凡人園田の冒険記

たんぜべ なた。

第1話 ここは、どこなんでしょう?

俺は、園田 幸次。

先程まで人材派遣会社の営業マンだった。

営業車ハイ○ースで峠を越えていた最中に後続のダンプに追突された挙句、路肩から踏み外れ、崖下に転落した。


…はずだった。


気が付くと、眼前には鬱蒼うっそうとした森が広がっていた。

俺は、ハンドルを握ったまま気絶していたらしい。車のエンジンは止まっていた。


(はて?天国といえば、花園のはず…こんな鬱陶うっとうしい程に木が生えているものだろうか?

それとも、この森を抜けると、小川が流れていて、川岸では、鬼どもがお子さまを小突いているのだろうか?)


ぼんやりと考えているうちに、落ち着いてきたので、とりあえず車内を確認する。

後ろの荷物は手前側に押しやられている。


「そっかぁ、追突されたもんなぁ…。」

軽油の匂いがしてこないところをみると、燃料タンクは無事なようだ。

改めて周囲を見回すと、相変わらずの鬱陶うっとうしい木々の海!


窓の下を覗けば地べたが露出している。

湿気はあるが、ぬかるんでいる様子はない。


車内用サンダルから、高所作業靴に履き替え外に降り立ち、車体後部を確認した。

幸いにもバンパーも、後部ドアも特段の凹みはなく、燃料タンクも無事なようだ。


「とりあえず、荷物の整理をしないとな…。」

後部サイドドアを開けると、予定通りに荷物が転がり出てくる。


「仕方ないかぁ…。

さて反対側は?」

反対側のドアを開くと同じように荷物が転がり出てくる。


とりあえず、車にしまい込む為に、荷物の整理と整頓にはいる。

幸い、前席と荷物の間には段ボール箱を何箱分か畳んでおいたので、これを使う事にした。


段ボールを組み上げ、散らばっていた衣類をたたみ、一箱目の梱包を済ませたころ…。

近くで枯れ木を踏みしめる音が聞こえる。


手近にあったシャベルを掴み、音のする方向へゆっくりと向き直る。

動物の類を想像していたが…。


「犬人間??」

藪からはイヌっぽいヒトの顔が見える。

「…」

向こうも目が合ってしまい、おまけに武器を見せつけられ、固まっている。


「あ、あの~~」

「!!!」

声に怯えるイヌ人間。


「あ、わたくし園田といいます。」

「…」


(日本語通じない??…通じるわけ無いか。)

「あ、あの~~」

「アナタハ、ナニモノ?」

(どうにか、会話は出来そうだ。)


シャベルをゆっくりと地面に置き、ゆっくりと両手を広げ立ち上がる。

「私は、園田といいます。福岡からやって来ました。」

「ソノダ?フクオカ??」

「はい、そうです。」

「アナタ、ワタシヲオソワナイ?」

「はい、襲いませんよ。」

おずおずしながらも、イヌ人間が藪から出てくる。


「ぃぃ!!」

藪から出てきたのは、ほぼ全身が毛に覆われたイヌ娘。

「ワタシハ、リサ。」

彼女はそう名乗った。

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