創作実話怪談風

きしい

どうして

 Fさんは生まれながらの「見える人」らしい。


 少し前、疎遠になっていた幼馴染から呼び出しがかかり、仕事帰りに彼女の家を訪ねることになったときの話をしてくれた。


 ひと気のない住宅街を歩いていると、十字路手前の電信柱の麓に花束が置かれ、その隣にうすらぼんやりとした「どうみても被害者女性」が立っていた。


 猛烈に視線を感じたが、面倒なのでFさんは女性の前を通り過ぎた。


「どうして」


 耳元で悲しげな囁き声がしたが、それも無視した。

 そして幼馴染の家族には「お線香をあげにきた」とアドリブで伝えて仏壇に手を合わせてきたという。


「轢き逃げ犯をみつけてほしい、とかそういうつもりだろうけど、こっちは見えるだけでなんもできないんですよ。

 幼馴染なんだから、もう充分わかってると思うんだけど……」


 どうしてあんなことするかなぁ、と続けたFさんはちょっと怒っていた。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る