第74話
どちらにせよ、これでログインの仕方や画面の見方は分かった。
あとは自分で何とか調べることができるだろう。
そう思っているのを見透かしたように、
「ねえ」と凜が袖を引いた。
「そんなに気になるなら、直接聞けばいいじゃん。お父さんに」
深い瞳で見つめられ、英理は思わず視線を逸らす。
後ろめたさが膨らんでいく。
「何が不安なの?」
凜は率直に問いかけた。
「英ちゃん、さっきからずっと目が迷子になってる」
引っ込めかけた手をテーブルの上で握りしめられ、英理はうつむいた。
「私には言えないこと?」
「……そうじゃない」
凜だけではない、誰にも言えるはずがなかった。
言ったって、誰が信じてくれるだろう。
中学校の同級生、職場の同僚、父の再婚相手。
立場を変えて目の前に現れるたび、不吉なことが起こる。
まるで彼女自身が予兆であるかのように。
「江本さんが悪いんじゃない、彼女は何もしていない。分かってるんだ。彼女はただ、そこにいただけだ。だけど」
言葉を切って、英理は両手で顔を覆う。
「だけど、思っちゃうんだよ。心のどこかで、いつも思ってた。
あいつがやったんじゃないか、あいつさえいなければ、あんなことは起こらなかったんじゃないか、誰も死なずにすんだんじゃないかって」
我を忘れて叫ぶ英理に、周囲の視線が突き刺さる。
「英ちゃん……」
目の前が霞み、凜の言葉が遠く聞こえる。水の中にいるように動きが緩慢になる。
両手で頬を挟んで、凜は英理の顔を持ち上げた。
冷たくて心地よい手のひらだった。癒すこと以外は何も考えていないような。
「死んだって、どういうこと?教えて」
ああ――英理はぎゅっと目をつむった。
それでも理解は届かない。
どれほど深く凜が自分を愛し、心配してくれたとしても。
虫の知らせとでも言うべきだろうか、突然、胸が締めつけられるように苦しくなった。
瞼の裏に、父の寂しげな表情が蘇る。
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