第102話 看病

「ほら、食べれるか?」

「うん……ありがとう……」


 お粥と薬の用意ができた俺は、ネクロを起こして食事を取らせる。

 やはり目に見えて弱っているネクロは、ゆっくりとお粥を口へ運ぶ。


「えへへ……おいしいよ……」

「まぁ、出来合いのものだけどな」

「アーサーが用意してくれたのが、重要」


 そう言って、嬉しそうに微笑むネクロ。

 俺はそんなネクロのおでこに、熱冷ましシートを貼ってあげる。


「うわぁ、冷たくて気持ちいい」

「とりあえず今は、それ食べて薬飲んだらゆっくり休め」

「……アーサーは、帰っちゃうの?」

「大丈夫、今日はいてやるよ。ついでに部屋も掃除しようと思うけど、いいか?」

「良かった……でも、掃除はちょっと恥ずかしい」


 喜びつつも、恥ずかしそうにするネクロ。

 風邪で弱っているせいか、どこかしおらしくもあり、不覚にもちょっと可愛いと思ってしまっている自分がいた。


「……でも、これはお礼。下着を嗅ぐぐらいなら許す」

「嗅がねーよ。いいから、今はゆっくり休め」

「うん……分かった……」


 安心した様子で、ふんわりと微笑むネクロ。

 それからお粥を全て食べてくれたネクロは、そのまま薬を飲んで横になった。


「ねぇ……彰……」


 するとネクロは、アーサーではなく名前で俺のことを呼んでくる。

 何となくその呼び方の変化が、ネクロではなく素のクリスとして気を許してくれている感じがした。


「どうした、クリス?」


 だから俺も、名前を呼んで返事をする。


「ラブコメの定番イベント……」

「定番? というかラブコメ?」

「お願いがある…………汗、かいた」


 ああ、なるほどな……。だからラブコメか……。

 たった一言だけれど、クリスが何を望んでいるのか察しが付いた。


 ここで慌てて見せるのが、ラブコメ主人公のお約束だろう。

 でも俺は、そんなメタ発言を冗談っぽく言ってはいるが、すっかり弱っているクリスを前にそんな無駄な反応はしない。


「――分かった、着替えはどこにある?」

「浴室の棚、一番上が下着で、その一つ下がパジャマ……」


 動じない俺の反応が予想外だったのか、はたまたいざ着替えるとなると緊張しているのか、恥ずかしそうに場所を教えてくれるクリス。

 そんな、いつもより女の子らしい反応をされてしまうと、せっかく平静を保っていた俺もちょっと意識してしまうというか、やっぱり少し恥ずかしくなってきてしまう。


「分かった、取ってくるよ」

「タオルは、下着の隣の棚……」

「お、おう……任せろ」


 若干の気まずさみたいなものを感じつつ、俺は言われたまま浴室へ向かった。

 リビングや寝室とは違い、しっかり片付けられている浴室。

 こういう水場はちゃんと綺麗にしていることには感心しつつ、俺はまずタオルを取り出して洗面台でお湯に浸す。


 それからパジャマを取り出すと、残りは下着——。

 さっき吊るされていたアレとは違い、この棚の中にはクリスの普段付けている下着が沢山……と、しっかりラブコメ主人公ムーブに陥りながらも、俺は意を決して下着を取り出す。

 何となく、今は着やすくて吸水性が高そうなものの方がいいと思ったため、白や赤のフリルの付いた可愛らしいものではなく、グレーのスポーティーなものをチョイスした。


 こうして、着替えと身体を拭くようのタオルを用意した俺は、再び寝室へと戻る。


「も、持ってきたぞ」

「ありがとう……ふふ、チョイス正解」


 持ってきた下着をチェックしたのだろう、クリスは満足そうに微笑む。

 そしてクリスは、おもむろにパジャマの上着のボタンを外し出すと、そのまま下着のホックも外す。

 それからクリスは、布団をぎゅっと抱き抱えながら、露わになった背中を俺に向けてくる。


「……背中だけ、拭いてもらっても、いい?」

「あ、ああ、そうだな……」


 俺は緊張しつつも、クリスのその白い肌にタオルをあてる。


「ひゃう!」

「す、すまん!」

「……ビックリした。でも今のは、ラブコメポイント高い」

「はいはい、じゃあ拭くからな」

「むー、これは彰とわたしのラブコメチャンスなのに」


 そんなクリスの冗談のおかげで、緊張がちょっと和らいだ。

 俺はしっかりクリスの背中を拭いてあげると、タオルをクリスに手渡す。


「よし、背中は完了! あとは自分でできるよな?」

「へへ、全身拭いてくれてもいいんだよ?」

「そうか、じゃあ前を向いてくれ」

「……ごめんなさい。自分でやります」

「おう、じゃあ部屋から出てるから、着替え終えたら教えてくれな」


 いつもの調子でおちょくってくるクリスを、俺はおちょくり返す。

 するとクリスは、背中を向けたまま恥ずかしそうに自分で胸周りを拭き出したから、俺は部屋から出て行く。

 いつもおちょくってはくるが、いざ向き合うとなると恥ずかしがるクリス。

 そんなところは、やっぱりちょっと可愛いなと思えるのであった。


「お、終わった」

「そうか、入るぞ」


 着替えを終えたクリスは、満足そうにベッドで横になっていた。

 そして枕元には、今脱いだパジャマと水色の下着が畳んでおいてある。


「じゃあ、これも洗濯しといてやるよ」

「うん、ありがとう。……でも、それは汗かいてるから、絶対に嗅いだらダメだよ?」

「だから嗅がねーよ!」

「ふふ、ラブコメたすかる」


 まぁこれだけ冗談を言えるなら大丈夫かと思いつつ、次はこの散らかり切った部屋の掃除頑張るかと俺は気合いを入れるのであった。



--------------------

<あとがき>

ちょっと、エチチだった?w

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