第6話 真相

 アーノルドはエルのまっすぐな視線を受けて語りだした。

「別にあの馬鹿に何を言われてもいいけど、エルに嫌われたくはないな」

「今更嫌うことはないですが、本当の事は知りたいです。一体何があったのですか?」


 誰ともチームを組みたくない理由。

 ギアン達と組んでいた時に、何があったのか。


「さっき言っていた通り、俺はギアンとチームを組んでいた。奴がリーダーでメンバーは五人。前衛後衛揃っていて、バランスいいチームだったと思う」


 冒険者に成りたてのアーノルドとしても、初めてのチームで特別だった。

 頑張らねばと張り切った。


 進んで前衛をこなし、情報収集にも力を入れた。

 チームのためならと雑用も厭わなかった。


 それが間違っていた事だと気づくことなく頑張ってしまった。


「最初は感謝された。けれど段々と俺が依頼を受注したり報告したり、買い出しに行くのが当たり前になってきた。魔物を倒すのも、採集に行くのも俺ばかり。それなのにチームとして依頼達成を報告していたから、あいつらは大した腕もないのにランクだけは上がっていった。俺が討伐してもチーム報酬にて金を分けるから、装備も金も潤った。段々と分不相応な依頼にも手を出し始め、俺も庇うのが苦しくなってきた」


 そんな中であろうことか高位の魔物討伐の依頼を受けてきた。

 空を飛び、炎のブレスを吐くワイバーン。


 アーノルド一人ならともかく、皆を庇いながら戦える相手ではない。


「もちろん止めた。けれども何を驕ったのか、ギアンは自分なら倒せると豪語したんだ。チームの治癒師も反対してくれたのだが、聞いてもらえなかった。挑んだが、もちろん苦戦だ。ランクだけ高くて実力の伴っていない奴らで、どうにかなる相手じゃない」


 アーノルドも頑張ったが、チームはボロボロ。

 連携も取れないため、隙を作るのも見つけるのも困難で、アーノルドも決定打を打てなかった。


「ワイバーンがブレスを吐く前なんだが、普通とは違い大きく息を吸う行動をする。依頼を受ける際の情報書にも載っていたんだが、ギアンは覚えていなかった。その兆候を見て俺は引けといったが、あいつは引かなかった」


 ギアンはアーノルドの言葉など聞く気すらなかったのだ。






「退け、ギアン!ブレスだ!」


 一緒に来ていた治癒師の魔力も尽きかけており、おそらくブレスを完全に防ぐ力は残っていない。

 アーノルドは剣を止め、退き始める。


「退くんじゃねえ、今が好機だろうが!」

 ブレスを吐く前の溜めは確かに隙のように見える。

 だが、その時に挑んではダメなのだ。


「ギアン、ダメだ!急いで退くんだ!」

「うるせぇ!」

 アーノルドの言葉を無視し、退くことをせず、ギアンは斬りつけた。


 だがギアンの剣はあっさりと弾かれる。


「糞っ!」


 ギアンの怒声とワイバーンのブレスが重なる!

