第35話 柔らかい
チェキの撮影を終えると、時間もちょうどいい頃合いとなったため精算をすることになった。
精算する際、じっと向けられる藍沢さんの視線がちょっと痛かったけれど、とりあえず大きくは何事もなくやり過ごせたことにほっとする。
――とは言っても、問題は残ってるんだけど……。
そう思い隣を向けば、穂香は穂香でずっと疑うような視線をこちらへ向けてきているのであった。
その視線は、俺と藍沢さんの関係を探っているのだろう。
しかし、俺と藍沢さんは本当にただの友達なのだ。
どれだけ探ろうと、それ以上でも以下でもないのだから勘弁して欲しい……。
まぁそんなわけで、色々あった気がするメイド喫茶から出た俺達。
「じゃ、クリスの用事も済んだことだし、適当に食べ物とか買って向かいましょうか」
紅羽のその一言で、ようやく今日の目的であるハヤトの家へ向かうこととなった。
「ねぇ彰、何食べるの?」
すると、もう自分の用事は済んだクリスが、そう言いながら俺の腕へと抱きついてくる。
クリスはいつもこうで、人懐っこいというか何と言うか、やたらスキンシップが多いのである。
「何でもいいけど、とりあえず近いって」
「えー、いいじゃない。わたしと彰の仲でしょ?」
「どんな仲だよ? 変な言い方するな」
抱き付きながらも相変わらずのマイペースで、楽しそうにじゃれてくるクリス。
だが、今日はクリスだけでは済まなかった――。
「じゃあわたしも!」
そう言って穂香が、便乗するように空いてる方の腕に抱き付いてきたのである。
「あ、ちょ!? 穂香までやめろって!」
「えへへ、いいじゃん別にぃー? 減るもんじゃないしぃー?」
「そ、そういう問題じゃないだろ!?」
焦る俺を揶揄うように、うりうり~! と身を寄せてくる穂香。
結果、俺の腕に押し当てられる大きくも柔らかい感触……。
「あっ、今絶対に変なこと考えてたでしょ。これは負けてられない」
「ちょ、クリスまで!」
穂香にライバル心を燃やすように、同じく自分の柔らかいものを腕に押し当ててくるクリス――。
クリスはクリスで、穂香ほどではないがそれなりにあるのである。
――いや、どこのハーレムアニメの主人公だよ!!
現実でこんなバカなことをやる奴があるか! と焦った俺は、慌てて二人から腕を引き離す。
「ったく、外でこういうのは恥ずかしいから止めてくれ」
「えー、じゃあ屋内ならいいの?」
「そ、そういう問題じゃない!」
「何よ、ハーレム主人公みたいな反応しちゃって」
「鈍感主人公」
焦る俺をおちょくるように、悪戯な笑みを浮かべる二人――。
とりあえず、鈍感主人公は止めてくれ……。
「はぁ……もういいかしら? そういう暑苦しいのは、わたしのいない時にやってくれないかしら」
そして最後に、呆れた紅羽から睨まれるようにトドメを刺されるのであった。
そんなわけで、気を抜くとやっぱり三対一。
俺は何も悪くないのに、相変わらずの理不尽っぷりなのであった……。
◇
「やぁみんな! いらっしゃい!」
買い物を済ませ、ハヤトの家へとやってきた俺達。
呼び鈴を鳴らすと、すぐにハヤトが出迎えてくれた。
ハヤトの家は、都内の高層マンションの最上階。
間取りはたしか4LDKで、とにかく綺麗で広くて凄くて凄いのだ。
もう本当に凄い。
何故ハヤトがこんな家に住んでいるのかというと、それはもちろんVtuberとしての収入もあるのだが、それ以上に元々持つハヤトの財力が大きい。
ハヤトはピアニストとしての顔も持ち、同時にその才能を活かして作曲家でもあるのだ。
だから実は、これまで数々の作曲を手がけており、そうした音楽活動から得た資金の結果がこれなのだそうだ。
ただこれにも理由があり、ハヤトの家はあまり物がなく、やたら多い部屋はそれぞれ配信用の部屋と音楽活動用の部屋で分けられており、ある意味ここは家というよりもハヤト専用の職場に近いだろう。
まぁそれにしてもオーバースペックと言うか、凄い家なわけだが……。
だから俺は、ここへ来るのは今日で二度目だが、相変わらずの凄さに驚いてしまうのであった――。
「いらっしゃい、彰」
「お、おう、お邪魔します……」
「はっはっは! なんだい彰、今日は余所余所しいじゃないか? 僕達の仲だろ?」
そう言って笑いながら、肩を組んでくるハヤト――。
そう、この鬼龍院ハヤトこと
そんな武はと言えば、俺から見てもとにかくイケメンである。
ハヤト同様金髪の髪に、色白の肌。
背はスラッと高く、ピアニストなだけあって指も長くて綺麗だ。
そんな武を例えるなら、やっぱりハヤト同様王子様キャラだろう。
ある意味、武が一番キャラと現実がそのまんまなのかもしれない。
「ちょっと二人とも、玄関でいちゃつかないでくれる? 入れないんだけど」
「あー、すまない紅羽。いや、久々に彰に会えたのが嬉しくってね」
「何よそれ、気持ち悪い」
「おいおい、そんな酷いこと言わないでくれよ。――さ、今日の準備は済ませてあるから、どうぞ入ってくれ」
こうして俺達は、会って早々癖の強い武の家へと招かれたのであった。
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