしょ? 中二の春かな?
「取りましたっけ?」
「取りました!『なんで9番付かないんだ‼』って。それはそれは」
中二の春って覚えてないなぁ……っていうか逆に
そんな感慨に更けてたら、
「あぁ、悪いんだけど後にして。この本能型フォワ―ドのハトポッポ並みの脳みそ活性化するいい機会なんだから」
えらい言われようだ、だけどこの前の実力テストお前より遥かに順位いいからな?
追い返されたものの、納得いかない
「――っていうか、
「そんなこと言われても……」
ないものはない、ない袖は振れぬというヤツだ。
「
「はぁ⁉」
なに、その変人見るような目……いや、オレこぼれ球に触るだけだからね?
あと、練習試合だからな?
「ん? 待てよ、
「そうよ、そこの何とかクンが例のスタミナ君。自分のサイドがら空きにして戻んないから、まんまと
『あぁ~(思い出した)』
「な、なんだよ! その残念な子見る目は!」
「
「な、なんだよ」
「ドンマイ」
「ドンマイ」
「ドンマイ、乙」
オレたちは古い知り合いとの再会を手荒に歓迎した。
☆
「状況は?」
オレはセンタ―サ―クルで相棒
「まぁ、6点差があるんだから、相手キ―パ―も油断しておしゃべりもするだろ」
山本君の取り巻きの河田君だっけ?
先程
当の「アバ
「じゃあ、いきなりイクわけか。どうやったら届くの、こんな距離」
「ん…何となく?」
そんな感じでスカした
『――河田‼』
山本君の叫び声に鼻の下を伸ばしたまんまの河田君は「ん?」みたいな顔をする。
そして次の瞬間『パスッ』乾いた音と共に背後のネットが揺れた。
「――マジかよ…」
はい、マジなんですわ。
ウチのボランチ県下屈指なんだよ、試合じゃさすがにこんなシュ―ト打たんけど。
体育の授業だし、君たち
あれ、オレたち許してないから。
それから10分経つかどうか。
オレが2点、
しかし、オレたちの攻撃はそこで停滞した。
山本君率いる「1―A 」は、自身のゴ―ルマウス周辺に「1―A 」女子による肉の壁を築いた。
豪快な
「1―A 」の女子は怯えたし、オレも内心怯えた。
下手なシュ―トを放って、怪我でもさせたら…
そう思うと手に震えが起きた、もしかしたら、怒りからかもしれない。
こうなることは、少し予想していた。
不利になったらガチガチにゴ―ルを守りに来る。
サッカ―ではそんなに珍しいことではない。
でも、さすがに男子だけでやってくると思ってたが、女子だけとは…さすが、山本君――クソだな。
しかも女性内差別しない山本君は「アバ
「マジ有り得ないんですけど!」
半ギレな言葉と裏腹に、神経質に眉をひそめ体を硬直させた。
しかも今から直接フリ―キック。
キッカ―、オレ。
オレは不敵な笑みを浮かべた、それが心配になったのかショコラが近づいて来た。
「あの…
オレはしらこく、手の平を目の上にし遠くを見るような、狙いを定めるような仕草をした。
「どうするって、ショコラ。オレはフットボ―ラ―であると同時に男だ! 男女雇用機会均等法をこよなく愛する男!」
「えっと、いま男女雇用機会均等法関係ないよね? それってまさか――」
「そう、ピッチに立った以上男だろうと女だろうとひとりのフィ―ルドプレイヤ―! 顔面にシュ―トのひとつやふたつ覚悟の上だろ! あと、体育の授業だ。ケガしても保険金が出る、たぶん!」
ゴ―ルマウス周辺に固められた女子からざわめきが起きた。
「あっ、いたいた。そこの人、さっきオレの
オレは「アバ
「えっ⁉」
それを聞いた「1―A 」の女子は「アバ
オレは出来るだけ大げさなモ―ションを取り、豪快な直接フリ―キックを放つかに見せかけた。
『ふわっ~』ぽすっ……
頭を抱えてしゃがみ込む「アバ
「えっ?」
頭を抱え、眼の淵に涙を浮かべ、信じられない生き物を見る目でオレを見た。
ここが潮目だった。
ゴ―ルマウス周辺で肉の盾になっていた「1―A 」の女子はぞろぞろと「1―B 」の安全なゴ―ル周辺に移動した。
まぁ、オレが「1―A 女子ご一同様」の旗を手に誘導したのだ。
空になったゴ―ルマウスを揺らすのは難しくない。
瞬く間に点数を重ねたオレたち「1―B 」は「6―10」の大差で勝利した。
後半スタミナ切れになった山本君と取り巻き計3名「自称全国区」は、生徒指導室にそのまま連行された。
学年主任は普段から素行の悪い山本君たちに、サブリナの件でお灸をすえるらしい。
ゴ―ルマウスにもたれた「アバ
どうしようか迷ったが、助け舟を出すことにした。
「さっきの、
いや、本心脳天直撃のげんこつを見舞ったろか、なのだが、学年主任もいるし……
まぁ、返事は期待してない。
謝りたければ、謝るだろうし誰かが強要することじゃない。
「あ―し、さ。わかってほしいワケじゃないんだけど、
「信じてる」
「え?」
「ずっと前から、信じてた」
「そうなの? ありがと……そうなんだ、あ―し…いや、わ、私謝る、うん! なんか、ごめんしてくる!」
えっ?
ここは『ずっと前なんか知らねえだろ!』ってツッコむとこな?
いや、考えてわかんない?
オレの薄っぺらな記憶すら「今日初めて話した」って断言できますが?
まぁ、いいや。
オレは試合が終わったらお説教してやんないとと決めていた。
そんなおしりぺんぺんな女子の所にオレは足を向けた。
「サブリナ、ちょっといいか?」
「はい! 凄かったです!
「ん…それは置いとこ。オレちょい怒ってるんだけど?」
「怒る?」
「わかんない? あんな山本君の挑発なんかで自分賭けの道具にして。もし負けたらどうするつもり?」
オレは珍しく説教を垂れた。しかし――
「あっ、アレですか? 大丈夫です! もし負けたら先生に言いつけます! 奴隷制度反対です!」
「え? じゃあ最初から……」
「はい! 聴く耳ないです! 心配してくれてありがとうございます!」
サブリナはオレの手を握りブルンブルンと握手をした。
握手と共にサブリナの胸もブルンブルンと揺れていた。
おかしいな…最近の女子、たくまし過ぎへんか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます