きれい好きな掃除機
夢色ガラス
短編 完結
私は、きれい好きな掃除機である。部屋がきれいだと、とても気持ちが良い。昨日の朝に出荷された私たち掃除機は今、ショッピングモールの家電売り場に並べられている。
(ふ~ん。このお店はきちんと掃除がされているのね)
アルバイトで来ている男性がせっせと掃除をしているのをのんびり眺める。
「ここはきれいで気持ちがいいね!ずっとここに居たいくらい!」
一緒にショッピングモールにやってきた、気の合うお友達がそう言った。
「そうね」
私がそう言ったときだった。がやがやと男性と女性、そして小さな男の子がやってきた。男の子は、女性と手をつないでいる。…仲良し家族だ。
「この掃除機、音がしなくて細かいところまで掃除してくれる最新掃除機だわ!」
女性が嬉しそうに気の合うお友達に触れた。
「買ってもいい?」
女性は男性に承諾を得て、気の合うお友達を持って行った。
二日の時がたった。もうたくさんのお友達がいなくなっている。いずれは私も買われてしまうのだろうか。
(ずっとここに居られればいいのに。せめてきれいな人に買われたいわ。でも、お願い。あと一週間はここでお友達と過ごしていたいわ…)
そんなことを思った矢先…。
「これはいい掃除機ね。買うわ。」
私の強い思いは、簡単に破れてしまった。
ドキドキ、ドキドキ。掃除機だから心臓は無いけれど、ドキドキして体が熱い。(どうしよう、悪い人だったら。)
私を買ったおしゃれな美女は、黒い高級車に私を押し込んだ。
(この人が、実はスパイかもしれないのよ…。私を壊そうとしているのかも…。麻薬吸い取りきにされちゃうかも…!!!油断はダメ!)
運転しながら、たまに私に目を向ける美女。信号が赤になると、彼女は私を段ボールの上から、やさしくなでた。
美女は丁寧に運転を続けた。そして、約30分後に目的地に着いたらしかった。大きい一軒家に、ためらいもなく鍵を開けて入っていく。
美女は手を洗ってコーヒーを飲んでから、早速私を使おうとした。手際よくカッターで段ボールを切って、私を手に取った。嬉しそうに持って、言った。
「軽い!使いやすそう!」
ショッピングモールで充電はしてあったので、電源ボタンを押すと、小さくびゅいぃぃぃん!といった。
「わぁ!さすがね!静かだわ!」
美女がそう言ったので、私が誇らしくなった。彼女は近くにあったゴミを吸い取ろうとした。
びゅいぃぃぃん!
美女は何度もボタンを押してゴミを吸おうとした。…が。
「あれ?吸わないなぁ。」
困ったように電源を押して、確認する美女。
(す、吸うわけないじゃないの!だって私はきれい好きな掃除機だもの!!!)
<おしまい>
きれい好きな掃除機 夢色ガラス @yume_t
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