第二章

第43話 トレンド

 DEVIL's LIP―—。


 それは今、SNSを最も賑わせているトレンドワード。


 大人気Vtuberグループ『FIVE ELEMENTS』の妹分グループとして結成された、全五名からなる女性Vtuberアイドルグループだ。


 まだデビュー前にもかかわらず、それぞれのママ(イラストレーター)の豪華さ、そして何より、FIVE ELEMENTSという今を時めくVtuberグループの妹分ということも相まって既に話題に尽きない状態なのである。


 そして今日、そんな彼女達のデビュー日がついに解禁されたのである。


 情報解禁とともに、ネット上では瞬く間にその情報は拡散されていき、あっという間にトレンド一位ワードにまで広まっていく。


 そんな彼女達のデビュー日は、今日からちょうど一ヵ月後とのこと。

 更に秘密情報もあるらしく、その点については追って告知されていくとのことだった。



 ……というわけで、今日も大学へ向かうため朝早くに起床した俺は、SNSの賑わいをチェックしながら身支度をしている。


「……すごいことになってるなぁ」


 デビュー前からトレンド入りなんて、デビューしたらどうなってしまうんだろうか――。

 もしかしたら、俺達も追い抜いていくんじゃないかと思えるほど、SNSはDEVIL's LIPの話題で持ち切りなのであった。


 そんなわけで、支度を終えた俺は今日もいつもどおり大学へと向かうべく家を出るのであった。


 いつもと変わらない都会の街並みに、建物に覆われた空模様。

 相変わらず道行く人が多いのだが、そんな状況が当たり前になってきているあたり、俺もこの都会に馴染んできたということだろうか。


 上京した当初は、この都会の生活に苦労していたことを思えば、気付かないうちに俺自身も変わっていってることを自覚する。

 それはこの都会だけでなく、ライバーとしてもきっと同じなのだろうと思いながらいつもの道を歩く。


 そんなわけで、今日もいつもどおり大学へとやってきた俺は、いつもどおり授業のある教室の最後尾の端の席へ着席するのであった。


 そして持ってきたパソコンを開き、とりあえず目立たない程度にスケジュール整理でもしていると、そんな俺の肩がトントンと叩かれる。


「おはよ! 桐生くん!」


 振り向くとそこには、藍沢さんの眩しい微笑みが待っていた。


 特徴的な金髪ヘアーに、陶器のように透き通った色白の肌。

 スラリと伸びた細い足は美しく、すれ違う誰もが思わず振り向いてしまうような特別な存在――。


 そんな藍沢さんが、今日もいつもどおり俺に声をかけてくれて、そして当たり前のように隣の席へと腰掛けるのであった。


「お、おはよう藍沢さん」

「うん! えへへ」

「ど、どうかした?」

「ううん、なんでもないよーだ♪」


 ニッと微笑み、朝からどこか上機嫌な様子の藍沢さん。

 そんな眩しすぎる微笑みを前に、俺も自然と笑みが零れてしまう。


「ねっ、桐生くん! スマホ見てみて」

「え? スマホ?」


 それから一生懸命スマホをいじっていた藍沢さんに言われて、俺は自分のスマホを確認してみる。

 すると画面には、藍沢さんからのメッセージ通知が一件。

 時間はたった今送られたものであることから、藍沢さんは俺のすぐ隣でわざわざメッセージを送ってきたことになる。


『SNS見た? わたし達、DEVIL's LIPのデビューが公開されたよ!』


 なるほど、だからこんなにもご機嫌なのかと納得しつつ、俺はスマホから隣の藍沢さんへ視線を移す。

 するとそこには、小悪魔な笑みを浮かべる藍沢さんが待っていた。


 その笑みはやっぱり嬉しそうで、すぐ隣でそんな顔を向けられては俺まで嬉しくなってきてしまう。


『見たよ! いよいよデビューだね!』


 きっとこれは、周囲に聞かれないための配慮なのだろう。

 そう思い俺は、口ではなく同じくメッセージで返事をした。


「そうなの! もう緊張しちゃうよー!」


 しかし藍沢さんは、前のめりになりながらそう口で返事してしまうのであった。

 口では緊張すると言いつつも、その表情はやっぱりワクワクとした様子で満面の笑みを浮かべている。


 そんな、すっかりメッセージでやり取りした意味も台無しな藍沢さんだが、幸い近くには誰もいないし、まぁバレてはいないだろうと俺も一緒に微笑んだ。


「今週末に集まりがあるんだっけ? 頑張ってね」

「うん! ドキドキしちゃうけど、他の子とも仲良くなれるようにわたし頑張るよ!」


 鼻息をフンスと鳴らしながら、やる気に満ち溢れる藍沢さん。

 そんな分かりやすい藍沢さんは可愛くて、キレイと可愛い、そんな二つのギャップも藍沢さんの魅力と言えるだろう。

 こんなに人を惹きつけて止まない藍沢さんならば、きっと上手くやれるに違いない。


「そ、それはそうとね、桐生くん……」

「ん? どうかした?」

「あの、そのね? オ、オフ会だけど――」


 さっきまでのテンションとは打って変わり、急にしおらしく告げられたその言葉に、俺はドキッと胸が大きく跳ね上がる。

 そうだった、この間俺は藍沢さんとオフ会をする約束をしていたのだった――。


 元々藍沢さんとはオフで知り合ったのだから、普通に考えればオフ会もクソもないとは思うのだが、それでもオフ会と言えばオフ会なのである。


「え、映画とか、どうかな?」

「映画?」

「うん、ちょっと観たい映画があってね……無理ならいいんだけど……」

「む、無理じゃないよ」

「ほ、本当?」

「う、うん! 観よう映画!!」

「やった!!」


 俺の返事に、ほっとするように喜ぶ藍沢さん。

 その様子から、俺が藍沢さんを誘うのに勇気がいるように、藍沢さんも勇気を出して誘ってくれたのだろうと思うと素直に嬉しかった。


「じゃあ、いつにしよっか?」

「今日!!」

「きょ、今日!?」

「うん! 思い立ったが吉日って言うでしょ? 何か予定とかあった?」

「いや、特にはないけど……」

「じゃ、決まりだねっ! 楽しみだなぁー」


 さっそくスマホで、映画館の予約状況を確認する藍沢さん。

 そんな藍沢さんの行動力に笑ってしまいつつも、藍沢さんと一緒に映画に行けるのだと思うと、実感とともに嬉しさが込み上げてくる――。


 こうして俺は、今日さっそく藍沢さんとのオフ会を決行することとなったのであった。



--------------------

<あとがき>

というわけで、二章のスタートです!

オフ会にデビューと、どうなってしまうのでしょうね!


今後もおれブイをよろしくお願いいたします!!


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