第97話 どっちの歌姫でShow③

 互角の展開となった”どっちの歌姫でShow”。

 しかし、全部で五本勝負のため、最終的には必ず決着がつくであろうこの対決。

 二人の歌姫の歌唱力は本当に高く、リスナーもどっちが勝つか完全に意見が割れている様子だった。


 その後も対決は続き、現在四曲目の対決が終えたところ。

 演歌、アイドルソングときて、三曲目はボカロ曲、そして四曲目は童謡と続いた。


 結果はここまで二勝二敗。

 物凄く早口なボカロ曲を制したカノンに、完全に歌のお姉さんとなって童謡を制したツクシちゃん。

 そんな二人の歌唱力バトルは、勝敗はともかく聴いているだけでとても楽しく、なんなら毎週やって欲しいぐらいの盛り上がりを見せていた。


 ちなみに罰ゲームだが、三曲目負けたツクシちゃんには『リスナーに向かって愛の一言』だった。

 恥じらいながらも、リスナーのみんなへ『……大好き』と一言告げられたことで、コメント欄は狂喜乱舞と化したのは言うまでもないだろう。


 そして、四曲目に負けたカノンの罰ゲームは『モノマネ』。

 これまたカノンのイメージにない罰ゲームだったが、カノンは某人気推理アニメキャラの声真似を完璧に再現してくれた。

 それにはコメント欄も大ウケで、この罰ゲームで新たなカノンの可能性を知ることができたのであった。


 そんなわけでこの罰ゲーム、むしろこっちが本番なんじゃないかってぐらい盛り上がりを見せていたのであった。


 そして勝負は、最後の一曲――。

 最初はカノンからで、流れ出したイントロは有名なバラード曲だった。


 変わり種の四曲が続いたが、最後は正統派のバラード曲での対決。

 ただその曲はリズムが難しく、普通に歌うだけでも精一杯の一曲だった。


 だが、これから歌うのはFIVE ELEMENTSとDEVIL's LIPの二人の歌姫。

 最後に正統派の歌唱力対決を持ってきたことに、コメント欄は驚きと期待と興奮に包まれる。


『目が覚めると、隣にあなたがいて』


 そして、バラード曲の歌い出し。

 これまでとは違うカノンの本気のその歌唱に、俺は全身の鳥肌が立つ。


 ――凄い。


 これまで何度もカノンの歌声を聴いてきたが、難関曲での本気の歌唱。

 もしかしたら、ツクシちゃんという仲間でありライバルでもある存在が現れてくれたことで、初めてカノンも本気になれたのかもしれない――。


 その歌声からは、負けたくないという強い気持ちが伝わってくるようだった。

 胸に直接響いてくるような、歌詞に感情の籠められた力強いその歌声――。


 そんなカノンの歌声に、コメント欄のみんなも聴き入っていた。

 ペンライトの絵文字が絶え間なく流れ出し、今この時間だけは間違いなくカノンのソロステージだった。


『それはあなたがくれた、幸せでした――』


 そして、最後のフレーズが歌われる。

 一番のみと言わず、フルで聴きたくなってしまうほど完璧すぎたその歌声に、コメント欄は拍手喝采となる。


『……やりますね』

『どうも』


 ライバルながらも、認めざるを得ないといった感じで声をかけるツクシちゃん。

 だからこそ嬉しかったのだろう、カノンは満足そうに返事をする。


 そして次は、ツクシちゃんの番。

 同じ曲のイントロが流れ出すと、ツクシちゃんは一度深呼吸する。


『目が覚めると、隣にあなたがいて』


 ツクシちゃんの歌い出し。

 それは同じ曲だけれど、カノンの歌とはまた違った曲のようにすら感じられる。

 歌っている人が違うのだから、その歌声に違いが出るのは当たり前だろう。


 でもそういう話ではなく、ツクシちゃんはツクシちゃんで完璧にこの曲を自分のものにしているのだ。


 抑揚のある歌い方に、透き通るような綺麗な声。

 それは聴いているだけで心地よく、元々の原曲がこうだったんじゃないかと思えるほど自分のものにした歌声だった。


『それはあなたがくれた、幸せでした――』


 そしてカノンの時と同じく、聴き入っているうちにあっという間に曲の一番が終わってしまうのであった――。


 カノンの時と同じく、コメント欄は拍手喝采に包まれる。

 それに満足するように、ツクシちゃんは『どうも』と一言感謝する。


『それじゃ、投票に移るわね』


 そしてカノンは、もう不要な会話は必要ないというように、すぐにコメント欄に投票システムを表示する。

 その結果、コメント欄はどっちに投票していいのか本気で悩み出す――。


 でも、これでどっちが上か完全に白黒つけられるのだ。

 二人だけでなく、この配信に集まった全ての人が固唾を飲んで結果を見守る――。



『じゃあ、結果を発表するわね――カノン50%、ツクシ50%……だから、結果は引き分け?』

『そう、なりますかね――』



 その予想外の結果に、二人ともキョトンとした反応を見せる。

 本来であれば、二人にはちゃんと白黒つけて欲しかった。

 でも今回だけは、この引き分けの結果こそ一番しっくりくるのであった。


『まぁ、今回は引き分けということで』

『ふふ、そうですね』


 そしてその結果は、実際に対決した二人も納得している様子だった。


『楽しかったわ』

『こちらこそ。――実はわたし、ずっとカノンさんが憧れだったんです』

『わたしが?』

『ええ、だからわたしはDEVIL's LIPに応募したんですから』


 始めてカミングアウトされた、ツクシちゃんがDEVIL's LIPになった理由。

 それは驚きではあったが、今の二人を見ていると納得もできた。


『そう、嬉しいわ。これからもよろしくね、ツクシ』

『ええ、こちらこそよろしくお願いします。――それで一つ、お願いがあるのですが』


 改まった様子で、お願いを申し出るツクシちゃん。


『お願い? 何かしら?』

『本当は、勝ったらお願いしようと思っていたのですが……その……これから、お姉様って呼んでもいいですか?』

『お、お姉――なんでっ!?』

『だってカノンさんは、わたしの憧れのお姉様なんですもの』


 驚くカノンを楽しむように、理由を告げるツクシちゃん。

 照れつつも、カノンが『勝手にしなさいっ!』と受け入れると、早速お姉様と言いながらすり寄るツクシちゃん。


 こうしてこの日から、カノンはツクシちゃんからお姉様と呼ばれるようになったのであった。


 そんなわけで、今回の”どっちの歌姫でShow”。

 結果は、全員納得の引き分けに終わったのであった。



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<あとがき>

結果は引き分けでしたーw

そしてカノンとツクシちゃん、まさかの姉妹関係に――!!


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