第24話 無邪気な悪意が牙を剥く
「――だ、だだだだ、大丈夫メイちゃん? き、きき、緊張してない!?」
「そうですね、洋子よりは緊張していないと思います」
時刻は午前9時30分少し前。
ミスコン本選開始まで、残り2時間半と少しを切った控室。
芽衣を含め、ミスコン本選出場者の女子生徒たちは、自分たちの友人の手を借りながら、最後の準備に取り掛かっていた。
芽衣は終始リラックスした表情で、この中で1番緊張している親友に向けて苦笑を浮かべてみせた。
「というかですね、なんでわたしより洋子の方が緊張しているんですか?」
「だ、だってぇ! この部屋、可愛い女の子しか居ないんだもん! わ、わたしだけ場違いだよぉ!?」
いつものうるうると潤んだ瞳で「メイちゃ~んっ!?」と口にする親友を前に、少しだけほっこりする芽衣。
どうやら周りの可愛い女の子たちに気後れして、いつも以上にオドオドしていたらしい。
そんな親友を眺めながら「洋子も可愛いから安心してください」と芽衣は微笑んだ。
実際に親友という名の
目元はパッチリしているし、目尻は眠そうにとろんっと垂れ下がっているのも愛嬌があって可愛いと思う。
それに何よりも、常に小動物チックな動きが見る者を癒してくれる。
この場にいる誰にも見劣りはしないし、遜色ない。
本人の恥ずかしがり屋な性格故、ミスコンにこそ出ていないが、出場していれば強力なライバルとなっていただろう。
それに出るところは出て、引っ込むところはキチンと引っ込んでいるメリハリの効いたボディ。
とくに、その豊かに発達した……というよりも発達しすぎたバストは男受け抜群に違いない。
実際、彼女たちの近くに居る赤髪の『とある少年』の視線が頻繁に洋子のバストを凝視しているのを、芽衣は知っている。
本人は気づいていないし、完璧なポーカーフェイスをしていると自負しているようだが……芽衣から言わせてもらえば、不自然なほど無口無表情になるクセに、目だけは食い入るように洋子のバストに釘づけになっているのはバレバレである。
女は男が思っている以上に、異性の視線に敏感なのだ。
芽衣は心の中で小さくため息をこぼしながら、改めて洋子の実りに実ったバストに視線を向ける。
ほんと、少しでいいからその無駄にデカイ果実を分けて欲しいところだ。
芽衣が洋子のたわわに実った2つのメロンを厳しい目つきで見つめていると、「メイちゃん?」と心配そうな声が彼女の鼓膜をくすぐった。
「どうしたのメイちゃん? 急にそんな難しい顔をして? 大丈夫?」
「大丈夫ですよ。ちょっとこの部屋に充満するアロマの匂いが何なのか、考えていただけですから」
『女神』としての仮面を被りながら、スラスラと笑顔で適当なことを口にする芽衣。
もし今、洋子と2人っきりであったなら、彼女のその胸に
そんな芽衣の気持ちなどもちろん気づかない洋子は、子犬のようにクンクンと鼻を鳴らして、ぽやっ、とした笑みを浮かべて見せた。
「確かに良い匂いのアロマだよね、何の匂いだろう?」
「後で実行委員会の人たちに聞いてみましょうか」
「うん、そうだね!」
2人して部屋の隅に置かれたアロマキャンドルを眺める。
ミスコン実行委員の男子生徒が「リラックス効果があるから」と
まるで身体中の筋肉という筋肉が脱力するかのような虚脱感。
リラックスし過ぎているせいか、妙に
「あ、あれ?」
「どうかしましたか洋子?」
「な、なんだか体が痺れてきたというか、急に頭がボーとしてきたような……」
そう言って洋子の身体がフラフラと左右に揺れ始める。
いや洋子だけではない。
周りで準備を進めていた女子生徒たち全員が、みな一斉に
「な、なんだろう……? すごく、眠いや……」
「よ、洋子っ!?」
突然。
突然である。
バタンっ、と意識を刈り取られたかのように、急にその場に倒れる洋子。
芽衣は慌てて洋子を抱きかかえながら、軽く彼女の身体を揺すってみせた。
「洋子っ! 大丈夫ですか洋子っ!?」
「う、う~ん……」
「よ、よかった……どうやら眠っているだけのようですね」
ほっ、と安堵の吐息を溢した瞬間、ドッ! と急激な眠気と倦怠感が芽衣の身体を襲ってきた。
それは明らかに肉体の睡眠サイクルから外れた強烈なモノで……。
「な、なんですか、この眠気は……?」
フラつきながらも睡魔に抗おうと、砂のように霧散していく意識を必死に繋ぎ止めるべく手を伸ばす芽衣。
だが芽衣が思った以上にかなり強力な睡魔らしく、気がつくと芽衣以外の女子生徒たちは、みんな寝息を立てて床に転がっていた。
「お、おかしい……この急激な眠気……まさか
何とか原因と打開策を探ろうと脳を動かすが、圧倒的な眠気を前に、いつものキレのある思考が出来ない。
やがて手のひらから砂がこぼれ落ちるように、芽衣の意識がすぅ、と遠くなっていく。
それと同時に、ガチャリッ、と控室の扉が開き、中からミスコン実行委員の男子生徒たちと、昨日、3年A組のパンケーキ喫茶で芽衣たちに絡んできたOBの大学生が姿を現した。
「おうおう、今回もよく薬が効いているみたいで安心、安心♪ おい、ビデオを回しとけよ?」
「い、一色センパイ。ま、マジであの女神さまとヤレるんすか?」
『一色』と呼ばれた茶髪の大柄のOBの大学生の1人に、ビデオカメラを持った、いかにも真面目そうな雰囲気をした男子学生が、興奮したような表情と口調で尋ねる。
そんな男子学生の背中をバンバンと叩きながら、一色は愉快そうに唇を歪め、
「女神どころか、この部屋に居る女全員とヤリ放題、揉み放題よ!」
まさにドリンクバーみたいだな! と豪快に笑う一色を含めた大学生たちに、ミスコン実行委員の男子生徒たちは「おぉっ!」と大いに沸いた。
寝落ちする寸前、ようやく事の詳細を把握することが出来た芽衣は、寝静まった周りの女子生徒たちに代わり「ふざけんじゃないわよ!」と声を張り上げようとしたが、体が痺れて唇が動かない。
立ち上がろうと気合を入れれば入れるだけ、睡魔が重く体にのしかかる。
寝るなアタシ!
