第15話 これ『大神士狼を吊し上げよう!』とか、そういう催しじゃねぇから!

 喫茶店から負け犬よろしくシッポ巻いて逃げ出した俺たちは、何故か科学室に集まって今後の方針を話し合っていた。



「結局、あの2人の背中を押したという形で今回の作戦は終わってしまったワケですが……これに何か意見のある人はいますか?」

「はいメイちゃん。正直、今後の作戦はもう2人の後を尾行しない方向で進めた方がいいと思います。だって」



 そう言って、チラッと明後日の方向に視線をやる古羊。


 彼女の視線の先、そこには。



「うぅ~……ぐすん。猿野ぉ~、さるのぉ~っ!」

「俺の司馬ちゃんが穢された……。あのクソ野郎に穢された……ふぁ●く」

「だって、これ以上の尾行はウサミさんとししょーの精神がたないと思うから……」

「わたしも同意見ですね。これ以上あの2人を尾行していたら、こっちの2人が人間ではない何かになってしまいそうです」



 彼女たちの視線の先そこには、完全に魂が抜け落ち、真っ白になった哀れな死体が2つ床に転がっていた。


 虚ろな瞳で虚空を見上げるうさみんの隣で、糸の切れた人形のように床に伏せるナイスガイ、俺。


 そんな俺たちをあきれた様子で見下ろす芽衣。


 その視線にちょっぴりゾクゾクしながら、2人の会話に耳を傾けた。



「でもそうなると、今後の作戦はどうしましょうか? 誰かいい案はありませんか?」

「――合コンだ。合コンを開くぞ、おまえら」

「し、ししょー? ご、合コン?」



 グッ、と体に鞭を打ち、復讐の炎をその身に纏いながら、うさみの肩を抱いて俺はゆっくりと立ち上がった。


 うさみんは弱々しい口調のまま、どこか縋るような視線を俺に向けながら、



「合コン? 合コンとはなんじゃ1号?」

「簡単に言ってしまえば、男と女が下半身の異文化交流を目的にハイテンションで乳繰り合う、聖なるパーティーのことだ」

「AVの観すぎです。どこの乱交パーティーですか、それ?」

「ししょー? 別に合コンは『合体してズッコンバッコン♪』の略じゃないよ?」



 えっ、違うの?


 驚き目を見張る俺と代わるように、芽衣がうさみんに向かってその愛らしい唇を動かした。



「宇佐美さん、合コンというのはですね? 男に奢らせるだけ奢らせて、無料タダで飲み食いするのを楽しむ、女の子の社交場のことですよ」

「あれっ!? 俺カモっ!? もしかしてカモだった芽衣ちゃん!?」

「えぇっ、去年の士狼は女の子にとって、とても理想的な男の子でしたよ。お財布に優しい男の子だなんて思って、ごめんなさいね?」

「ああああぁぁぁぁアアアア亜亜亜亜――ッ!?」

「お、落ちついて、ししょーっ!? メイちゃんもっ! 事実だとしても、本人に言っちゃメーでしょっ!?」

「……洋子? 無自覚かもしれませんが、士狼に追い打ちをかけてますよ?」

「あぁっ!? ごめんね、ししょーっ!?」

「ああああぁぁぁぁアアアア亜亜亜亜――ッ!?」



 俺氏、無事に発☆狂♪


 なんか芽衣のヤツ、ウチの不良債権姉ちゃんみたいなコトを言ってんですけどっ!?


 ちょっ、やめて? 女の広辞苑を引かないで芽衣ちゃん?



「えっとね、ウサミさん? 合コンって言うのはね、いわゆる『合同コンパ』ってヤツでね? 簡単に言えば食事会だよ」

「なるほどのぅ。つまり食事のあとに合体するワケじゃな?」

「その通りだ。よく分かってんじゃねぇか、うさみん」

「違うよっ!? 全然違うよっ!? いや、あながち間違ってはないけど、違うよっ!?」

「そもそも、なんで次の作戦が合コンなんですか士狼?」



 芽衣の若干あきれた瞳を一身に受け止めながら、俺は「よくぞ聞いてくれたっ!」とばかりに胸を張った。



「いいか? 人間の男は浮気性な生き物なんだ。狩猟民族のDNAである以上、これは変えられない事実。つまり色仕掛けが効果的だ!」

「「「色仕掛けぇ?」」」



 まるで3姉妹のように声をハモらせる芽衣たちに、俺はこくんっ! と力強く頷いた。



「そうだ。なぁ、うさみん? おまえの長所はなんだ? 言ってみろ」

「わ、ワガハイの長所? それはもちろん、猿野に負けないたぐいまれなる頭脳で――」

「バカ野郎っ! おまえの長所はそのムダに男を誘う、いやらしい身体だろうがっ!? まったくけしからんっ! ほんとけしからんオッパイをしよってからに! 俺を誘ってんのか、あぁんっ!?」

「……ほんと気持ち悪い男じゃのぅ、キサマは」

「ねぇ洋子? あの男の股にぶら下がっている吹き出物、取っちゃってもいいかしら?」

「き、気持ちは分かるけど、ししょーが死んじゃうからダメだよぅ」



 自分の身体を両手で抱きしめながら、ドM大歓喜の冷たい瞳で俺を見てくるうさみんを横目に、何やらボソボソと相談を始めている芽衣と古羊。


 おそらく合コンの日程と場所を練っているのだろう。


 まったく、頼もしい限りだぜっ!



