第2話 初めて
食堂にてご飯を食べつつ、アーノルドとエルは話をしていく。
エルは聖職者の端くれだったといい、クビの理由は詳しくは言わなかった。
生まれた時から教会にいて、どうやって生活したらいいのか、全くわからない、とりあえず生計を立てねばと思って、ギルドに来たそうだ。
クビになった神官などどこの教会も雇わないが、冒険者ならば門戸は広い。
登録ももちろん初めてで実績もないので、最低ランクからのスタートだ。
「ギルドについては話には聞いていたのですが、いざ登録した後はどうすればいいのか分からず、困ってしまって」
そうしたら、ギルドの事務員がチームについての事を教えてくれたそうだ。
「あまり人が多いのは苦手というと、個人で依頼をこなしているアーノルドさんを紹介してもらいました。会うまでは不安だったのですが、こんなに親切な方とは驚きました。本当に助かります」
「こちらこそ助かる、なかなか男性の治癒師はいなくてな。」
お互いの利害が一致してよかった。
「今後はコンビになるわけだから、呼び捨てでいい。戦闘中とか切羽詰まった時に困るからな。それに対等の立場になるから、敬語も止めてほしいのだが」
そこまでは難しいかもしれない。
品行方正な教会で生まれた時から過ごしたならば、言葉遣いなど変えられないかもと考える。
「出来る限りで頑張ります。ありがとう、アーノルド」
アーノルドが頼んだ事だが、いざ言われるとやや照れる。
エルはとても美しい顔をしているし、所作も美しい。
真面目に神職についていたのだろう、清廉さは隠せるものではなかった。
ギルドにいた時はフードを被っていたが、今は食事中。
フードを外しているエルはこういう場にそぐわず、目立っていた。好奇と好色の視線が凄い。
「まずは自分を守る術を教えなきゃならないか」
「?」
ぽつりと呟いた言葉は、エルの耳までは届かなかった。
次の日、早速ダンジョンに向かうのではなく、エル用の武器を買いに行く。
案の定何も持っていないため、護身用の短剣と、リーチの長い槍を渡した。
「基本俺が前衛で、エルにはサポートしてもらう。が、エルの方に敵が向かわないとも限らない。後衛だからって油断しないようにな」
「はい」
まずは軽めの槍をと選んだが、慣れていないからか危なげな手元だ。
「寝る前とか空いた時間に筋トレでもしてくれ、体に負荷がかかりすぎないくらいにな」
「わかりました」
エルはとても素直に頷いてくれる。
(こんな素直な奴ならチームの組み甲斐もあるってものだ)
かつてのチームメイトを思い出してため息が出てしまう。
準備を簡単に済ませ、目的のダンジョンに来てみた。
戦闘に疎いエルを連れてまずは浅層で肩慣らしをする。
「アーノルドさんは強いですね」
「慣れてるからな」
リザードマンを斬りつけ、命の素となる魔石をえぐり取っていく。
初めての戦闘ということで後衛としての仕事をエルにお願いしてみた。
エルはアーノルドに対して身体強化の魔法を掛けたり、タイミングよく防御壁を張ってくれて上手にサポートしてくれる。
毒や麻痺などの状態異常攻撃への対応も早く、重宝した。
暗い場所では明かりも作り、罠感知の魔法まで習得している。
「凄いな……神官ってのはそこまで出来るのか」
ありとあらゆる補助魔法を使うエルはサポーターとしてとても優秀だ。
「アーノルドこそ剣と魔法をそこまで使えるのなら、僕などいらないのでは?」
アーノルドは苦笑する。
「そうでもないさ、怪我したら早々に撤退するしかないし、深層にいけた事もない」
順調にランクはあげられてもまだまだ不十分だ。
一人で行くにはどうしても限界がある。
「何故チームを組まないのです? こんなに強いのですから、どのチームとも組めるのでは?」
エルではなく、もっといい条件のところを探してよかったのではないかと、疑問を口にする。
「昔は組んでたんだがな……大人数は性に合わなくて」
面倒くさい人間関係、報酬のトラブル、実力の違いによる息の合わなさ。
もうコリゴリだった。
「エルとは役割が全く違う分、動きやすい」
前衛後衛とはっきり分かれた役割分担は、衝突安全することがないので楽だ。
お互いしかいないから相手の動きが見えやすいし、エルの上手なサポートは痒いところに手が届くものだ。
報酬もただ半分に割ればいいだけだし、余計な計算の必要もなく、凄く楽である。
「エルに選ばれて本当に良かった」
「ありがとうございます」
アーノルドは自分の運の良さに心の中で感謝した。
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