ここで寝たらアイツらの思うツボよ!
歯を食いしばり、今にも閉じようとする2つの
が、人間の生理的欲求にはやはり勝つことが出来ず、ゆっくりと垂れ幕が下がっていくかのように、目蓋という名のシャッターが下りてくる。
このままでは大事な親友はおろか、この場に居る女子生徒全員が大変な目に遭ってしまう。
分かってはいるが、目蓋を閉じずにはいられない。
OBの大学生の1人――双葉宗助が例のアロマの火を消しながら、扉の近くに居た男子学生の1人に向かって、
「おい、そこのおまえ。誰も入ってこれないように、鍵だけはしっかり
「で、でもまだ長崎と柴田が来てません……」
「来てねぇヤツのことなんか、ほっとけ、ほっとけ。ほらっ、さっさと鍵を掛けろや」
双葉にせっつかれて、慌てて鍵を閉める男子生徒。
そんなやり取りのすぐ近くで、興奮しすぎて鼻息が荒くなっているヒョロガリの男子学生の1人が、
「こ、古羊先輩っ! 古羊せんぱぁ~いっ!」
「あっ!? おまえズリィぞ!」
「あぁ~、もう股間がイテェっ! ズボン、邪魔っ!」
1人は洋子の胸を揉みし抱きながら、もう1人はおもむろにズボンをずり下ろし始める。
それを合図に、周りに居た男子生徒たちがワッ! と一斉に眠っている女の子たちに襲い掛かった。
まさに発情期の猿のように、洋子と寝転がっている女子生徒たちに群がる男たち。
そんな獣のように理性を失った後輩の姿を、手を叩きながら大爆笑して眺めるOBの大学生たち。
「おいおい? もう勝手におっぱじめているぜ、アイツら」
「まるで街灯に群がる羽虫のようだな。必死に過ぎだろ、童貞か? あぁ、童貞か」
「つーか、俺らもそろそろ始めようぜ。おまえらっ! ヤるのは構わねぇが、ちゃんとビデオカメラだけは回しとけよ? 後で売るんだから」
そう言って大学生の1人――三条スバルが芽衣の体に触れようとして、ハタッ、と気がつく。
「おいこの女、まだ意識があるぞ」
「マジかよ!? あのアロマの匂いを
「後で騒がれても面倒だし、いつも通り裸にひん剥いて、写真でも撮っておくか」
「まぁ待てって、制服姿の女とヤるのは久しぶりなんだからさ、まずは制服プレイを楽しんでからでいいだろう?」
異議ナーシ、と声をハモらせながら、OBの1人である一色誠が芽衣のふとももをガッシリと掴み、グイッ! と無理やり脚を開かせた。
途端に御開帳されたのは、淡い水色の下着に包まれた、むちむちした芽衣の股間だった。
芽衣の下着が露わになるやいなや、双葉宗助が「ひゅ~う♪」と小さく口笛を吹いた。
「可愛い下着履いてんじゃ~ん♪ これはもう完全に俺らを誘っているとしか思えないわな」
そんなわけないでしょっ! と芽衣は声を張り上げようとするが、漏れ出るのは微かな吐息の音ばかり。
下卑た大学生たちの視線が肌を撫で、すごく不愉快な気分になる。
そんな芽衣の心の内などもちろん知らない一色は、ゆっくりと水色の下着に包まれた芽衣の股間へと手を伸ばした。
「はい、それじゃ御開帳でぇ~すっ!」
周りの男共の期待と興奮を煽るように、彼女の下着を指先でつまむと、ゆっくり、ゆっくりと芽衣のパンツがずり下ろしにかかる。
い、嫌っ!? と芽衣の体を生理的嫌悪感と恐怖が支配したそのとき、痺れていたはずの彼女の唇が勝手に動いた。
「――たすけて……士狼」
瞬間。
彼女の声に呼応するように、鍵を掛けていたハズの控室のドアが、轟音と共に蹴破られた。
一色たちOBを含め、その部屋に居た男全員が「な、何事だっ!?」と弾かれたように扉へと振り返る。
芽衣もなけなしの意識を総動員させ、みなと同じように蹴破られた扉の方へと視線を向ける。
そこには見慣れた赤髪のリーゼントをした男子生徒が立っていた。
芽衣はその赤髪の少年を視界に納めた途端、「あぁ、やっぱり……」と安堵の笑みを溢した。
祈りのような彼女の声。
ちいさな、ちいさな彼女の声。
誰にも届かない、彼女の声。
そんな雑音に埋没しそうな彼女の声は、やはりこの男には届いていた。
「呼ばれてないけど、ジャジャジャジャ~ン♪」
――大神士狼には、届いていた。
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