異世界TSしたけど、地球に戻ろうとしたらそこがゾンビ世界とかだったお話

どくいも

第1話


――その漫画は私が知る漫画の中でも、もっとも面白い漫画の一つであった。


――特徴的ながらもどこか惹かれるキャラクター軍、独特な世界観。


――さらには、固有能力とバトルでの駆け引き!


どれをとっても最高の漫画。

少なくとも私にとっては、一度生まれ変わってなおその存在を忘れない、そんな至高の一冊であった。


「そのために、この世界まで来たのになぁ…」


古びた本屋の入荷履歴を一通り確認し、無数の廃墟を巡り歩く。

週刊ジャンプに、サンデー。

チャンピオンにガンガン、ボンボンにコロコロ。

さらには週刊ダイナマィに、オビューロまで!

前世から馴染みのある雑誌から、見たことのない雑誌まで、全ての雑誌を確認して、なお見つからない。

まるで、その漫画が、元からどこにも存在していなかったかのように!


「いや、実際そうなんだろうな……」


そうだ。

私自身わかっていたはずだ。この世界の地球が、前世の自分が生まれた地球とは別物である可能性を。

門をくぐったからといって、その先に自分の望むものがるとは限らないと。

折角いい感じにかの漫画についての記憶が薄れ、文字通り記憶を失ってからもう一度読みたいができると思ったのに!

これでは、せっかくの計画がパーである。


「はぁー、くっだらねぇ。

 もう、早く帰りてぇや」


念願の地球に戻って、早数日。

思わずそんなため息が自分の口から洩れる。


「手塚治虫も、ネズミ―も存在するんだから、ハンターぐらいあれよ。

 そんなんだから、この世界の日本はゾンビなんかで滅ぶんだよ」


足元にある石を、ゾンビの顔面に蹴り上げながら、そうつぶやくのであった。



◆□◆□



さて、改めて紹介すると、私は異世界人である。

より分かりやすく言うのなら、元地球人現異世界人。

トラックではないが神様転生的なものにより、元日本人が異世界へと転生したわけである。

当初は、異世界転生そのものに大いに戸惑いはした。

この異世界は、私のいた地球とは文化も植生も物理法則も違った。

それのせいで、苦労も多かったし、ただ生きるだけで、前世とは比較にならないほどの生命の危機を何度も味わうことになった。

しかしそれらも、努力と根性、さらには転生チートのおかげで、なんと生存に成功。

最終的には前世よりもいい立場へと、立身出世できたほどだ。

まぁ、前世の記憶持ちな上に、神様からのチートという大きすぎる下駄を履かせてもらったのに、世間から見て精々2流までにしか成り上がれたが、それでも自分にしては上々だろう。


──しかし、それでも今の生活に不満がないわけではない。


部下を持ち、当面の生活に困らないほどの金を手に入れ。

それでも私には、どうしても欲しいものがあったのだ!


『というわけで、なんか楽しい娯楽ください。

 映画とか、漫画とか、もちろん!ゲームなんかでもいいぞ!』


そう!それは娯楽である!

現代日本の元オタクとして!

いくら異世界チートできても漫画もゲームもない異世界の生活は正直びっくするほど味気ない人生であるのだ!!


『くそ!こんなことなら戦闘系チートではなく、漫喫召喚能力を貰えばよかった!』


『えっと、師父様?な、何が言いたいかはわかりませんが、落ち着いてくださいぃ』


『嫌だって、文句の一つも言いたくなるだろ!

 だって、この国に漫画もないし、電子機器ゲームも存在しない?

 お菓子もしょっぱいのがメインだし、砂糖はレア。なんなら、ようやく取れたはちみつはそのままだとそこまで甘くないとか。

 これは愚痴の一つも言いたくなるわ』


そうなのだ。

確かに私の第二の生は、確かに立身出世することができた。

高い地位を手に入れたし、金を手に入れた。

が、残念ながら、そもそも私の望むものがこの世界にそもそも存在しなかったのだ。


『この世界の文科系の娯楽が、小説じゃなくて詩や演劇メインなのがなぁ。

 せめて、娯楽書籍は小説のほうをメインにしてくれよ』


もちろん、この世界にも、オタク文化や娯楽が存在しないわけではない。

が、それらは少々私が望むものとはベクトルが違いすぎた。

なんというか、アイドルオタクと歌ガチ勢とか。

この世界の小説は、神が実在してるくせに、神話が関係してるのが多すぎるせいで、どっちかっていうとスキャンダルとかゴシップの面が近い。

詩もなぁ、語感の美しさとか、季語とか、恋の歌とかもよくわからん、


『というわけで、ちょっくら暇つぶしのために、別世界という名の、元の世界の地球まで、お出かけてくるから』


『いやいやいや、そのレベルの世界移動はそう簡単に出来ることじゃありませんよ!?

