第25話 スカウトの旅
「今回はかなりの収穫でしたね。」
犯罪奴隷という名の優秀な人材の獲得と、新たな住人の充てが見えたことで、ジンがホクホクしている。
王都のごく近郊の街に出向く事を提案したのはジンだった。
労働者の確保は勿論だったが、増え続ける住民の生活を支えるための人材を確保する必要を感じていたジンは、自分の腹心や側近の獲得を考えていたのだ。
実際、貴族の
さらに、街であぶれている人々を手当たりしだいに勧誘し、馬車を仕立てること十数台。
中身は農民から店舗経営者、鍛冶士や大工とこれまたタレントが粒ぞろいとなっている。
「確かに、かなりの収穫ですね。」
宿屋の一角にある食堂でお茶を嗜む園田とジン。
「パパ、孤児たちの引き取り終わったよぉ。」
「孤児院の方たちも同行してくれるって。」
リンダとメリルがニコニコしながら話しかけてくる。
「ご苦労さま。
さぁ、お茶を飲もうか。」
「はぁ~い。」
二人の娘をにこやかに迎える園田。
「ところで、ルイはどこに?」
「寺院に行ったよ。
何でも、怪我をした孤児を引き受けに行くとかで…。」
「そっか。」
「出来れば、寺院ごと移って頂けると有り難いですなぁ。」
すっかり上機嫌のジン。
無理もない、アルザリアは寂れきった寒村だ。
心の平安を求めるなど、とても言っていられる状態ではなかった。
「じゃ、この後、パパも寺院に行ってみるか。」
「私たちも行くぅ。」
娘がカップを持ったまま園田に抱きつく。
当然、カップの中身はあふれるので…。
「アチッッッ!!」
三人が同じ悲鳴を上げる。
◇ ◇ ◇
さて、園田を従えリンダとメリルが寺院にやって来る。
「ルイおねぇちゃん…居ないねぇ。」
「そうねぇ。」
姉妹二人が寺院の周辺を散策しはじめる。
その様子をぼんやりと眺めている園田。
すると寺院の扉が開き一人の尼が出てくる。
「貴方がソノダ殿ですか?」
「はい、そうですが。
貴女は?」
「これは失礼しました。
私はエルマ、この寺院の女祭祀です。」
エルマが会釈をする。
「ところで、どうして俺の名前を?」
「ルイちゃんから聞きました。」
エルマの後ろからルイがひょっこりと顔を出す。
すると
「ルイねぇ!」
「おねぇちゃん!」
リンダとメリルが走ってきてルイに抱きつく。
「立ち話も何ですから、こちらへどうぞ」
エルマに促され寺院の境内に入る一行。
そして境内にはたくさんの亜人獣人の子たちが肩を寄せ合いながら佇んでいる。
「ジン殿、文句は言いませんよね?」
園田が問いかければ
「どのような文句を所望かな?」
薄笑いを浮かべるジン。
そして、二人の会話に息を呑む娘たちと、諦めの表情になるエルマ。
しばしの時間が流れ、園田が姉妹に向かなおる。
「お前達、トレーラーの準備を大至急しろっ!
久々の大旅行だぁ!」
「はいっ!」
娘たちは父からキーを受け取ると元気に走り出して行った。
それを見届ける園田を横目にジンがにこやかにエルマに語りかける。
「我が領主は、喜んで皆様を迎えるでしょう。
願わくば、寺院ごと移転頂ければ、望外の慶びです。」
そう言い終わると、エルマの前に王侯の礼をするジン。
慌ててエルマはジンのもとに駆け寄り、手を取る。
「どうか、お立ち下さい。
過分なご厚意に感謝するのはこちらです。」
「では、ご同行願えますか。」
「はい、神の端女である身です。
どうぞよろしくお願い致します。」
二人が手を取り合って立ち上がると、子どもたちの間から歓声が上がる。
「これより、こちらの領主と掛け合い、寺院の譲渡について交渉してきますぞ!」
立ち上がり礼をするとジンも駆け出していく。
境内に残されたエルマと園田。
「とりあえず、連中が戻るのを待ちましょうか。」
「…はい。」
「あ、あと、移動をお願いすることになるので、出立の準備も。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます