第17話 王様げぇむ ~猥褻王政、崩壊編~
全員分の命令書を回収し終えた元気が、改めてその薄汚ねぇ口からペラペラと新・王様ゲームの概要を話し始めた。
「というワケで、改めてルール説明や。まず全員がこのアルミ缶の中に入っとる番号と王様に割り振られた割り箸を引く。んで、王様役がこの抽選箱の中から命令書を引いて、命令書に書かれていた番号の人間が命令を実行する。これでええかいな?」
「大体わかったのじゃ」
「猿野、
「さっさと始めようぜ?」
「……なんだかボク、無性に嫌な予感がしてきたよ」
覚悟完了させた俺たちはとは裏腹に、なんだか不安そうな顔を浮かべる古羊。
そんな彼女の不安を洗い流すかのように、芽衣のよく通る声が俺の鼓膜を震わせた。
「それでは第2回戦、いきますよぉ? せぇ~のっ!」
「「「「「「王様だぁ~れだ?」」」」」」
アルミ缶の中から割り箸を引き抜いた割り箸に書いてあったのは……3番。
チッ、王様じゃないのか。
と、心の中で舌打ちをかましていると、俺の隣に居た古羊が「あっ」と声をあげた。
「ボク、王様だ」
「では洋子。命令書を引いてください」
「う、うん」
芽衣に促されて抽選箱の中におそるおそる手を突っ込む古羊。
そのままゆっくりと命令書を抜き取って、全員に聞こえるように言い放った。
「『3番が王様に【好きだ】と言う』……えぇっと、3番の人ぉ?」
「へいっ、3番です」
「えっ? ……えっ!? し、ししょーっ!? 3番ししょーっ!?」
俺が3番のクジを見せながら名乗り出るなり、急に顔を真っ赤にして狼狽し始める古羊。
途端に、横に居る芽衣とアマゾンから殺意の
ヤダ、孕みそう……。
2人の視線の暴力に
「古羊」
「は、はひっ!」
「好きだ」
「ぷぎゃっ!?」
謎の悲鳴を残しながら、口をパクパクさせるなんちゃってギャル。
相変わらず、からかいがいのある奴である。
……ところで芽衣ちゃん? さっきからチミの足が机の下で俺の足をグリグリと踏んでいらっしゃるんですが、ワザとですか? そうですか?
俺にしか聞こえない声量で、16ビートの舌打ち地獄をBGMに、我が足の上で軽快なソロステップを奏でる女神さま。
地味に痛いです……。
「あ、あの芽衣ちゃん? もしかして、怒ってます?」
「怒る? わたしが? 何故です? わたしは別に士狼が誰とイチャつこうが、別に構いませんし、興味もありませんから」
「いやでも……」
「怒っていません」
「……まだ何も言ってな――」
「お・こ・っ・て・い・ま・せ・ん(にっこり♪)」
「……はい」
俺は考えるのをやめた。
「では第3回戦、いきますよぉ? せぇ~の?」
「「「「「お、王様だ~れだ?」」」」」
妙に怖い笑顔でプレッシャーを発する生徒会長さまに臆したのか、全員慌てたようにクジを引きにいく。
「おっ、今度はワイが王様やな。命令は……え~となになにぃ?」
さっさと抽選箱から紙切れを1枚取り出した元気が、しげしげと命令書を確認しながら、言いづらそうに口を動かした。
「あぁ~……『1番と2番と3番が今日履いている下着の色を発表する』
「むぅ……2番はワガハイじゃ」
「3番は俺だな」
「えっ!? うそ、1番っ!?」
1番のクジを胸元に抱きしめた古羊が、何とも言えない声をあげる。
そんななんちゃってギャルの目の前で、全力のガッツポーズを浮かべるアマゾン。
さてはこの命令、おまえが考えたな? 最高かよ。
「チッ、しょうがないのぅ。ワガハイの今日の下着は『黒』じゃ」
「俺は『赤』だな」
何とも男らしく今日履いている下着を報告するうさみんに続くように、俺のセクシ~なパンツを世間様に向けてご報告する。
