第21話 子爵のお願い

 応接間に通され、領主の謁見に臨む、園田とレミ、リサ、そしてユイ。

「ロマリー殿下ご入室です。」

 四人が頭を下げると、玉座に向かう複数人の足音が聞こえる。

 席に座る音が、気のせいか

「面を上げなさい。」

 幼い少女の声が聞こえ、全員が顔を上げると…。

「ロマリー子爵殿下です。」

 隣に立つ男性が付け加え、呆気にとられる四人。

 男性の咳払いで、我に返り、改めてお辞儀をする四人。

「我が声に答え、よくぞ来てくれたな勇者よ。」

 少女が高らかに宣言する。


「ゆ、ゆうしゃぁ??」

 四人が同じ言葉を吐いて固まり、その反応に戸惑う少女。

「どういうこと?

 どうなってるの?

 …宰相…ジン」

 隣に立ち、宰相ジンと呼ばれた男に八つ当たりを始める少女殿下。


「あ、あのぉ…。」

 園田が少女殿下に話しかける。

 その声に反応し次の言葉を待つ少女殿下。

「一体、何の話をしているのですか?」


 こほんと咳払いをして少女が話し始める。

「見て頂いた通り、この街は国境に隣接した僻地です。

 王都からも離れ、痩せた土地に作物は実らず、住民もごく僅かなこの土地に、盗賊団が出没しているのです。」

 少女の顔が陰り、居並ぶ人々もうつむいてしまう。

「お願いです。

 盗賊団を討伐して下さい!!」

 すがるような声で園田に依頼する少女。

 そんな少女を前に後頭部をかいている園田。


「すいません、私たち旅行者なんです。」

「それって…。」

「ええ、冒険者のような戦闘力は持ち合わせていません。」

「そうですか…。」

 少女は肩を落とす。

 少女と園田の会話を聞き続けている女性陣の目が段々と、半眼になってくる。


「コウジ、女の子の悩みには答えるのが男の甲斐性ってものよ。」

「そうじゃ、あるじよ。

 リサの言うことに従うのじゃ。」

「旦那さま、殿下のお手伝いをしませんか?」

 少女の瞳に希望の火が灯り、笑顔が見えてくる。

「…。

 ロマリー殿下、詳しく話を聞きましょうか。」


 園田がようやく口を開くと、安堵の声が広がる応接間。

 少女は席から降り立ち飛び跳ね、女性陣も肩をすくめ、やれやれといった感じで顔を見合わせている。


 ◇ ◇ ◇


 ロマリー子爵領の街、アルザリア。

 街の周囲は赤く焼けた土地が広がり、所々に背の低い藪が点在している。

 街と書いてはみたが、実情は『寒村』でしかない。

 簡素な柵に囲われ、柵の内側にある僅かな土地を開梱した畑。

 柵の中央に領主の屋敷と十数軒の住まいが寄り添うように建っている。


「この街を襲撃する盗賊団って、何が目的なんだろうな。」

 盗賊団の目的が皆目解らない園田がレミと街を調査さんさくしている。


「これよ…。」

 レミが落ちている石を拾い上げ、園田の前に差し出す。

「これは?」

「鉄鉱石よ。」

 レミが指で石を砕くと、赤い表面からは想像もつかない、真っ黒い肌の石が姿を表す。

「これは…。」

「かなり上質じゃ。

 おまけにコークスまで…。

 なんじゃ?」

 レミが饒舌にしゃべる姿を不思議そうに眺める園田。

「レミって、何でそんなに製鉄に詳しいんだい?」

「…そ、それはじゃなぁ…。」

 いきなりどもりだすレミ。

 そして吹き出す園田。

「何がおかしい…。」

「いやぁ、すまない。

 …しかし、鉄鉱石欲しがる…とはねぇ。

 盗賊なのかねぇ、相手さん。」

「そうじゃのぉ…。」

 園田の反応に、ニヤリと頷くレミ。


 そのまま二人は街の外周を見て回り盗賊が侵入してきた所や、戦闘現場、近隣の風景を調べていく。

「東方から侵入してきたわけですね…。

 しかし、平原を突っ来ているんだよなぁ…走っても無理があるよなぁ。」

「馬車か馬なら移動可能じゃ。」

「ふむぅ…本当になのかなぁ。」

「さぁ、どうかの。」

 園田が悩んでいると、茶目っ気たっぷりの顔で答えるレミ。

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