神話配信戦記~神様ライバーはじめました~

旗之助

配信第01回~神様ライバーはじめました~(改稿)

 

 動画配信サイト「デイドリーム」。 世界中から利用されるこのサイトで、一つのチャンネルが産声を上げた。

 ローディングと書かれた画面が切り替わり、高校生の自室を模した背景が映し出される。


『――初めまして、こんにちは! 神様ライバー配信者兼ファンタジーアステカ学園生徒のトラウィスカルパンテクトリと申します。 長い名前なので気軽にトラウィスと呼んでください』


 軽快な声と共に現れたのは、褐色の肌に派手な民族衣装を着た十代後半と思われる少年だった。 目を引く格好とは裏腹に、素朴な顔立ちからは緊張の色が見て取れる。


『えー今日は初配信ということで……、質問に答えながら俺がどんな神様なのか語っていこうと思ってます。 なので改めて、どうか皆さんよろしくお願いします!』


 無所属フリー配信者の初回配信であるにも関わらず大量のコメントが流れ出し、トラウィスは慌ててコメントを確認する。 すると彼に関する質問の他にも、さまざまな疑問が寄せられていた。


『早速たくさんのコメントありがとうございます! ――"神様ライバーって何?""神様なのに生徒なの?"――なるほど……そこから説明した方が良いか』


 前提となる情報を知らない人も居ると気づいたトラウィスは、まず自身が何者なのか説明を始める。


『えー……ぶっちゃけますと、俺はただの人間です。 普段は学校に行ったり、遊んだり、家事の手伝いとかをしてます。 普通じゃなくなるのはこのファンタジーな空間に居る時だけです』


 手を広げてくるりとターンする。 すると学生の部屋だった背景が一変、石造りの湖上都市を映す夜景に変わった。


『この空間でだけ神様になりきると不思議な力が使えます。 そんな人が世界中にはたくさん居て、地元では〈カミ語りガタリ〉って呼ばれてます』


 トラウィスが腕を伸ばし手の平を上に向けると、手の平から生えるように輝く槍が現れる。 少年は炎のように揺らめくそれを地面へと突き刺してから、説明に戻る。


『そんな〈神語り〉の力の源は知名度や人気、つまりチャンネル登録者数なんです! 〈神語り〉は力を引き出すために神様ライバーをやっている訳です。  ……すいません、ちょっと水飲み休憩します』


 説明がひと段落した〈神語り〉の少年はふところから水筒を取り出した。 神様の力を持っていても喉の渇きは防げないようだ。



『お待たせしました。 では気を取り直して、俺ことトラウィスカルパンテクトリについてお話します。 皆さんの中で俺の名前を知っている人はいますか? ――"知らない""どこで区切るの?"――区切りません、日本神話のアマテラスさんをアマ・テラスで区切らないのと同じです。 ――――ぁあ! 知ってる人居た! そうです、金星の神なんです』


 自身について知っている視聴者の存在にトラウィスは目を輝かせた。


『昔のアステカでは金星の光がいろんな災いを起こすと信じられていました。 金星の神であるトラウィスカルパンテクトリも光の槍を投げる恐ろしい神様とされていたんです。 だけど怖いだけの神様じゃあないんです』


 地面に突き刺さった光の槍を引き抜き、槍投げの構えをとる。


『この槍を使った有名なエピソードがあります。 太陽神が生まれた時、その神が生贄を要求してきたんです。 それに怒った金星の神様は太陽神に槍を投げつけました!』


 振りかぶって投げるふりをしたかと思うと、槍の穂先を自身に向ける。


『けれど槍は太陽神に投げ返されて、本人の頭に刺さっちゃいました。 金星の神様は深い傷を負い、朝の冷え込みの神様になってしまいました……』


 光の槍がりんかくを崩し、仄かな光になって漂い出す。 


『アステカ世界にとって生贄は大事な儀式で、それを止めようとした金星の神様は悪い神様だったのです……』


 月に照らされた水上都市が姿を消し、元の部屋に背景が戻った。


『……ってわけでちょっと格好悪く見えますが! アステカ世界のを壊そうとしたロックな神様ってことだけ覚えてくれれば大丈夫です!』


 悲壮感漂う演技の後にポジティブな解釈を語るトラウィスの顔からは、緊張の色が薄れていた。



『さあて自己紹介も終わったので、質問に答えていきますか! 一番多い質問は――"配信を始めたきっかけは何ですか?""イツラ生徒会長のお兄ちゃんなんですか?"――これは……どっちにしても妹の話題になりますね……』


 配信を始めた時から紛れ込んでいたが、丁度良いタイミングになるまで放置していた質問だった。

 ことの発端は1週間前。 トラウィスは、妹であるイツラコリウキの配信に乱入してしまったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る