第129話

英理と凜のいたゼミは学科ごとに編成される二年から四年までの在籍するゼミで、一学年十名ほどだった。


飲み会は月に一回はあったが、サークルをかけ持ちしている者がほとんどで参加は自由だった。


英理も飲み会が好きなほうではなかったので、年に一、二度顔を出す程度だった。


凜はいつも場の中心、にぎやかに盛り上がっているところにいる女子たちの一人で、誰よりも飲み会を楽しんでいるように見えた。


実際よく男子からも女子からも冗談を言われ、冗談で返したりしていたように思う。


英理はいつものように気配を消し、保護色になってその場に溶け込むことに徹していた。


だから気づかなかった。


「でも何か、そういうのってばれちゃうんだよね。無理してるっていうか、キャラ作ってるなって。一生懸命やってみたんだけど、女の子ともそりが合わなくて、男の子にも好かれなくて、冷ややかな感じになって。そしたら、ちょっと嫌な感じでいじりみたいなのが始まって」


いつも馬鹿にされ、ネタにされ、笑い者にされる。


おいしいじゃんと言ってくれるけれど、ブス、デブとしつこく侮辱的に貶められても誰も謝らないしフォローもしない。


嫌がったり怒ったりしては、その場の空気が壊れるから何も言い出せない。


そんな日々が続いていた。


「だったら飲み会なんか行かなきゃいいじゃんって思うけど、でも、それなくしたら私、また一人になっちゃうんだよ。大学に入って一年間で一生懸命作ってきたのに、それがなくなったら何のために頑張ってきたか分からなくなるじゃんって思って、しがみつくことしかできなかった」


あれは秋口だっただろうか、たまたま参加した飲み会で、凜の近くに座り合わせたことがあった。


話の流れは忘れてしまった。どうせ大したことではなかったのだろう。


ともかく何かの拍子で、髪を明るい色に染め抜いた若者が凜に言い放ったのだ。


「いや、俺ブス専じゃねえし」と。


明るく、からっとした言い方だった。


周りは当然のように笑い、凜もむっとした様子などなく、「ですよねー」と受け流した。


するとウケたことで調子づいたのか、もう一度その男は言ったのだ。


大丈夫、俺、ブス専じゃねえから。

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