第93話
こういう時、気の利いたフォローでもできればいいのにと一万回は願ったけれど、やっぱり何も言葉が出てこない。
「ただ、ああいう類の人間と戦っても、ろくなことはないよ。それだけは言える」
宗助は断言した。
まるで患者に、病気が命に係わるものではないと説明するかのような、揺るぎない語調で。
「こういう裁判は時間がかかる上に、えてして泥仕合になる。その上、結果的に勝ったとしても、かけた費用を回収すればドローどころか損をする場合さえある。精神的にもぼろぼろになるだけだし、時間ももったいない」
そうですね、と英理は相づちを打った。
もとより揉めるつもりはなかったが、久世と会ってからは、より嫌悪と忌避の気持ちが強まっていた。
あの人間と関わらないほうがいい。
誰に助言を受けずとも、英理自身よく分かっていた。
難敵と、有理は久世を称してそう言った。
確かに久世は敵に回すと厄介だ。
遺産の件について、これ以上深入りすることはやめるべきだろう。
かといって、英理は全てを諦めるつもりはなかった。
久世も有理も、弥生自身さえ知らない父親の残した手がかりを、自分は知っている。
それを手繰れば必ず、知るべき真実が見えてくるはずだった。
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