チーム嫌いな魔法剣士と教会をクビになった神官

しろねこ。

第1話 コンビ結成

 アーノルドはギルドに所属する冒険者の一人だ。


 金のような薄茶の髪をし、同じような色の瞳をしている。

 やや目つきが悪いものの、見た目がそこまで悪いわけではない。


 動きやすいように軽めの鎧を身につけ、防寒のためのぶ厚めなマントを羽織っている。


 職業は魔法剣士、魔法は程々に使えるが、どちらかというと剣の腕に自信がある。


 ずっと一人で頑張ってきたのだが、彼はついに決意した。







 仲間が欲しい。一人ではもう限界だ。


 そんな思いを胸にアーノルドはメンバー募集を掛けた。



【回復魔法や防御魔法に長けた治癒師募集。ただし男に限る】



「まっ、来るとは思わないけどな」

 そうは言いつつも、アーノルドは少しの期待を持ってギルドの依頼をこなしながら、誰かが応募してくれるのを待った。


 回復魔法を専攻するのは女性が多い。


 後衛であるため直接戦闘をしないことと、傷つく事が少ないこと。


 女性のサポーターは人気があり、重宝される事があげられる。


 体を鍛えることを苦手とした女性冒険者からは人気がある職業だ。


 男性でも回復魔法を使える者はいるが、主に聖職者や医師などをしているものだ。


 それ以外の魔力持ちは見た目の華やかさやなどから攻撃魔法を専攻することが多い。


 回復魔法の特性上、使える者は穏やかな性格のものが多く、冒険者になろうなんて男性は少ない。


 そして聖職者や医師で魔物退治に行きたいなんて者は稀だ。


 ギルドに依頼するならまだしも、自ら冒険者になんてならない。


 だからこんな所で募集を、かけても来るなんてないのだ。


 それでもアーノルドは女性の治癒師を意地でも雇いたくなくて、ギルドにダメもとで頼んでみた。


 ギルドでもチームの斡旋はしているし、推奨もしている。

 一人よりは生存率も効率も上がるのだから、余程でない限りはチーム、もしくはコンビを組むものである。


 アーノルドも以前まではチームを組んでいた。

 リーダーの負傷と、それに伴ってチームとアーノルドの関係性が変わったために、今はアーノルドは一人で活動している。


 アーノルドは腕に自信もあるし、魔物への知識もある。

 ダンジョン攻略もある程度までなら一人で余裕なのだが、終盤はきつい。


 そしてどうしても欲しいものがあった。


 今攻略中のダンジョンの最奥には魔素を溜め込んだ魔石がまだあると言われていた。


 ここ何年もそこまで行けたという話がないらしい。

 だから、まだチャンスはある。


 誰かが持っていけば、また魔石が育つまで時間がかかってしまうため、その前に何としても手に入れたい。


 誰にも触れられず育った魔石はとても価値が高い。


 アーノルドはそれが喉から手が出るほど欲しかった。







「やはり自分でスカウトするか」

 ある程度の寄付金を出して、治癒師に回復魔法を習った事もある。


 しかしアーノルドには向いていないためか、応急処置程度しか扱えず、時間もかかる。

 これでは実戦で役に立たない。


 回復薬を持ち込んではいるものの、あまり持てないし、お金もとてもかかるし、効率が悪い。


 協会や治癒院を周り、無理矢理さら……いや、説得してついてきてもらおうかと考え始めていた。


「アーノルドさん、お客さんよ」

 ギルドの事務員に声をかけられる。


「客? なんの?」


「やだ、メンバー募集の話よ。来たわよ、希望者」


「本当か?! どこにいる」

 促され見た先には、まさに聖職者といった穏やかな雰囲気の男がいた。


 黒髪黒ローブに、白い手袋。優しげな青銀の双眸をこちらに向けている。


 背は高く、長身のアーノルドと同じくらいだ。


「はじめまして、僕はエルと申します」

 にこりと笑う顔からは品の良さが感じられる。


「教会を解雇になり、行く宛もなく困ってました。もし良ければ僕と組んで頂けませんか?」

 教会をクビとは穏やかではないが、腕前が良ければアーノルドは構わない。


 何より男性の治癒師は初めて会った。

 本当に存在するのだと感激すらしていた。



「それはいいが、力を見せてほしい」

 アーノルドは内心の気持ちを抑えつつそう言った。


 腕前が悪すぎたら意味がないと高まる気持ちをグッと抑える。


「あぁ、回復と防御の魔法に長けたとありましたね……どこで見せましょう?」

 ギルド内を見回すと丁度討伐から帰ってきた者がいる。都合よく怪我もしていた。

 しかも治癒師に金を払い、治してもらおうとしている。


 アーノルドはそちらに歩み寄り声を掛けた。


「金はいらないから、こちらで治させてくれ」

 割り込み、アーノルドはエルに治すよう促す。


 皆に訝しげにされたが、エルがすっと前に出て様子を見た。


「怪我と魔獣による毒ですね。治しますよ」

 エルの手から淡い光が生まれる。

 それが怪我に触れると瞬く間に治った。


 皆が驚きの顔になる。


「早いし正確……跡もないわ」

 治癒師の女性が驚いている。


 そしてハッとして事前に受け取っていた報酬を、エルに渡そうとしてきた。


「割り込んだのはこっちだ。いらない」

 そう言うとアーノルドは自らの財布から金を出し、渡す。


「何故あなたが?」


「俺が見たいとせがんだからな、金を払うのは俺だ」

 治癒師の仕事を奪っては生計が困るだろうし、エルにタダ働きをさせるわけにはいかない。


「お断りします、それよりも僕の力はどうでしょうか?」

 エルに辞退されたが、出した金をひっこめるつもりはない。


「あぁ、十分すぎるくらいだ。これからよろしくな。とりあえず飯でも食べながら、今後について話そう。今日はコンビ結成記念に奢るからな」

 戸惑いつつもエルも受け入れてにこりと微笑んだ。


「ありがとうございます。実はこの街に来てまだ日も浅く、ギルドの事以外についても、ぜひ色々教えてもらえれば嬉しいですね」


「もちろんだ、まずは上手い飯屋の紹介からだな」

 二人は固い握手を交わした。



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