第3話

かくして毎度のようにパソコンをフリーズさせる天才や、社内外を問わず機密メールを誤送信してしまう人騒がせな爆弾魔が大量発生してやまないのである。


「部長。それ、プリンターが壊れたんじゃないみたいですよ」


近くの席で知らぬ存ぜぬを通していた男が、さっと立ち上がって言った。


熊のように図体がでかく、いつもにこにことしていて打たれ強い。


入社七年目で名前は楢崎敦ならさき・あつし、英理の先輩に当たる人物だ。


楢崎はプリンターから資料を取り出すと、手際よく入れ替えてボタンを操作する。


紙は耳障りな音を立てて吸い込まれてゆく。


「PDFファイルを格納するフォルダと接続が切れて、エラーになってただけみたいですね。うん、これで大丈夫です」


と楢崎は言い、英理に、


「向井、入ってるかどうか確認して」


部長は精一杯の威厳を保つための涙ぐましい努力で渋面をつくって腕を組み、楢橋の作業を見守っている。


英理は自分のパソコンから社内のデータを管理するパソコンにアクセスし、無事PDFファイルが格納されていることを確認すると、楢崎にそれを伝えた。

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