 ま、待ってください!!!』


かくして、意を決して行われた世界移動という名の里帰り旅行。

もちろん、世界移動をするというのは、なかなかに困難な作業であった。

休暇申請に、各所手続き。

部下への仕事の引継ぎに、同僚の説得、上司への報告。

さらには信仰神への説得、領民への説明etcetc…。


ある意味では、これら一連の手続きが、この転生後一番苦労したといってもよかったかもしれない。

しかし、そのような苦労の末、なんとか私は【異世界転移】といわれる大魔法の使用を認められたのであった!


『魔力よし!計器よし!手荷物よし!タイマーよし!

 それじゃぁ、いくぞぉぉぉぉおお!』


こうしては私は、世界移動という【死】以上のリスクを負いながらも、元居た私の故郷、【地球】への帰還を試みたのであった……。


──その先がどのようになっているかも知らず……。



◆□◆□



「はー、くそくそ、うんこうんこ。

 だれだよ、このぼろ町を地球と間違えたアホは。俺だよ。」


むき出しのアスファルトの道を大股であるく。

そこかしこに見える割れた窓に、苔生えた壁。

遠くに動く、やけに顔色の悪い人型の何かに向かって手を振ってみる。

が、むこうは一瞬だけこちらに顔を向けるも、すぐにふらふらとどこかへ行ってしまった。


「……どうみても、ゾンビだよなぁあれ。

 本当にありがとうございますっと」


無視された腹いせに、その辺に落ちていた石を拾い、そのゾンビに向かって全力投球。

ドンピシャ、大成功!

スクリュー回転をかけたおかげか、無事にその投石はゾンビの側頭部に命中。

それにより、頭部を吹き飛ばされたゾンビはしばらく当てもなくふらふらと彷徨った後に、地へと伏し、完全に活動を止めたのであった。


「ざまぁみろ、この私を無視するからだ、馬鹿め」


まぁ、このようにゾンビに無視されているのは、おそらくは軽度とはいえ、私が自身に隠形の魔法をつかっているからかもしれないが。

それでも、気がつかない方が悪い。


さて、かくして私が娯楽を求めて、元異世界からこの世界に来てたわけだご、この世界にやってきてから今まで、実はすでに3日以上経過していたりする。

その上で言うのなら、今回の旅の結果は率直に言えば残念な結果というやつなのだろう。

もちろん私としては、この世界に来る前から、今は異世界人である私が元の故郷たる真の地球に戻れる確率は低いことは十分理解していた。

今回の旅で来れる地球に似たこの世界が、元居た私の故郷である地球でない可能性も十分理解していた。


「でもまさかここまで似ているのに、目的のものだけ見当たらないのは……正直悪意すら感じるぞ」


しかし、それでも脳内の予想と実際に失敗するのとではショックの幅が違うわけだ。

確かに私は今回の転移のおかげで、元いた故郷の地球によく似た地球と呼ばれる星に来ることはできた。

そこには日本があり、多くの建造物があった。

人間が文明を築いた後もあり、到着できた時代もおそらくは私が生きたかった時代である現代ピッタリ。

なんなら久々に、現代日本人による日本語トークを楽しめるだろうし、もしかしたら私の家も残っているかもなんて期待したぐらいだ。


「でもまさか、この世界の人類がほとんど亡んでいて、代わりにゾンビが発生しているとか……。

 こんなピンポイントなことある?」


だが、様々な苦労をしてたどり着いたこの地球は、私のいた地球ではなかった。

文明や歴史がわずかに違い、そのせいで私の元居た世界の娯楽とは、結構な数違った。

さらには、この世界では何かしらが原因でゾンビパニックが発生しており、無数に建物は立っているのに、人類は全然遭遇しないなんてクソみたいな状況に陥っていたのであった!


