お気にいり

 彼女には小さな頃からお気に入りの怪談があるという。

 それは「××峠で白いソアラに乗っていると、血塗れの女性が乗った車が接近してきて『こいつじゃない、こいつじゃない』と騒いで追い越していく」というものだ。


 くだんの峠がそこそこ近いこともあり、自分自身がその怪談の体験者になりたいと思った彼女は、彼女は18歳になると免許取得した。

 両親の協力とバイトでコツコツ貯めたお金で白いソアラを購入し、時間があれば峠で転がしているとのこと。


「全然出会えません。『こいつ』ってやつもう見つけちゃったっぽいですよね、古い話だし」


 ぼやく彼女に、そもそもいろんな場所・車種・バリエーションで語られてる怪談だよって伝えたほうがいいかなーと思った。


「あと『こいつじゃない』ときのパターン知らないんですよ」


 ああ、それ知ってる。私が口を開きかけた瞬間――


「なので昨夜、下準備しておきました」


 遅かったわ。

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