第73話

ほら、と凜は画面の下の「チャット」を指さした。


「ワールドチャットっていうのと、ユニオンチャットっていうのと、パーソナルメッセージっていうのがあるでしょ?

ワールドチャットは、アクセスしてるプレーヤー全員に『一緒にやりませんか?』って呼びかけるやつで、ユニオンチャットは今所属してるユニオンの四人内で通じるチャット。パーソナルメッセージっていうのは、メールみたいなやつだね。個人的にやりとりするためのツール。

これを使い分けて、仲間を集めてダンジョンをクリアしていくと、次の章に行けると」


聞いているだけで疲れてきた英理は、アイスコーヒーで喉を潤す。


「ゲーム内でまで人間関係に気を使って、協力し合わないといけないのか……」


「だから言ったじゃん、リア充ゲームなんだって。結構コミュ力試されるよ」


自嘲気味に凜は付け加えた。


「私みたく、ぼっちの陰キャには無理だね」


聞けば聞くほど、ますます訳が分からない。


こんなに複雑なコミュニティーに父が属し、仲間づくりに勤しみ、こつこつとレベルを上げて攻略を続けていたというのだろうか。


「親父もユニオンに入ってるってことだよな」


「そうだね」


「そのメンバーが見たいんだけど。ユニオンチャット?っていうのの履歴って残ってないのかな」


「英ちゃん」


凜は今度こそはっきりと難色を示した。


「さっきから言ってるでしょ。プライバシーは守らないと」


頑強な反対に遭って、英理はすごすごと引き下がった。

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