「しかも現代は現代でも、微妙に時代もずれてるっぽいんだよな。

 なんだよ、令成って。令和なのか平成なのか、それとも昭和なのか

統一しろよ」


それ以外にも、この地球の空気中の魔力は異世界と比べると濃度がかなり薄いため、魔法による無茶はできそうにない。

異世界人としてはやや息苦しさを感じる上、娯楽や栄養補給としての飲食をするにも環境的が違うため迂闊に行えない。

さらには、すでにほしいものは、大方収納し終えたし、もうすでに、この世界でやるべきことは何も残ってはいない。

野宿はつらく、無食無飲はきつく、何より風呂も着替えもない。

などなど、事前の期待や下準備の大変さを経験したからこそ、私のこの世界に関する不満は、非常に大きなものとなっていた。

ため息が止まらねぇ。


「……こんなことなら、滞在時間設定をもう少し短くしてもよかったかな」


もっとも、確かにこの不便と退屈さは殺人的ではあるが、これは半分自分が事前にこの世界に過大に期待しすぎたが故だ。

肝心な故郷への世界移動という大魔法に失敗した自分の責任でもある。


それに、これでもこの旅は、せっかく休暇してまで手に入れた大旅行なのだ。

いつまでもいじけているのは、そらこそより馬鹿らしいのではないかと思い直す。

ともすれば、と、しばし考える。

このゾンビにあふれた地球からの帰還するのに、残り数日。

一か所にとどまり、時間をつぶすにしても少し中途半端。

魔力をつかって遊ぶにしては時間が長すぎる。

ならば、この数日間で雑にできそうで、楽しそうなことは……。


「……まぁ、生存者探し、このぐらいが妥当か」


さすがに、折角もどきもは言え、地球に帰ってこれたのだ。

望みは薄くても、現地民との交流チャレンジするくらいはありかもしれない。

かくして、私はその辺に落ちた糸と金属片を拾い、ゆっくりと簡易のダウジングを開始しつつ、周囲の生存者探索を開始してみるのであった。




◆□◆□




「いやだ!!いやだぁぁ!!まだ、死にたくないよ~~!!お父さ~~ん!!お母さん!!あああああああぁぁ!!」


「やだやだ!!まだ死にたくなあぁぁぁい!!せめて、誰かの胸の中で!!男でも女でもいい!むしろ、女の子がいい!あ、でも理解ありすぎる彼氏も捨てがたい!

いや、この際、多少ブスや塩顔でもいい、優しくてあったかいママパパになでなでされたいよぉぉぉ!!」


「あああああぁぁあ!!なんで私は、あの時はむらせてってお願いしなかったんだ!!

 なんなら、ハグだって、パンツ被るのだって、逆ハーもハーレムだってできたはずなのにィぃ!!」


「霙、春ちゃん、カオルちゃ!先生!!さっさと僕を助けにきてよ!!

 あんなに救ってやったんだから!なんなら、処女や童貞、ついで胸も少しくらいよこしやがれ!!そのくらいのことはしてやっただろう!?!?むしろたりないはずだ」


「ばぶぅばぶぅ!!誰か私を受けとめてよぉぉ!!

 何がかっこいいだ!何がきれいだ!口先だけの寄生虫どもめ!!

 お前らが寄生虫なら、こちとらうんこまみれのうんこだぞ!あははははははは!

 ばーか!バーカ!!あいつらに群がるハエどもめ!!あはははは!」


「あああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!ばぶううぅぅぅうううううう!!ばぶううぅぅ!!!!!!

 パパ―!!ママぁ!!ミルクちょうだい!!おしめ変えて!なでなでして!!

 眠らせろ、守ってよぉ!!養えよ!!!」


「あははははは!!

 あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!

 おぎぁぁ!!ひぎぁぁ!!

 うんこゲロバカ無様パンツマスクだぞ!!

 はっはっはっ、はーっはははははは!」


「みんなみんな死ねばいいんだ!

 ぎゃはははは、あはははははははは!!!!!!」


◆□◆□




「……ころして、ころしてくれ」


こうしてようやく見つけることのできたこの世界での生存者第1号は、いろんな意味でかわいそうな人であった。

一応は女性に見えるが、汚れている上に、声もガサガサ。

髪もバサバサ、匂いもキツいし、シンプルに死にかけている。

なによりも、先ほどの無数の奇声に顔にパンツをかぶってるという最悪すぎるビジュアル。

おそらく、私が考えた最悪のファーストコンタクトのその先といったところだろう。


一瞬、あまりの出会いの悲惨さと無情さを考慮して、慈悲の心をもって、介錯するかもと考えたが、さすがに常識的な考えでそれはやめておいた。


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