 皆を守るために張られた防御壁は、あっさりと壊される。


 場は凄惨を極めた。





「はっ…!」

 呼気を吐き出し、アーノルドは剣を構えた。


 やはり治癒師のシュイの力では間に合わなかった。


 アーノルドは自身で重ねがけした防御壁で無事だったものの、他の皆は倒れており、魔力切れでシュイも息も絶え絶えだ。



 広範囲の防御壁はアーノルドには張れない。


 近距離で食らったギアンは腕から血を流し、倒れていた。


 シュイの前にアーノルドが立ったからこそ彼女は無事だが、そうでなければ脆い防御壁と共に吹き飛ばされていたかもしれない。


 離れた場所にいた魔術師や射手は、シュイの防御壁により多少ダメージが緩和されたようだが、それでも気を失う程の怪我を負っている。


「シュイが無事で良かった…」


 魔力切れくらいならば、後で薬を使えばいい。

 しかしシュイがやられてしまっては皆を回復出来るものがいなくなってしまう。






 アーノルドは剣を持ち、一人ワイバーンと対峙する。


 ワイバーンは、他に動くものが無くなったこの場にて、唯一立っているアーノルドに狙いを定めた


 己の心と体を奮い立たせ、アーノルドは剣を向ける。

「さっさとくたばれ」



 余すことなく自身に身体強化をかけ、斬りかかる。


 狙いが自分だけなので、アーノルドにとっては今の方がとても戦いやすかった。


 動きの予測もし易いし、仲間を巻き込む事もない。

 剣を繰り出し、次々と損傷を与えていく。



 そうして弱ったワイバーンの逆鱗に、アーノルドは剣を突き立てた。


 体力の消費も激しく、勿体ないが解体までは出来ない。

 仕方なしに魔石の回収に留めた。


 傷ついたギアンを担ぎ、シュイや他の仲間に声をかける。


 シュイに魔力回復の薬を与え、ギアンの回復を頼む。

 完治とはいかないものの、出血は止められた。


「帰るぞ…」


 身体強化にて力を漲らせ、ギアンを担いで街へと帰還した。

 無事に街まで帰り着いた事で安心したのもあり、アーノルドは疲労と魔力切れで倒れてしまう。




 起きた時には全く違う話が冒険者の間で流された。


「アーノルドが勝手なことをして、リーダーのギアンが大怪我をした」

 という話だ。


「違う、あれはブレスの兆候を見て退けと言ったんだ。あの場で斬りつけても勝てる見込みはなかったから。ワイバーンはブレス前に張る防御壁を張るんだけど、あれを破るのは無理だ」


(破るにはギアンの腕前が足りなかった…)

 とは言えず、アーノルドは口を紡いだ。


 言ってもギアンが怒るだけだ。

 何故か彼はアーノルドを自分よりも下に見ており、自分の方が強いと信じている。



 ワイバーンも馬鹿ではない。

 ブレスを吐く前に隙が出来るとわかっていて、防御壁を張るのだ。

 これは近年確認された事で、しっかりと情報を集めていればわかったはずだ。


 アーノルドももちろん情報を聞いており、再三忠言もしたのに。



「リーダーは俺だ。俺が斬りつけろと言ったのに、お前は臆病風に吹かれ、勝手に退いたせいで隊列が崩れたんだ。シュイも防御壁を張るタイミングが図れなかった。お前が勝手に動き、俺の言葉に逆らったせいで、こんな事になったんだ。皆お前がしでかしたことを見ていたぞ」


 ギアンの腕には包帯がぐるぐると巻かれていた。


 出血は止めたものの骨まで響いた大怪我だ。

 シュイの腕で治せるものではなかった。


「皆…?」

 アーノルドはチームの仲間に視線を向ける。


 魔術師のノルンがふぅっとため息をついた。


「確かにブレスは厄介だけど、あのままアーノルドが押したらいけたんじゃない?」


「はっ?」



 アーノルドは信じられない言葉を聞いた。

 ブレス前の防御壁の話は皆にしていたし、アーノルドでもそう容易くは破れない。


 援護でもあったなら別だが、どちらかというとアーノルドが援護に回っていた。

 あんな状況で攻撃に集中できるはずもなかった。


「そうだな…俺らは援護もしてたし、あのまま斬りかかれば倒せたはずだし」


 射手であるロウもそう言った。

 あのとき矢すらも弾かれていたのに、何を言っているのかわからない。


「判断をミスったお前のせいで負けたんだ、最初から俺達だけで挑めば勝てたはずなのに」


 ギアンの言葉にアーノルドは驚いた。


 自分たちの実力を見誤ったからこんな目にあったのに。

 全てをアーノルドのせいにしている。


 ここまで愚かな者たちとは。




「アーノルド…」

「シュイ」


 シュイならわかってくれてるのではないか。


 ワイバーン討伐も反対してくれていたし、倒すところも見ていたはずだ。

 シュイがアーノルドに話しかける。


「シュイなら俺がワイバーンを倒すところを見ていたし、俺が判断を間違えたわけではないと信じてくれてるだろ?」


 シュイは視線を少し彷徨わせたが、はっきりとした口調で言う。




「ごめんなさい、あなたのことを信じられない」


 その言葉にさすがのアーノルドも失望感を隠せなかった。






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