第36話 晩酌

「相変わらず、ハヤトの家って無駄に広いよねぇー」


 アユムの言葉どおり、相変わらず広すぎるハヤトの家。

 久々に来たものの、やはりこの広さには感心してしまう。


 ちなみに俺達のルールとして、こうして外部の人がいない家や事務所に入ったその瞬間から、互いの呼び方は本名ではなくVtuberの名前で呼び合うこととなっている。

 これは、外でVtuber名で呼び合うことで身バレするのを防止するのと同じで、配信上で本名をぽろっと言って身バレするのを防止するためだ。


「ははは、ノリでここに決めちゃったよね」

「いや、ノリで借りれるような部屋じゃないでしょ……」

「そんなことないよ、みんなだって住めると思うけどね」


 ニヤリと笑うハヤト。

 そう、ハヤトも俺達と同じFIVE ELEMENTSの仲間なのだ。

 だから俺達の収入は、何となく分かっているのだ。


 まぁ、ハヤトの言うとおり住もうと思えば住める範疇ではあるのだろうが、そもそもこんなオーバースペックの家には住もうとは思わないのだ。


 そんなわけで、リビングへ通された俺達はとりあえず時間がくるまで寛ぐことにした。

 人の家ではあるが、俺達はある意味家族みたいなものなのだ。

 みんなこの豪華な家に臆することもなく、思い思い我が家のように寛ぐのであった。


「ふぅ、なんだか既に疲れちゃったな」

「ん? 何かあったのかい? 唯一の男同士、話聞くよ?」


 コーヒーを差し出してくれながら、ハヤトが話かけてくる。


「ありがと。いや、みんなでメイド喫茶行ってきたんだよ」

「メイド喫茶? あはは、いいじゃない、楽しかった?」

「ああ、うん、まぁ」

「なら、何にそんな疲れたって言うんだい?」


 そう言われると、何も言えなくなってしまう。

 そもそも、この疲労感の原因は口にはできないことだから……。


「そんな話はあとでいい。今はわたしの相手をするべき」


 すると、そんな俺とハヤトの会話に割って入ってきたネクロが、俺の腰掛けるソファーの隣に座ってくる。


「今日はアーサーが来ると思ったから、わたしもこうしてここにいる」

「いや、そう言われてもな……」

「いいから相手する」

「相手って、何の?」

「これに決まってる」


 そう言って、ネクロは自分のスマホの画面を見せてくる。

 画面には、有名本格カードバトルゲームのタイトル画面——。


「はぁ、分かったよ……」

「よろしい。ただし、アーサーはわたしに勝つことは不可能」


 やってもないのに、ドヤ顔で勝ち誇るネクロ。

 ちなみにこのカードゲームには様々なクラスがあり、ネクロは名前のとおりネクロマンサーのクラスしか使わず、いつもゲーム内の最高ランクまで到達している。


 何故それを知ってるのかと言えば、それはネクロの数少ない配信でこのゲームの実況プレイをよくしているからだ。


 その配信では、常に四万人以上の同接数を誇っており、言い方は悪いがこのゲームでその同接数はまさしく異例であった。


 カードゲームはプレイングがかなり重要なため、プレミなどすると配信が荒れがちになるから配信向きではないゲームとされている中、ネクロの場合は荒れることがないのだ。


 何故なら、このゲームにおいてネクロの腕前はプロゲーマークラスだからだ。

 リスナーでも気づかないリーサルに即座に気付き、華麗にコンボを決めた切り抜き動画は沢山ネットに転がっているほどだ。


 だからまぁ、エンジョイ勢の俺がネクロに敵うはずもないのだが、一緒にゲームをしたいと言うなら付き合ってやらないこともなかった。


 ――メイド喫茶の話題は避けたいしな。


 こうして俺は、暇つぶしにネクロとゲームをすることとなった。



 ◇



「……おかしい」

「あはは、なんかすまん」


 結論から言うと、ネクロに二連勝してしまった。

 まぁこういうゲームは運とかデッキの相性もあるから、腕前だけでは勝敗は決しないものだ。


 ただ、それでも俺が二連勝してしまったことに、ネクロは悔しそうに爪を噛んでいた。

 そんな悔しがる姿は正直ちょっと可愛くて、揶揄い甲斐があった。


「ねぇねぇ、わたしも混ぜてよぉー」

「なんだ、アユムもやってるのか?」

「うん、配信で使えるかなーと思ってちょびっとだけね」

「そうか、なら一緒にやるか」


 そこへアユムも混ざってきて、三人で遊ぶことにした。

 ちなみにハヤトとカノンの二人は、台所で今日の晩酌の準備をしてくれている。

 手伝わなくても良かったかなと思いつつも、料理が得意な二人から逆に願い下げられてしまったのだから仕方ない。


 こういうのは適材適所なのだ、うん――。


 そんなわけで、それぞれリラックスして過ごしていると、あっという間に配信時間の一時間前になっていた。


「じゃ、そろそろ始めちゃいましょうか」


 そう言ってカノンが、リビングのテーブルの上に作った料理を運んできた。

 サーモンとアボカドを巻いた料理や、サラダ、唐揚げ、ポテトとザ・おつまみといった感じの料理は、そのどれもが美味しそうだった。

 そしてハヤトとアユムは、ビールなどのお酒と乾きものを持ってくる。


「っと、アーサーはまだ未成年だから、はいお茶」

「ああ、ありがとう……」

「ってことで、とりあえず乾杯しましょうか!」


「「かんぱ~い!」」


 まだ未成年の俺だけ、お茶で乾杯する。

 なんだろう、この疎外感は……。


 ただまぁ、他のみんなはお酒を飲んでいることだし、今回のオフコラボは俺がしっかりしないとだなと覚悟する。


 こうして晩酌がスタートすると、すぐにみんなの酔いは回っていき、あっという間に配信時間がやってきたのであった。


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