第16話 二つの選択肢

いつの間にか寝ていた。


意識が曖昧な中で最初に視界に入ってきたのは何重にも僕の体に巻き付けられたロープだった。


それを見た瞬間眠気は一気に覚め、腕や足を動かそうとしてみたが思うようにはいかず、もがいてロープを自分の体から解こうとしたが余計に固く結ばれるばかりで全く解けなかった。


もう無駄だということに気づいてもがくのを辞めたとき、視界の端に足が見えた。


端に見えた足の正体を追ってみると、そこにいたのは白衣を着た先生だった。


彼女は髪を下ろして眼鏡を外し、机にもたれかかりながら窓の外を見ていた。


手に持っているナイフは揺らされていて危なっかしい。


ナイフの刃先がこちらに向くたびに反射的に目をつぶってしまう。


「先生……?」


「あら起きた?」


窓の外を見ていた彼女はこちらを見て揺らしていた内を止め、少し歩いてきた。


「皆起きた?」


「え?なにこれ。」


「……騙したんですね。」


「いやぁ簡単に信用してくれて助かったわ。」


「みんなごめん……。こんな簡単に信用した僕がバカだった。皆に迷惑かけないようしようと思ってたのに……。」


「今はそんなこと良いから。」


彼女は僕たちの会話を鼻で笑いながらこちらを見るばかりだった。


「逃げられると思わないで。窓も扉も閉めてる。逃げようとしたら容赦なく殺すわ。その前に縄がほどけないと思うけど。」


彼が異変にかかっていなかったことで簡単に信じ切っていた。


やはりこの町に住んで長い人で異変にかかっている人はいないのだろう。


酷く後悔した。今更後悔してももう遅いが。


「私ね?じっくり殺すのが大好きなの。だから悟られないように数日かけて貴方達の信用を得ようとしたわ。お陰様で!皆信用してくれていたわね。その子を除いては。」


先生は加奈子ちゃんを見ながら言った。


「その子目に見えるようにずっと私の事疑ってきてたのよ。まぁ一人の信用くらい得られなくても別にいっか、と思ってさ。結果上手くいって良かったよ!」


先生は嘲笑いながら僕のことをなめまわすように見てきた。


「じっくり殺すのが大好きなのって、まるで前もやったみたいな言い方……。」


「そうよ。あ、そっか栗田君には嘘ついちゃってたもんね!ごめんごめん。」


彼女はまたも嘲笑いながら僕の目を見て言ってきた。


「君らと同じようにここに来た子たちが沢山いたの。まぁ馬鹿な子たちはすぐに殺せたけど、あなた達みたいに頭の回る子が一人でもいると、ちょっと手こずるのよね。察されて逃げられそうになっちゃったからさ。だからあなた達みたいなのはゆっくり時間をかけて殺そうと思ったの。あ、因みにみんなそこで殺してるよ。同じやり方でね。このやり方が一番ぞくぞくすんのよ!」


「嘘ついたんですね……。それよりもう呆れる。」


「ふふっごめんなさいね。」


「さっ、普通に殺しても面白くない。君たちに選択肢をあげる。一人ずつじっくりか一気に殺されるのどっちがいい?」


「先生はじっくり殺す方を選んでほしいんでしょ。」


僕が睨みながら言うと、彼女はその通りと言わんばかりの笑顔になった。


「大正解~!だから空気読んでね?では話し合いの時間は三十秒、はいよーいスタート。」


いきなり始まってしまった僕たちにとって貴重な三十秒。


僕たちはこの与えられた時間を無駄にしないように必死に話し合った。


「どうすんだよ!俺は死にたくねえ!」


「そんなこと言ってももう殺される運命にしかないんだから。それなら一気に殺してくれた方が……。」


「私も……。」


「あたしはどっちでもいいわ。皆で決めて頂戴。」


「え?加奈子ちゃんどっちでもいいの?怖くないの?」


「私は皆の意見に合わせるけど。」


「しゅうはどうしたいの?」


「え?僕?」


「栗田君、君がみんなの運命を決めてくれ!そのほうが面白い。君に責任の矛先が向くんだ。良い回答をくれよ。」


「そんなこと言われたって!」


「はーい戯言いわない。五、四、三、二、一――!」


「ああ!もう!一気に殺してよ!」


「ふーん、痛い思いはしたくないってのね。まぁそりゃそうか。じゃあ一人ずつじっくりと殺していくわ。」


「え?話と違う!」


「契約書は?話が違うっていう証拠は?」


「さっきまで……!」


「気が変わったの。私がすることなんだから最終的には私が決めてもいいでしょ?」


「最低な人間だよ。」


「はっあっそ。今のうちに言いたいこと言っときな。」


この先生はどこまで僕たちの腹の綿を抉り返せば気が済むのだろう。


「……はぁ。」


「あれ?加奈子ちゃんだっけ?は覚悟できた感じ?いいねいいね。」


もう死ぬしか道はないのだろうか。


何か他の方法はないのだろうか。


「皆覚悟できた?さて、美鈴ちゃん。あなたから殺すわ。」


「可愛いからって調子に乗るもんじゃないわよ。ガキが。」


先生はナイフを思いっきり美鈴ちゃんに刺した。


好きな人が目の前で殺されてしまうなんて神様は一体僕に何を与えたいんだ。

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