第91話 初配信後
『観ててくれてた!?』
配信が終わるや否や、送られてきたメッセージ。
それは他でもない、たった今愛野リリスとして初めての配信を終えた梨々花からのメッセージだった。
配信を終えて真っ先に送ってきたのが、マネージャーでもDEVIL's LIPのメンバーでもなく俺なことが、ちょっと嬉しかった。
だから俺は、そんな梨々花にすぐに返信する。
『うん、ちゃんと観てたし面白かったよ! あほピンクちゃん』
観ていたという証拠も兼ねて、トレンドワードでもある『あほピンク』とつけて返信する。
すると梨々花から、すぐに返信が返ってくる。
『もう! 彰まであほピンクって言うなぁ! でも観ててくれたのは伝わったよ』
そのメッセージとともに、喜ぶ女の子のスタンプも合わせて送ってきた梨々花。
そんな、梨々花から送られてきたメッセージは愛らしくて、俺はつい笑ってしまう。
DEVIL's LIPは間違いなくアイドルだ。
だけど配信では、これから笑いを沢山生み出していくのだろうと思うと、そんなギャップはとても好ましかった。
『このあとの、振り返り雑談もちゃんと観てるから頑張ってね!』
だから俺は、梨々花にそう返信する。
このあとの振り返り雑談も、ちゃんと見守ってるからねと。
『うん、ありがとう。彰がそう言ってくれるおかげで、次も頑張れそうだよ』
そしてまた、喜ぶ女の子のスタンプも送ってきた梨々花は、すっかりやる気満々なご様子だった。
この調子なら大丈夫だろうと、その後も見届けた振り返り雑談配信。
梨々花は愛野リリスとして、またしてもリスナーと楽しくプロレスしながら、笑いに溢れた配信を届けてくれたのであった。
◇
「彰ぁー!!」
次の日。
教室の端で一人時間を潰していると、昨日と同じく俺の名前を叫びながら教室へと入ってきた人物が一人。
その声に振り向くと、そこにはもちろん梨々花の姿があった。
ただ、昨日の思い悩んだ表情とは違い、今日はすっかり晴れ晴れとした表情を浮かべていた。
「おはよう、あほピンクさん」
「もうっ! その呼び方やめてよねっ!」
そんな梨々花に俺は、いじりながら挨拶をする。
すると梨々花は、あほピンクと言われたことに対して配信と同じくプンプンと怒りだす。
でもその表情は、はっきりと喜びが滲み出ていたいるのが分かった。
ついに念願だった、Vtuberデビューを果たしたのだ。
それが嬉しくないはずもなく、梨々花は朝から分かりやすくご機嫌なご様子だった。
「今日はアールちゃんだっけ?」
「うん、そうだよ! 楽しみだね!」
「そうかぁ、じゃあ今日も応援しないとだなぁ」
今日のデビュー配信は、夢星アール。
リリスに限らず、DEVIL's LIPのみんなは俺にとって初めての後輩だから、是非とも全員に頑張って欲しい。
そんな思いで、今日もDEVIL's LIPを応援しようと呟くと、何故かこちらをじーっと見てくる梨々花。
「な、何?」
「いやぁ? べっつにぃー?」
口ではそう言うも、やっぱりどこか不満げな感じで目を細めている梨々花。
仲間のデビュー配信を応援すると言ったことの、一体何が悪いというのだろうか……。
「……あ、もしかして不仲?」
「全然仲良いよ!? やめてぇ!?」
「いや、だったらその目つきをやめてほしいんですけど……」
良かった、どうやら別に不仲というわけではないようだ。
じゃあその目つきはどうしてと返事をすると、梨々花は困ったようにその表情を引きつらせる。
「梨々花?」
「彰はその……アーサーとして応援するだけだよね?」
「え? ああ、まぁ、うん」
「な、ならいいです、忘れて下さい」
そう言って、この話を一方的に終わらせる梨々花。
恥ずかしいのか目を逸らしながらも、その頬は赤く染まっていた。
まぁよく分からないが、問題ないのなら俺も別にそれでよかった。
まさか梨々花が他のメンバーに嫉妬するはずがないよなと、俺は俺でそれ以上気にしないでおくことにした――。
「そ、それはそうと、昨日は観てくれてありがとね」
「ああ、うん。面白かったよ」
そして話題は変わり、昨日のデビュー配信についての話になる。
昨日メッセージではやり取りしたものの、こうして面と向かって言われるのはやっぱり嬉しかったようで、ニッと微笑む梨々花。
「ち、ちなみに、どの辺が良かった?」
「んー、あほピンクなとこ?」
「もうっ!!」
再びイジると、良いリアクションを返してくれる梨々花。
その反応はやっぱりリリス本人で、何だか昨日の配信の続きを二人きりでしているような、ちょっと嬉しくなってきてしまう。
――もう俺も、すっかりリリスファンってことだな。
不満そうにぷっくりと膨れる梨々花はやっぱり可愛くて、見ているだけで癒される。
「ごめんごめん、そういう梨々花の切り返しの上手さとか面白くて、普通に参考にしたいぐらい感心しながら観てたよ」
「え? あ、彰が!? そ、そっかぁ……へへ……」
満更じゃない感じで、嬉しそうに頬を赤らめる梨々花。
そんなコロコロと変わる表情も可愛くて、見ているだけで全然飽きなかった。
スススッ――。
そして梨々花は、長椅子の距離をそっと詰めてくる。
肩と肩が触れ合うほど近付いてきた梨々花は、そのまま恥ずかしそうに俺の顔を上目遣いで見上げてくる。
「――じゃ、じゃあさ……わたしを彰の推しに、してくれる?」
急に告げられたその言葉に、俺はもうただ無言でコクコクと頷くことしかできなかった――。
結果、満足そうに微笑む梨々花を前に、俺の胸はドキドキと高鳴り出してしまうのであった――。
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