「つまりワガハイの溢れんばかりの魅力で、猿野を籠絡ろうらくしろと、そういうコトか1号?」

「おうよっ! 本当はアイツをデートにでも誘えればベストなんだが、うさみんがそんな器用なマネ出来るとは思えねぇし。そもそも、ソレが出来たら何年も片思いなんてしてねぇだろうから、ここは妥協して合コンで手を打つぞ」

「一言余計なんじゃキサマは」



 でも事実じゃん、と俺が言い放つと、ロリ巨乳は「むぅ……」と小さくうなりながら、バツが悪そうにムッツリと押し黙った。


 そんなうさみんの言葉を継ぐように、なんちゃってギャルが「でもししょー」とその桜色の唇を震わせた。



「サルノくん、彼女さんが居るのに合コンになんて来るのかなぁ?」

「安心しろ。そこは『久しぶりに男同士で遊ぼうぜ』とか、テキトーなことをほざいて俺がアイツを誘いだすから。おまえらは先にカラオケかどっかの箱を押さえて、お行儀よくスタンバっといてくれ」

「な、なるほどっ!」

「流石は士狼です。ロクでもないことを考えさせたら、右に出る者は居ませんね」

「ねぇ芽衣ちゃん? 褒めてるソレ?」

「もちろん、大絶賛です」



 にっこり♪ と、もはや煽っているとしか思えない笑みを浮かべる我らが虚乳生徒会長殿。


 ウチの母ちゃんといい、2年A組のカス共といい、なんで俺の周りの奴らは、素直に人を褒めるというコトが出来ないのだろうか?


 そんなコトを思っていると、隣に居た古羊がキラキラした瞳で俺を見上げていることに気がついた。



「すごいっ! すごいよ、ししょーっ! やっぱり『いざ!』と言うときには頼りになるねっ!」

「おまえ、イイ子かよ……結婚するか? ぶべらっ!?」

「あら、ごめんなさい士狼。頬に蚊が居たんで、ぶっちゃいました☆」



 パッシーンッ! と小気味よい音を立てながら、勢いよく芽衣に頬をビンタされる俺。


 ちょっ、なに? ドメスティック・バイオレンス?


 というか芽衣ちゃん? 今の結構本気の一撃じゃなかった?


 かなり痛かったんですけど?


 ジンジンと痛む頬を押さえながら、恨みがましい視線を送る俺を無視して、芽衣はさっさと作戦概要を詰めていく。



「では場所は男女合わせて6人くらいが入れるように、カラオケ屋にしましょう。女の子は、わたしと洋子と宇佐美さん。士狼は猿野くんとは別に、あと1人、男の子を誘っておいてください」

「ちょっと待ってくれ! 女の子がおまえらだけだなんて、俺に何の役得もねぇじゃねぇか! せめてあと2人、可愛い女の子を連れて来て欲し――パパスッ!?」



 ビンタされたよ☆



「女の子はコレ以上いりません。……士狼、返事は?」

「うぅ……はい」

「よろしい」


 にぱっ! と桜の花が咲いたような笑みを俺に向けてくる芽衣。


 うぅ、ズルいなぁ……。


 そんなイイ顔されたら、怒るに怒れないじゃないか。


 まぁ良いモノ笑顔も見せてもらったし、今回はこの辺で勘弁しといてやるかな。


 なんて思っていると、何故か「うぅ~……」と隣に居た古羊が威嚇するように小さくうめいていた。


 ……俺に睨みあげながら。



「えっ? あれ? よこたん? なんでそんな師匠を睨むの?」

「睨んでないもん……」



 ぷくぅっ! と頬を膨らませながら、ぷいっ! と明後日の方へと視線を切る、なんちゃってギャル。


 しかし何故かチマッ、と俺の制服の裾をつかんで離さない。


 ……ほんと何コレ?



「おいコラ下僕1号。イチャコラしてるヒマがあったら、作戦を練るぞいっ! まったく、当てつけのようにイチャつきおってからに」



 ブツブツと文句を口にしながら、ゲシッ! と俺の脛を蹴り上げるうさみん。


 何故かその叱責は、すごく理不尽なモノに思えた。

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