第23話 狐の仮面

「……失礼します。」


僕らは恐る恐るその部屋に入り、園城寺さんの目の前へと座った。


「まさかまだ子供が生きていたとは。」


彼は優しい笑顔でそう言った。


「疲れただろう。お茶でも飲んだらどうだ?」


「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」


彼もこの町の大人だ。


異変にかかっていない保証はどこにもない。


藤井先生のように時間をかけて殺してくるかもしれない。


もちろん毒もある。


「いや、飲め飲め。おーい。」


「はい、主人様。」


開いていない方の障子を開けて、彼の近くに座ったその人はおかっぱで狐の仮面を被っていた。


服装は巫女さんのような服装だった。


「この方達にお茶を。」


「はい、かしこまりました。」


「あ、それと菓子も。」


「はい。」


「そんな悪いです。」


「いやいや、疲れてるだろ。いっぱい食べなさい。」


「……ではお言葉に甘えて。」


僕達はしばらくしてから持ってこられたお茶と和菓子を見つめた。


「どうした?毒などは入っておらんぞ?」


「……」


「じゃあ、どれ。一つ食おうじゃないか。何でもいいからひとつその中から選んだものを私に渡しなさい。」


僕らが選んだ和菓子を彼に渡した。


すると彼はなんの躊躇いもなく、丁寧に食べた。


「これでもまだ信じられぬか?じゃあお茶もほれ、一杯飲ませてみろ。代わりのものを持ってこさせよう。」


彼は僕らが選んだお茶も飲み干した。


「さぁ休め。そんなんじゃ疲れが取れんだろう。」


「……いただきます。」


僕達はお菓子とお茶を平らげ、いっぱいのお腹で少し休憩をした。


「食べ終わったか?」


「えぇ、はい。」


「よし、では決闘を申し込む。」


「え?」


「お主ら全員でわしを倒してみろ。わしはこの刀でお前達を斬る。一人残らず全員じゃ。勿論お主も参加じゃぞ。」


彼は健一さんを見た。


「え!?俺も!?」


「そうじゃ!」


「やっぱりみんな呪いに犯されてるんだ……。」


「くっそ……もっと疑うべきだった。」


「さぁ。あれを持ってこい。」


「はい。」


二人の少女の声がどこからか聞こえてきたと同時に二人が数本の刀を持ってきた。


「これでわしと戦うのじゃ。これは娘用でな。子供でも扱いやすいぞ。どちらかが死ぬまで続ける。」


少女二人が口を開いた。


「主人様は刀の名手であります。沢山の年月を経て磨きあげられた能力にこれまで沢山の方が挑んでこられましたが、誰も勝てたものはおりません。一突きも出来ずに、主人様の勝利で決闘が終わってきました。」


「今回のご相手は子供でしょうか?そこの大人も一突きも出来ずに終わることでしょう。」


「そうだ。わしはこれまで勝ち続けてきた。この歴史をそう簡単に変える訳には行かん!」


「嘘でしょ!?戦うしかないって言うの!?」


どうして僕達はこうも不幸なんだろう。


この状況に絶望していた時、健一さんが口を開けた。


「……あの、取引がしたいんですが。」


「ほぉ、なんだ言ってみろ。」


「どちらも殺さないというのはどうでしょう。」


「それでは面白くないでは無いか!」


「ですが……」


その時、少女の一人が刀を抜いてこちらへと向かってきた。


「辞めろ!わしらが客人と話し合っている途中じゃぞ!」


「!?……すいません。」


彼女は再び正座で刀をしまった。


「僕達は貴方を殺しません。貴方は僕達は殺してもいいです。」


「え!?」


「でもその代わり、僕達が貴方の体に一突きでも刀を当てたら、この町全員の名前が入った紙を町役場にお願いして下さい。それから僕達を助けて下さい。」


「ほぉ?何をしようと思っとるんじゃ?」


「それは言えません。お願いします。どうか。」


「……分かった。良かろう。掛かってこい。しかし二人も参加させる。」


「はっ。」


狐の仮面の少女二人が彼の横に座った。


「そして、参加するのは男共だ。」


「二人は!?」


「懸命な判断だろう。」


玲音くんが僕の目を真っ直ぐ見ながら言った。


「いいえ、私達が」


「殺します。」


「……駄目だ。惜しいところだが、殺してやるな。」


「果たして私たちにそれが出来るかしら。」


「きっと無理だと思うわ。」


「お前達……。分かった。でも手加減はしてやるんじゃぞ。後、君らのチーム二人は後半戦から入ってくれ。」


「はっ!」


「はい……。」


「無理かもね。」


「ちょっと!」


「……」


三人は刀を握った。


「おっとその前に、お前らには作戦を立てる時間をやろうじゃないか。そうだな。なるべく早く始めたいから……十分!十分時間をやろう。その間に作戦を考えておくんじゃぞ。」


僕達は聞こえないように話し合いを始めた。


「どうする?」


「恐らく彼は大人数で挑んできた敵にも一突きもさせなかったのだろう。だから、そのまま突っ込んでも駄目だ。だから、お前らは注意を引いてくれ。逃げるだけでいい。」


「健一さんはどうするの?」


「俺はその間に裏を取って……背中に回って刀を振りかざす。」


「良いな?」


「うん。」


十分後僕達は刀を強く握って一列に並んだ。


―さぁ、いざ勝負!!


僕達は刀を強く持って、園城寺さんに向かって走った。

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