第118話

「弥生さんのマンションの場所、教えてください」


息を整えると、英理は真っ向勝負に出た。


久世は軽く腕を組み、愉快げに英理を見下ろす。


「申し訳ないが、それはできませんね。依頼主のプライバシーを勝手に外部に漏らすわけにはいきませんので」


「弥生さんが失踪して、今日で三日目です」


切り口上で英理は言った。


「これ以上見つからないようなら、警察に捜索願を出すつもりでいます。あの人は今のところ一応、俺の義母ですから」


言葉の端々にこめられた皮肉の響きを受け流し、「そうですか」と久世は相づちを打った。


「向井さんは、たいそう家族思いでいらっしゃる。それほどお心にかけていただいていると知れば、弥生さんも喜ばれるでしょう」


こちらをどうぞ、と英理は名刺大の紙を渡された。


「弥生さんの携帯電話の番号です。もしかすると複数持たれていたのかもしれませんが、私とのやりとりではこちらの番号をお使いでした」


「いいんですか」


恐る恐るその紙を盗み見るように目を走らせると、なるほど十一桁の数字が整然と並んでいる。


「そこまで向井さんがおっしゃるのであれば仕方ありません。弥生さんからは甘んじ

てお叱りを受けましょう」


口調こそ重々しいが、目がおどけている。


「弥生さんのお住まいになっていたマンションですが、実は昨日付で引き払っております。荷物等はまとめて、トランクルームのほうに送らせていただきました。ですので、そちらに行かれても無駄足になるだけかと」


英理は目をみはった。


「それは、弥生さんの依頼でということですか」


「ええ、もちろん」


と久世は請け合った。


心に寒々しい風が吹き抜ける。


弥生はどこまでも遠く、自分から逃げるつもりなのだろうか。


あるいは彼女が目指すのは、全てを断ち切らねば向かうことのできないような場所なのだろうか。

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