第27話 武芸大会のルール確認

 「さて、本日の議題は前回に伝えた通り、ルール確認である」


 翌日の昼休み。

 予告通りに、2回目の会議が開催された。

 実行委員長のエシオン・ロワヨーテが、今回の議題を確認する。


 「初めての参加となる者もいるので、例年のルールを説明する」


 武芸大会は、剣術や魔法を用いて競い合う催しだ。

 己の得意とする術を用いて、先に相手を負かせた方が勝ち。

 最後まで勝ち上がった者が、優勝者となる。


 一見、女生徒に不利な大会に見える。

 しかし、魔法の研鑽を積んでいればそれは剣術にも勝る。

 剣術をどう使うか。

 魔法をどう使うか。

 はては、両方を駆使するか。


 武芸の熟練度を競い、披露するための催しである。


 この大会には、生徒の親のみならず国の中枢を担う者たちも観覧に来る。

 何よりも、王族自ら観覧に来る。


 その所以があって競技場には、特殊なシールドが厳重に張られているわけだが。


 そういった面々も来るため、生徒からすれば将来を掛けた見せ場である。


 家の威信をかけたもの。

 希望する職を志すもの。


 己を記憶してもらうために、欠かせない催しなのである。


 そんな武芸大会であるが、出場するのは皆、貴族の子息女である。

 怪我なんて負わせるわけにはいかない。


 そこで、出場時に生徒へバリアが4枚支給される。

 バリアが3枚先に破られた方が、負けとなる。

 あるいは、破られなくても負けを宣言すれば勝敗が決まる。


 3枚破られた時点で、センサーが作動して試合終了の合図が出される。

 それでもなお攻撃を続けた場合、失格処分となる。


 しかし、失格となってでも相手に怪我を負わせたいという邪なことを考える場合がある。


 貴族なんてものは、足の引っ張り合いだ。

 本人の意志で相手を傷つけたいこともあるだろう。

 大人の思惑で命じられてる場合もあるだろう。


 万が一にも、武芸大会をそのような場に使われては困る。

 よって、「保険の4枚目」があるのだ。


 勝敗が決まったあとにも攻撃の意志が確認された場合。

 学園の警備隊が取り押さえに来る手筈になっている。

 そして、学園の治癒師が1名または2名控えることになっている。


 過去5年の間に、警備隊や治癒師が出動した例はない。

 清く正しく、武芸大会は催されている。


 「さて、こんなものだろうか。何か質問はあるか?」


 エシオンが、ぐるりとメンバーの顔を見渡す。

 誰の手も上がらない。

 そのことを、ルナリアも確認する。


 「私からよろしいでしょうか」


 そして、ルナリアが手を上げた。


 「ルナリア嬢、是非なんでも聞いていただきたい」

 「生徒に配られるバリアのことなのですが、4枚目の耐久性はいかほどのものなのでしょうか」


 その質問に、エシオンを始め、リヒャルト殿下も目を瞬かせる。


 「4枚目も他のバリア同様、学年に合わせた強度設定になっているが……割る予定でも?」

 「失格になるようなことはいたしませんわよ」


 確かに、そう疑われても仕方のない質問だったかもしれない。

 しかし真っ向から失礼な質問を返されるとは思わなかった。

 ルナリアは、苦虫を噛んだ気持ちになる。


 「保険というからには、他のものとは耐久度が違うのかと思いまして。万が一にも怪我をしたくないでしょう?」

 「ふむ、それは一理ある。しかし、4枚目が割られて失格になった者を聞いたことがないな……リヒャルト殿下はどう思われますか」

 「保険といっても、身体的な面と精神的な面がある。現在の強度でも正しく機能していると考えるよ」


 エシオンに話を振られたリヒャルト殿下が、答える。

 それに、と殿下は続けた。


 「過去20年をみても、4枚目が作動したことはないよ」

 「まあ、それほどの量を読み込んでいらっしゃったのですね」


 ルナリアは、殿下が読み込んだ資料の量を聞き、驚く。


 「入学前から観覧にも来ているからね。資料は王宮にもあったし」

 「そのデータをもって、現状で適切とのお考えならば、異論はございません」

 

 ルナリアが、リヒャルトの目を見てそう答える。

 その後に、エシオンに向けて首を縦に振った。


 「ありがとう、リヒャルト殿下、ルナリア嬢。他に、質問のある生徒はいるか」


 他に声を上げるものはいなかった。

 今年も、例年通りのルールで行うということになった。


 今日の議題はここまでにして、昼食を取った後は解散とすることになった。

 次回の議題は、武芸大会のトーナメント表の確認となる。

 

 このトーナメント表は、第一稿を先生方が作成する。

 生徒の総合的な実力に応じて、作成されるからだ。

 実行委員会では、生徒全員分の成績を知る権利はない。


 学年ごとに作成されたトーナメント表が出来上がったら、招集がかかる。

 そのトーナメント表を確認し、実行委員会で承認をする。

 承認内容は、生徒会にも共有される。


 そして、武芸大会当日に張り出されて全校生徒に通達されるのである。


 トーナメント表が決まれば、その後は設営準備だ。

 設営そのものをするのではなく、段取りなどの指示出しを実行委員が行う。


 おそらくこれも、例年通りでという結論になるだろう。

 ルナリアは、そう予測している。


 過去に不備はなかった。


 そういう結論で決定していくのが目に見えているからだ。


 委員会の中で、例年と違うものがあると気付いているのはルナリアだけなのだろう。


 まあ、前世の記憶があるから気付いているだけですし。

 皆さまが悪いというわけではないことは重々承知しておりますけれども。


 何せ、相手は千年に一人現れるという希少な魔法の使い手だ。

 その実態がわからなくても仕方がないだろう。

 危険なものであるという印象もない。


 そう、今年はリーリエ・ソルアがいるのだ。


 光魔法は、聖なる光。

 防御に長けた魔法である。

 そんな魔法に攻撃性があるとは、連想しずらいだろう。

 

