kinue's note
維 黎
夜纏 絹江の手記より抜粋
今日、ピアスを買った。
最近人気急上昇のブランド、
前から欲しいと思っていたのだけれど、なかなか買えなかったピアス。
二か月ほど前のオンライン販売でも開始2分で完売終了。
ノートパソコンの前に座り、ネット通信の調子やマウスの感度を何度も確認して準備していたのに。
とても悔しかったけれど、今は私の両耳で軽やかに揺れている。
運が良かった。街中で見つけることが出来て。
販売サイトの紹介動画で見るよりも実物はずっと綺麗で、見た瞬間に思った。あれは私のピンクゴールドピアスだって。
見知らぬ女が勝手に私のピアスをつけてることに腹がたったけど、そこは我慢してその女に声をかけた。私のピアスを買いたいと。
そう伝えた時、あの女は変な顔して私に何か文句みたいなことを言って立ち去ろうとしたのだけれど、私は追いかけた。話は終わってなかったから。
かなりの苦労をする羽目になった。
私が買うはずだったピアスを買うってだけのことなのに。
女が足早に立ち去ろうとしたから、いつもの通りスタンガンでちょっと大人しくしてもらってから、愛用の髪紐で首を絞めた。
少し話がそれてしまうが、最初の頃は手際が悪くて鈍器とか使っていたのだけど、ドラマみたいに上手く出来なかった。
当然だけど鈍器の威力は重さに比例するので、私が扱える重さの物だと一回殴ったくらいで大人しくさせることは難しい。
ナイフや包丁なんかは簡単で2、3回も刺せれば確実だけど後が大変だ。周りはもちろんだけど、自分の服もすごく汚れてしまう。だから今までの経験からスタンガンからの絞殺というのが一番安定している。
スタンガンってテレビで見るほど簡単に気を失ってくれないけど、肉体的ダメージっていうよりは精神的ダメージの方が大きいと思う。
普段から高圧電流なんて触れる機会なんてないから、その衝撃は体よりむしろ心がビックリするらしい。
その隙に髪紐で絞める。
普通に紐なんかでもいいんだけど、一度指が喉元に食い込むのも構わず強引に引き剥がされたことがあって、それ以来、自毛で作った髪紐を使っている。
女の髪って結構丈夫で手で引きちぎるなんて無理だし、喉の肉に食い込んで掴んで外すことも無理だから。
そうして女が動かなくなってからピアスを外して無事、私は私のピンクゴールドピアスを手にすることができた。
もちろん、ちゃんと定価でお金を払った。横たわった女の手にお金を渡して。
私は泥棒じゃないから。
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今朝は冷え込みが厳しく、吐く息が白かった。ニュースでは午後から初雪が観測され、所により積もるだろうと言っていた。
そのニュースを聴いた時はげんなりしたのだけど、kakuyomu popcornのお店から出た私は、ある物を見つけて一気に気分が高揚した。
孔雀を模したピンクホワイトのブローチ。
ページュのコートにぴったりだと思った。
類似色なので主張し過ぎず、さりげない胸元のワンポイントになるだろうと。
人気の少ない路地でさっそく私は購入した。
相手は若い女。大学生だっただろうか。
声をかけ、女の胸元を飾っている孔雀のブローチを買いたいと伝えた。
しばらく交渉したが最後には警察を呼ぶようなことを口にして、女は私に背を向けて立ち去ろうとした。
まだ購入していないのに。私のブローチを。
秋も深まれば素肌が露出することなどほとんどない。これから冬にかけての厚手の衣装越しでは、スタンガンの効果は薄い。だけど夏場などでは使いにくかったナイフ系統が使える。着重ねた衣服が汚れが広がるのを防いでくれるから。
サバイバルナイフを二刺し。
刺したあとはドアノブみたいに何度か捻るといいらしい。ネットに書いてあった。
二度目に刺したときにやってみたが、思った以上に重い抵抗があってうまく捻れない。私はあまり力がないから。
でもやっぱりナイフは簡単に購入することが出来た。
さっそく胸元につけてみれば、想像通りに良く似合った。
素材は合金製でそれほど高価な物じゃないけど、こういう物は値段ではないのだ。
伏した女の手に五千円札を払って帰ろうとしたのだけど、気分が良くなった私はお礼に買ったばかりのポップコーンを彼女に譲ることにした。
持っていた袋を逆さにして、なんだか苦しそうな顔をして横たわる彼女の顔元にかけてあげた。
私の足元にも白い粒が広がっていく。
今朝のニュースで言っていたのとは少し違って、私の足元には初雪じゃなくてポップコーンが降り積もった。
――了――
kinue's note 維 黎 @yuirei
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