すごい

 「幼い息子が死んだ」と会社に告げて休職してる先輩の話を知人男性に聞いた。

 

 心配になってその先輩の自宅を訪ねてみると、意外と元気そうで安心はした。

 実家とも疎遠な一人暮らしと言っていたし、ひっそりと自殺でもしてたら誰も見つけられないだろう。


 リビングで「幼い息子」の話に触れないように世間話をしていると、突然カーテンがはね上がり窓が開いた。雨の匂いをふくんだ冷たい風が吹きこんでくる。


「死んだ息子だよ、ときどき悪戯するんだ」


 先輩は、これまで見たことのない、苦笑とも微笑ともつかない父親っぽい表情を浮かべる。


 その後もコップの位置がずれたり、テレビが突然点いたりしたが、なるたけ気にしないようつとめた。


 しかし、


「いい加減にしなさい、お客さんが呆れてるぞ」


 水を向けられたため、そそくさとお暇したらしい。


「いやだって、なんか知らんもんがこっちに憑いてきても困るし……」


 彼は当時の光景を思い出したのか、硬い表情で言う。


 どうすればよかったんだと悩む彼を前に、

 いくら仲の良かった先輩とはいえ、そもそもそんな人の家には行かんのですごいと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る