第143話 帰宅

 翌朝、目が覚めた俺はそのまま歯磨きを済ませリビングへと向かう。

 マネージャーさん達はすっかりお酒から復活したようで、コーヒーを飲みながら優雅に朝食を済ませていた。


 しかし、まだ他の女性メンバーはみんな休んでいるようで、俺より先に目覚めていたハヤトがみんなの分の朝食を用意してくれていた。


「おはよう、よく眠れたかい?」

「おはよう、おかげさまで」


 ふかふかのベッドのおかげで、思った以上にぐっすりと休むことができた。

 ハヤトの淹れてくれたコーヒーを飲みながら、俺はマネージャーさん達にも朝の挨拶をする。

 三人とも昨日の酒乱っぷりはすっかりどこかへ消え去り、いつものマネージャーモードなことにほっと胸を撫で下ろす。


「おはようございます……あ、アーサーもおはよう」


 そこへ、欠伸混じりに階段を下りてきたのはリリスだった。

 まだ眠たそうに目を擦りながら、パジャマ姿に頭は寝ぐせで凄いことになっている。


 それでもリリスは、俺に気が付くと嬉しそうに微笑みながら朝の挨拶をしてくれた。

 そんなリリスの無防備な可愛さに、俺の胸は不意にトクンと高鳴る。


「お、おはよう。寝ぐせ凄いね」

「え? 寝ぐせ……? うわっ! マジじゃん!?」


 寝ぼけ眼で自分の頭を触ったリリスは、完全に逆立ってしまっている自分の頭に気が付くと、慌てて二階へと引き返していく。

 そんなリリスを見て、ハヤトもマネージャーさん達も面白そうに笑い合っていた。



 ◇



 一時間もすれば、全員起床しリビングへ集まっていた。

 朝食を済ませた人から帰り支度を始め、手分けしてやればすぐに片づけは終了する。


「うん、あとは大丈夫そうだね。それじゃ、帰ろうか」


 そんなわけで、最後はハヤトのチェックも無事済んだことで、このまま帰宅する流れとなった。

 行きと同じく俺はハヤトの助手席……かと思えば、帰りはどの車に乗るかクジでランダムに分かれることとなった。


 行きの時はまだ男女やグループ間に若干の壁もあったのだが、帰りは全員打ち解けることができているため問題はないだろう。

 そう思うと、今回のこの一泊二日の別荘イベントの大きな成果と言えるだろう。


 ということで、紙切れで簡単に用意したクジ引きの結果、俺は早瀬さんの車に乗ることとなった。

 他にはリリスとカノンという、何とも濃ゆい面子。


 ちなみにハヤトの助手席には、レナちゃんが座ることになった。

 実はレナちゃん自身、ハヤトのスポーツカーに凄く興味があったようで、当たりを引いたと大喜びをしている。


 そんなわけで、俺は早瀬さんの助手席に座ると、後部座席にはリリスとカノンが座る形で車は発進するのであった。



 ◇



「三人とも、楽しめたかしら?」


 運転をしながら、早瀬さんがそう声をかけてくる。


「そうですね、楽しかったです」

「そうね、こんな風に出掛けるのはVtuberになって初めてかも」


 俺の返事に、カノンも続く。

 その派手めな見た目とは裏腹に、Vtuberになって初めてだというのは少し意外だった。


「わたしは、結構出掛けることが多かったんですけど、Vtuberとして頑張っていくからには、今後は遊びも減らさないとですよね」


 対してリリスは、見た目通りのアウトドア派だった。

 それでも、今後はVtuberとして頑張る覚悟から、遊びも減らす覚悟のようだ。


「あら、息抜きは必要よ?」

「はい、それは分かっています。でもわたし、もっともっと頑張りたいんです。ずっと憧れていた、Vtuberになることが出来たんですから!」


 早瀬さんの言葉に、やる気に漲った様子で首を振るリリス。

 そんなリリスの言葉に、俺もカノンも思わず微笑んでしまう。


 もしかしたら、やる気が漲り過ぎているのかもしれない。

 それでも、本当に楽しそうに答えるリリスの言葉が素直に嬉しかったのだ。


 大学で初めて会話をしたあの時、リリスはカノンに憧れていると言っていたことを思い出す。

 それが今では、こうして同じVtuberとして肩を並べて座っているのだ。

 まさに夢を勝ち取った結果と言えるだろう。


 そんなリリスの言葉だからこそ、俺はこれまでと同じように、これからも出来る限りの応援をしたいと思う。


「だから、FIVE ELEMENTSにだって負けませんよ?」

「あら、言うじゃない?」

「はい、自信があるんでっ!」

「ふふ、いいわね。二つのグループで、バチバチやり合いなさいな」


 宣戦布告するリリスに、余裕を見せるカノン。

 そんな二人をけしかける早瀬さんの言葉に、みんな吹き出すように笑い合う。


 リリスにとって、かつての憧れは今のライバル。

 だったら俺も、おちおちしてはいられないなと気持ちを引き締める。


 そんな、物凄く頼もしい仲間が増えたことに改めて喜びを抱きつつ、それからも車内の会話は尽きることはないのであった。



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