残りは我らがなんちゃってギャルだけなんだが……何だか恥ずかしそうに「あの、そのっ!?」と口をモゴモゴさせるだけで、一向に下着の柄を発表しようとしない。
そして助けを求めるように、俺にその潤んだ視線を向けてくるが、すまんな古羊。悪いが諦めてくれ。
王様の命令はゼッタイなんだ。
「うぅ……。今日は『水色』……です」
顔を真っ赤にし、制服の裾をギュッと握りしめた古羊の愛らしい唇が、そう口にした瞬間、アマゾンが静かに鼻血を吹き出した。
キリリッ! とした凛々しい表情のまま鼻血を垂れ流すヤツの視線は、古羊のお胸をロックオンしていて、なんとか制服越しにブラジャーが透けて見えないか苦慮しているようだった。
そんな我が友を前に、俺は1人、小さく肩を竦めてみせる。
まったく、この程度で鼻血を垂れ流すだなんて、アマゾンもお子ちゃまだなぁ。
「士狼? 鼻血を吹きなさい?」
「おっとぉ? 俺としたことが」
「つ、次いくよ! 次っ!」
何故か芽衣に湿った視線で睨まれながらも、古羊に促されるようにクジに手を伸ばす。
「第4回戦、いくよ? せぇ~のっ!」
「「「「「王様だ~れだ?」」」」」
そろそろ俺も王様になりたいなぁ、と思いながらクジを引く。
4番だった。
やっぱり俺じゃねぇのかぁ~、と肩を落とし落胆していると、ギランッ! とアマゾンの瞳があやしく光り輝いた。
「キタキタキタキタッ! 三橋倫太郎の時代がキタ――ッ!!」
「……うるさいぞいデカブツ? いや汚物。黙ってはやく命令書を引かんか」
「すげぇツンツンしてくるんですけど、このロリっ
「だ、誰がロリっ娘じゃ!?」
元気越しにギャイギャイ騒ぎ出すうさみんを横目に、アマゾンが抽選箱に手を突っ込んだ。
そのまま命令書の中身を読み上げ、
「命呪を持って命ずる!『4番と5番はこの場でキスをしろ』」
「4番って俺じゃねぇか!?」
「「ハァッ!?」」
芽衣と古羊の素っ頓狂な声を聞きながら、4番と書かれた自分のクジをまじまじと見下ろす。
あぁ、白状するよ。
このとき、何も期待しなかったと言えば嘘になる。
芽衣や古羊、性格はともかく、うさみんとキス出来るかもしれないと、胸が躍ったのは事実だ。
『おいおい、困ったなぁ。どうする?』とか、らしくもなく、だらしない顔でそう
アクロバティックかつロマンティックに、俺と彼女たちの唇が創世合体し、幸せな明日へと歩み出す。
そんな
「5番はワイやな」
本当に困ったことになった。
「はじめてぇ〜の、ブチュー♪ 君とブチュー♪」
「おいバカ、アマゾン!? やめろ、はっ倒すぞ!?」
「ハァ……しょうがないのぅ」
ギョッ!? と目を見開くうさみんの隣で、元気がしぶしぶといった様子でテーブルを乗り上げてきて――って、おいおいおいおいっ!?
「待て待て待て待て!? ナニにじり寄って来てんだ!? 止まれバカッ!?」
「せやかて相棒、王様の命令は絶対やし……」
「そうだぞ大神。おまえもさっさと腹くくって、チャッチャと猿野とドッキングしてこい。あとがつかえてんだぞ?」
アマゾンに煽られ、元気は再び俺の唇に特攻を仕掛けて――おい待て!?
お願いだから待ってぇっ!?
「ざけんなっ!? これが俺のファーストキスになるかもしれねぇんだぞ!?」
「大丈夫や相棒。ワイの初めては、もうマイハニーに捧げとるさかい」
「テメェは良くても、俺はよくないの! ちょっ!? 覚悟決めんな、ふざけんなっ!?」
瞳を閉じて、その厚ぼったい唇がゆっくりと俺の唇に近づいてくる。
えっ、うそ?
マジでする気なのコイツ?
