第141話 「二回戦目」

「さっさと次を始めよう」


 ネクロのその一言で、俺も混ざっての二ゲーム目が開始される。

 しかし何故だろう、カードを配る段階から、ハヤト以外のみんなの闘志が先程とは比べ物にならないような気がするんだけれど……。


 そんな謎の疑問を抱きつつも、この大人数でのババ抜き対決。

 数少ない配られたカードを確認してみると、なんと最初の手札の中にペアが二組存在し、開始早々に俺は残り一枚となる。


 そして、またしても奇跡が起きる。

 まさかの一巡目で、何も考えずに引いた一枚が奇跡的に揃い、今度は俺が一番最初にあがることが出来たのであった。


 すると、それを受けてみんな悔しがると思いきや、更に空気が変わっていく。

 悔しがるものは一人もおらず、更にゲームに集中するみんな……。


 そんな反応にやっぱり疑問を抱きつつも、俺はこの無駄にガチンコ感の溢れる対決を眺めながら、ビリの人への罰ゲームを考えることにした。


「とぉりゃあ! っしゃあー!」

「ぐっ!!」


 ゲームは白熱し、リリスから引いたカードが揃わなかったアユムの気迫。

 それを受けて、揃わなかったことを悔しがるリリス。


 ――あれ? なんか逆じゃない??


 ババ抜きって、逸早くカードを揃えてあがるゲームだよなぁと思いつつ、どう考えても反応が真逆な対決は続いていく。


 そして泣く泣くあがる人達が増えていく中、最後はネクロとミリアちゃんの二人の一騎打ちとなる。


「さぁ、引く」

「い、行きますよ……」


 現在ネクロの手札が二枚で、ミリアちゃんの手札は残り一枚。

 ここでミリアちゃんが揃えば、ネクロの負けが決定する。


 緊張とともに、ネクロからカードを一枚引き抜くミリアちゃん……。


「……行きますよ、これだぁっ!!」


 そして、そんな気迫の籠った掛け声とともにカードを引いたミリアちゃんは、絶望の表情を浮かべるのであった。


「……揃いましたぁ」

「ふふん、わたしの勝ち」


 結果、ミリアちゃんがあがりネクロのビリが決定した。

 しかし、ここでも悔しがるのがミリアちゃんで、勝ち誇るのがネクロという逆転現象が起きていた。


「さぁアーサー。どんと罰ゲームを言うがいい」


 そして、何故か罰ゲームなのにワクワクした様子のネクロ。

 何だかよく分からないが、それじゃあ遠慮なくと俺はそんなネクロへ考えておいた罰ゲームを伝える――。



「分かった。じゃあネクロは、皿洗いで」

「えっ?」

「いや、ほら。みんなグラスとかお皿を使ってるでしょ? だから、このゲームが終わったらネクロが皿洗いね」



 俺からの罰ゲームを宣告されたネクロの表情は、期待するような表情から絶望の表情へと変わる。

 そんなネクロの分かりやすいリアクションを受けて、他のメンバーは笑いを堪えるのに必死な様子だった。


「……な、何故?」

「何故って、罰ゲームだからだろ?」

「そうじゃなくて!」


 納得いかない様子で、必死に訴えかけてくるネクロ。

 その表情は本当に必死な感じで、良く分からないが悪いことをしている気持ちにさせられる……。

 まぁ思えば確かに、ネクロは家事が得意なタイプではない。

 だから俺が思っている以上に、この罰ゲームのハードルが高いのかもしれない。


「……じゃあ分かったよ。俺も手伝ってやるから、手分けしてやろーな」


 だから俺は、勝者にも関わらず一緒に手分けしてやろうなと提案する。

 すると、落ち込んでいたネクロの表情は途端にパァッと明るくなり、嬉しそうに何度も頷くのであった。


 そんなわけで、結局罰ゲームとは何なのかよく分からなくなりつつも、二ゲーム目のババ抜きも終了したのであった。


 気付けば早いもので、時計を見れば夜の十時過ぎ。

 昼から目一杯遊んだしみんなお酒も入っていることもあり、何人か眠たそうにしているためここでババ抜きは終了となった。


 約束通り、俺はネクロと一緒に後片付けを済ませることにした。

 洗い物をしている間、ネクロは隣でずっと楽しそうに微笑んでいる。

 普段は無表情なことが多いのだが、これもお酒の力というやつなのだろうか。


 そして片付けが済んだ頃には、もうほとんどのメンバーは就寝のため部屋へと戻っていた。

 リビングに残ったのは、片付けしていた俺とネクロ、そしてネクロを待つ同室のアユムの三人のみとなる。


「二人ともお疲れ」


 少し眠たそうにしながらも、労いの言葉をかけてくれるアユム。

 そんなアユムに、嬉しそうに抱き付くネクロ。


「よし、じゃあ二人も休んどいでよ」

「「はーい」」


 ネクロが熱をだしたあの日以来、より仲良くなった感じの二人。

 そんな仲睦まじい二人の様子に、俺も自然と笑みが零れてしまう。


「ねぇ、アーサーも一緒に寝る?」

「それは名案」

「冗談はよせって。そんじゃ、おやすみ」


 したり顔で誘ってくる二人の悪ノリを断りつつ、俺は寝室へと向かうことにした。


「……別に冗談じゃないんだけどなぁ」


 なんて、アユムの呟きが聞こえてきた気がするけれど、きっと気のせいだろうと思いながら。

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