【灰かぶりの英雄】世界かあの子か選ぶなら俺は……

水間ノボル@『序盤でボコられるクズ悪役貴

第1話 プロローグ 呪われた少年

 なんでこんなことになったんだ……?

 俺は血だらけの愛する少女を抱きかかえていた。

 目も見えない。俺は視力を失った。

 ただ灰色の世界が映るだけだ……。


 

 ◇◇◇

 

 

 屋根部屋で俺は目覚めた。

 朝のはずなのに、部屋は薄暗い。

 カビ臭いベッドから起き上がり、何日も洗濯していないボロい服を着る。

 ドブネズミとゴキブリが部屋で鬼ごっこしている。

 ――どこの悲惨な貧乏人の生活か、と思ったかもしれない。

 しかし俺はこれでも、由緒正しい貴族だ。

 それもただの貴族ではない。王族に次ぐ地位にある大貴族だ。

 本当リアルだ。

 本当リアルだ。

 本当リアルだ。

 頭の狂った奴の妄想ではない。

 ……いや、訂正する。すべてが俺の妄想であってほしかった。


 

 ◇◇◇


 

 早朝の屋敷。家の者はまだ起きていない。鳥のさえずりだけが聞こる。

 俺は夏だというのに、黒いローブを被って母屋から出た。

 広い中庭を通って、裏口から俺は外へ出ようとした。


「あ、ギル様。お、おはようございます……」


 庭師の男が怯えながら、俺に挨拶する。

 体格の良い男のくせに、ガタガタ足が震えている。

 まるで、魔物モンスターに出くわしたかのように。

 

「ふん……」


 俺は無視した。

 こういう反応には慣れている。


 俺の住む街――アルトリア王国の辺境にあるエルベという街だ。

 王国の中ではかなり古い街で、近く森に古代時代の遺跡がたくさんあった。

 なるべく早歩きで、俺は目的地へ急ぐ。

 途中、鶏の世話や井戸へ水を汲みきた市民がいた。


 ――おい。灰かぶりの貴族様だぞ。


 ――うわ!朝から不吉なもん見ちまったなあ。


 ――呪いが伝染ったどうしよう。恐ろしいわ。


 みんな、俺を気味悪がっている。

 さすがに毎日がこうも嫌われていると、何も感じなくなってくる。

 俺は気づいていないフリをして、さらに目的地へ急いだ。

 


 ◇◇◇



 刺すような視線を通り過ぎて、俺は着いた。

 俺が15年間、唯一、入るを許された場所――ノートル教会。

 エルベの街の真ん中にある、高い塔を持つ教会だ。古代時代からエルベにあった。

 俺は戸をゆっくり叩いた。


「ギルくん!おはよう!」


 満面の笑みで俺を迎えてくれたのは、聖女のルシアさんだ。

 この街で数少ない、俺に普通に接してくれる人間だ。

 

「よく来たねえ!毎日偉いぞおー」


 俺を優しく抱き締めてくれた。

 ルシアさんの甘い匂い。柔らかい胸が俺の顔に当たる。

 俺がローブを脱いで醜い灰色の顔を晒しても、変わらず親切にしてくれる。

 ルシアさんの腕の中は落ち着くな。いつまでもこうしていたい。



「ギル!遅いぞ!」


 奥から走ってくる少女――アイラ。

 赤毛のおさげ髪で元気な奴。俺と同い年の15歳だ。

 俺と同じ孤児で、この教会で住み込みで働いている。

 ……俺は正確には孤児ではないが、精神的な意味で俺も孤児みたいなもんだ。

 親は家いても、俺を完全に無視するからな。


「ちゃんと5分前には来たぞ」


「鐘まで行く時間を入れると、遅刻してるから!」


「2人とも、仲良いわねー」

 

 ルシアさんがクスクス笑った。

 俺たちは毎日朝の6時に教会の鐘を鳴らす。1番高い塔に登って、2人で鐘を鳴らす。この街にその日の始まりを告げる大事な仕事だ。

 狭い階段を登って、鐘のある塔のてっぺんまで来た。


「よおーし!鳴らすぞお!」


アイラは相変わらず鐘を鳴らすのが好きだ。

 正直、俺は少し飽きている。

 ここへ毎日来るのは——アイラとルシアさんに会うためだけだ。


「うん。行くぞ!」


俺とアイラは2人で鐘の下にあるロープを引っ張った。 


 カーン!カーン!


 鐘が鳴り響いた。

 街を高いところから見下ろす俺たち。

 鐘の音を聞いて、人々が動き始める。

 

「はあ……。今日も間に合ったね!よかった」


「ああ。これで今日の仕事はおしまいだ」





 

 

 

 

 

 

 

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