ヤツの不毛の大地と化した唇から逃げるように、周りに視線をよこすと、あまりの惨さに目を逸らすアマゾンと、殺意マシマシの瞳で俺を睨みあげるうさみんの姿が目に入った。
そして何故かハラハラしたように座ったまま右往左往している古羊と芽衣。
「うぅん、相棒……」
鳥肌モノの
「ちょっ、待っ!?」と腰を浮かせる古羊と芽衣を尻目に、俺がノンケの世界から『いざサラバ!』しようとしたその瞬間。
「そこまでっす!」
――バァンッ!
と勢いよく俺たちの使っていた個室のドアが開かれた。
俺たちは弾かれたようにドアの方へと意識を向けると、そこには森実高校の女子制服に身を包んだ、ポニーテールが可愛らしいスレンダーな美少女が立っていた。
猿野元気のガールフレンド、司馬葵ちゃんが立っていた。
「司馬ちゃん!?」
「な、なんでここに!?」
困惑する俺と古羊の言葉を無視して、司馬ちゃんの瞳は今にもキスしそうな俺と元気をロックオン!
そのままブワッ! と自慢のポニーテールを逆立てながら、ズカズカと部屋に踏み込んできて、接近していた俺と元気の身体を無理やり引き離した。
「まったく、嫌な予感がしたから来てみれば、案の定っすか。無事っすかダーリン!?」
「マイハニー? 部活はどうしたんや?」
「胸騒ぎがしたんで、今日は休んだっす!」
それよりもぉ、と司馬ちゃんはジロリッと真っ直ぐ俺だけを睨みあげてきた。
その敵意の籠った瞳からは、ほんのり殺意の香りが漂ってきて……おいおい?
もしかしなくても、惚れられたかもしれない。
「前々から大神センパイは怪しいとは思ってったんっすよ!」
「えっ、なにが?」
「しらばっくれてもムダっすよ。センパイは自分からダーリンを寝取ろうとしてますね!? そうはさせないっすよ!」
ビシィ! と宣戦布告でもするかの如く、俺を指さしながらハッキリとそう口にする司馬ちゃん。
……うん?
この子は一体ナニを言っているんだい?
「寝取る? 誰が? 誰を?」
「
いや、正直節穴だと思う。
「ダーリンは、絶対に誰にも渡さないっすよ!」
「ん? ちょっと待って? ということはアレかな? 俺は前々から司馬ちゃんに『ノンケだって構わない、むしろ興奮するわいっ! ガッハッハッハッ!』と高笑いしてそうな、生粋のハードゲイだって思われてたってこと? なにそれ? イジメかな?」
「下僕1号……キサマ、そうじゃったんか? キサマも猿野のことが……ということはワガハイの敵か!?」
「んなワケねぇだろ、おっぱいオバケ! 誰のために俺がここまで骨を折ってると思ってんだ!? その乳揉むぞ、このメスブタ!?」
司馬ちゃんに続いて、うさみんの身体からも殺意の波動が
その殺意の瞳は完全に俺をロックオン・ストラトス♪
おいおい、なんだその目は?
俺がおまえのために、どんだけ骨を折ったと思ってんだ?
と逆に不満気な視線をうさみんにぶつけようとして。
――ゾクリっ。
「ッ!?」
「あらあら、面白いことを言いますね士狼は?」
「誰が、誰の胸を揉むのかな? もう1度言ってみてよ、ししょー?」
突如、両隣から胃が縮み上がるような冷たいバイノーラル音声が我が耳に垂れ流された。
えぇっ、もう確認するまでも無いですね。
我が校きっての美少女たちである、女神さまと、なんちゃってギャルですね♪
ありがとうございますっ!
「い、いや違うよ? 今のは言葉の綾ちゃんで、ね? 分かるでしょ? ねっ?」
「「ふぅぅぅ~ん。へぇ~~~。そう……」」
心が壊れるかと思った。
えっ? 人間って、こんな冷たい声が出せるモノなの?
待ってくれ、本当に違うんだ! 森実高校ナンバーワン紳士であるところの俺が、そんなハレンチ行為をするワケがないだろう?
……まぁ向こうからせがまれたら、やぶさかではないんだけどね!