 リーリエ・ソルアは、魔法実技の時間でも成績が芳しくないと聞く。

 ならば、危険視する方が難しいだろう。


 しかし、ルナリアは『識って』いる。


 武芸大会で、ルナリアはリーリエ・ソルアに当たるのだ。

 当然、ルナリアの方が魔法の鍛錬をしてきた時間が長い。

 優勢に思われた。


 しかし、リーリエ・ソルアのバリアの2枚目を砕いた時だ。


 防戦一方だったリーリエ・ソルアが、反撃に出る。


 使い慣れていない、攻撃魔法を使うのだ。


 その魔法は、暴発して制御を失う。


 防御に長けた土魔法使いであるルナリアにしても、防ぎきれなかった。


 暴走した光魔法は、一度にルナリアのバリアを4枚砕く。

 更に、ルナリアの腕に怪我を負わせるのだ。


 魔王を倒せるだけの強い力だ。

 生半可なバリアでは防げないと、少し考えれば至れたかもしれない。

 しかし、リーリエ・ソルアの人柄故か、危険性を誰も考え至らなかった。


 それは、先生方も同じである。


 そうして、ルナリアは逆転された上に、怪我を負う。


 そして、ここからが真の見せ場である。


 慌てたリーリエ・ソルアは、ルナリアに駆け寄ってくる。

 そして、その腕に回復魔法を使うのだ。


 リーリエ・ソルアが国王に呼び出されるに至った原因。


 光魔法でしか使えないただ一つの魔法。


 回復魔法。


 それを、大勢の観客の中で、使用するのだ。


 ルナリアの腕は、傷1つなく綺麗に回復される。


 リーリエ・ソルアは、出身の村で回復魔法をよく使ってきた。

 それが希少であるということを知らずに、簡単に使用してきた。


 魔法による腕の怪我など、簡単に治せるのだ。


 光魔法は、リーリエ・ソルアは、観客から称賛を浴びることになる。

 言い伝え通りの存在だと、脚光を浴びることになるのだ。


 ルナリアとの対戦は、リーリエ・ソルアのための舞台。

 ルナリアは、完全なるかませ犬なのである。


 それを回避するために、実行委員に立候補したのですけれども。


 もちろん、殿下と共に過ごす時間が欲しかったのは本当である。

 しかし、ルナリアの真の理由はリーリエ・ソルアとの対戦を避けるためであった。


 こんなところで顔を合わせてしまっては、今までの努力が無駄になりますし。


 それになによりも。

 ルナリア・エスルガルテともあろうものが、かませ犬にされるなど。


 そのようなこと、あってはならない。


 バリアの強化という作戦は、先程断たれた。

 まあ、あまりあてにはしていなかった。


 ルナリアの防御魔法を更に強化するか。

 それでも、光魔法の暴走を防ぎきれるかはわからない。


 いや、シナリオがそうなっている以上、防ぐことは不可能だろう。


 そもそも、リーリエ・ソルアの顔を見たくない。


 顔を合わせれば、ここ2ヶ月分の鬱憤が爆発してしまうだろう。

 更には、武芸大会で付けられた「心の傷」が残る。


 プライドをへし折られるのだ。

 将来の王太子妃として、研鑽を積んできた。


 それなのに、一度に4枚すべてのバリアを砕かれる。

 そうして自身に傷まで負わされる。

 更には、その傷を治療されるのだ。


 そんなもの、ルナリアのプライドはボロボロだ。


 リーリエ・ソルアは、大会のルールに則り失格処分となる。

 しかし、そこで得た称賛は取り消されることなんてない。


 そしてルナリアの奮闘は、誰の記憶にも残らない。


 そのような事態になってもなお、あの女を野放しに出来るかと聞かれますと……。


 否、だろう。


 折角今まで関わらないようにしていたのに。

 武芸大会での敗北を期に、リーリエ・ソルアをいじめることになってもおかしくない。


 きっと、してしまう。

 その不本意な自信が、ルナリアにはあった。


 やはり、あの女と顔を合わせないことが一番の防衛ですわ。


 リーリエ・ソルアの光魔法お披露目というイベント。

 それそのものを回避することは難しいだろう。


 しかし、そのかませ犬から回避することはできるはずだ。


 そのために立候補したのですから。


 ルナリアは、計画が順調に進んでいることに安堵する。

 ゲームの中でも大きなイベント。

 これを回避するということは、今後にも大きく関わってくるだろう。


 あの女に都合よく使われてたまるものですか。


 ルナリアは、闘志を燃やす。

 あの女の引き立て役など、まっぴらごめんである。

 何が何でも、リーリエ・ソルアから逃げきってみせる。


 そして平穏無事に、この学園を卒業するのである。


 見ててください、殿下。

 私は、必ずやり遂げてみせますから!


 殿下と昼食を共にしながら、ルナリアは決意を固めるのであった。


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