「ふぅぅ~ん。せがまれたら、やぶさかじゃないんだ?」
「あの芽衣さん? ナチュラルに人の思考を読まないでくれます? あと古羊ちゃん? 師匠の足、踏んでるよ? ……なんでさらに体重をかけるの? おバカさんなの?」
若干、生徒会長の仮面が剥がれ落ちている芽衣と、無言で俺の足を踏む古羊。
お、おやおやぁ~?
「あ、あの2人とも?」
「「なに?」」
「そのぅ……なんか怒ってます?」
「「別に」」
まるで機械の合成音声かのように、温度の感じない無機質な声音でそう吐き捨てる芽衣と古羊。
もうね、目が濁ってるとかそういうレベルじゃないの。
暗闇だよ、暗闇!
人間って、あんな目ぇ出来んの!?
「ほ、ほんとに怒ってない……?」
「「怒・っ・て・い・ま・せ・ん(にっこり♪)」」
「ねぇ、打ち合わせでもしたの?」
まるで春の陽気を思わせる、爽やかな笑みを浮かべる2人。
もうね、息もぴったんこトントン☆
でも何故かな? 俺には2人の笑顔が背中に向けられた銃口のように感じるや♪
気分はまさにスターリングラード戦のソ連兵である。
帰りてぇっ! 超帰りてぇっ!?
「あっ、あぁ~っ! そういえばオレ、今日、妹から買い物を頼まれてんだったぁ~っ! てへペロ☆ んじゃ、そういうワケでっ! オレ、帰るわ!」
「ま、待てアマゾン!? 俺もその……あ、『あの日』だから今日はもう帰るわっ!」
混沌とした場の空気に
そのままコミケ始発組のような鮮やかなスタートダッシュで、この場から逃走。
お、俺も乗るしかない、このビックウェーブに!
『立てよ国民!』『アンギャ―ッ!』と言わんばかりの
――グイッ。
「どこ行くんですか士狼?」
「まだお話は終わってないよ?」
「ふ、ふぇぇぇ……」
浮いた腰に抱き着いて、俺を無理やり着席させる芽衣と古羊。
2人は今にもキスせんばかりに、萌えキャラ化している俺の耳元へと、その愛らしい唇をそっと近づけて、
「ねぇ士狼? 宇佐美さんの胸を揉むってどういうこと? もしかして宇佐美さんのコトを狙ってるの? この間、鹿目さんにフラれたばかりだっていうのに、もう次の女の子を狙ってるワケ? 生来のハンターとして本能なのか、それとも繁殖行動への衝動なのかは知らないけど、ちょっとガッツキ過ぎじゃない? それだからモテないのよ、アンタは。大体あんな脂肪の塊を揉みしだいてナニが楽しいの? 言っておくけど、女の価値は胸で決まるモノじゃないから。全体の調和がいかに美しいかで決まるモノだから。だからアンタはもっとスレンダーな女の子にも目を向けた方がいいわよ? ほんと人生の半分を損しているから。分かった? 分かったなら返事は?」
「ねぇししょー、分かってる? 今日のボクたちの役目はウサミさんのフォローなんだよ? それなのに、なんでウサミさんを口説いてるの? ウサミさんが好きなの? でもウサミさんはサルノくんが好きなんだよ。初めからししょーには可能性なんて残されてないんだよ。分かるかな? 分かるよね? ……そ、そんなに胸が揉みたいなら、メイちゃんにはナイショで少しだけなら揉ませてあげてもいい、けど? あっ、違うよ!? これは別にいやらしい意味とかじゃないからね!? ただウサミさんのおっぱいに気をとられて作戦が失敗するくらいなら、ボクのでその……は、発散? すればいいかなって思っただけで他意はないからね!? ホントだからね!?」
めがみ と ぎゃる が のろい の ことば を はいている。
どうする? ▼にげる
にげられないっ!
「いいすか大神センパイ? いくらセンパイが昔からダーリンと付き合いがあるからって、自分とダーリンの絆には勝てないんすからっ!」
これがその証拠ッす!
そう叫んだ司馬ちゃんが、俺たちに見せつけるように元気の首回りに自分の腕を絡めた。
そしてそのまま。
――むちゅっ♪
と愛らしい音と共に、彼女の唇が元気の唇に吸いついた。
瞬間、うさみんの意識がぶっつりと途切れた。
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