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「いたぞ!!」
スーツ姿の男たちだった。5人いた。銃を構えている。
「動くな!!」
どうするか。自分の「麻酔」は相手の体に触れないと効果を発揮しない。相手の体に触れる前に撃たれては意味がない。少年はまた狼狽し始めている。調教師の男は、わりと落ち着いている。そういえばこいつは、敵なのか、味方なのか。スーツ姿の男達と少しの間対峙していたが、やがて、あの長身の男が悠然と現れた。よく見ると、赤い瞳をしていた。
「気をつけてください。先日あの子供を連行しに行った奴らは、まだ戻っていません。何があるかわかりません」
男達の一人が、長身の男に言った。連行?殺害が目的ではないのか?だが、そんなことより、今はこの状況をどうるすかだ。エバは必死に思考を巡らせた。
「想定外の人物が2名いますね。あなた方、その少年との関係は?」
赤い瞳の男が聞いてきた。その言葉で、調教師の男は、スーツ姿の男たちの仲間ではないとわかった。
「オレはこの少年の保護者だ。この少年の面倒をみるよう言われている」
「そちらの方は?」
「オレ?ああ、俺の名前はクレシン・チャン。以後よろしく。こいつらとは、そうねえ、まあ友達かな」
得体の知れない奴らに名前を名乗るなよ、それに以後こいつらと仲良くする気なのかよ、エバは思ったが、口に出している暇はなかった。それ以上に、友達と言ったことに驚いた。まさかそう答えるとは。
「その狼たちは?」
「ああ、こいつらもオレの友達さ」
「そうですか。それは厄介そうですね。おとなしくしていただきましょう」
赤い瞳の男が、調教師の男の顔をじっと見た。すると、調教師の男の様子が変わった。
「ああ…この人たちとオレとは関係ありません。つれていきたいならどうぞ~」
エバはそれを見て、一気に思考を巡らせた。イトモイの村の若者たち。この男と話して、様子が変わった。今、調教師の男も、この男と話して、急に態度が変わった。この赤い瞳の男は、おそらく
「君!その男の顔を見るな!!」
エバは少年に向かって叫んだ。赤い瞳の男が、するどくエバを睨んだ。エバは怯まず、さらに考えた。今、調教師の脳に起こっているのが、何らかの意識障害なら、治療をすればいい。障害なら、治せる!エバは素早く調教師の男に駆け寄り、調教師の頭に触れた。
「動くなといってるだろ!!」
スーツ姿の男が、銃をエバの足元に威嚇射撃した。威嚇だ、当たりはしない。エバが調教師の男の頭に触れると、バチバチという音がした。
「・・・おおお・・・オレの意識は一瞬、そよ風の誘惑だぜ~」
言葉の意味がよくわからないので、調教師の男の意識が正常に戻ったのかどうか判然としなかったが、多分戻っているのだろう。やはりだ。なんらかの意識障害を起こさせる
「やはり、あなた方もそうでしたか…」
今のセリフで、あちらも、こちらが
「おとなしそうなあなたを先におとなしくさせるべきでした。人は見かけによりませんね」
大きなお世話だ。
「オールドさん、どうします?ここでなら騒ぎになりません。撃ちますか?」
「いたしかたありませんね。あまり好みではないですが・・・銃撃を許可します」
まずい!エバが走れと叫ぼうとしたとき、調教師の男が動いた。
「ピィーーーーーーーー」
調教師の男が指笛を鳴らした。すると、狼たちが一斉にスーツの男たちに飛び掛った。
「うわあああ!!!」
「今だ!走れ!!」
調教師の男が叫び、走り出した。
「君!走れ!」
考える間もなく、エバも叫び、走り出した。少年は最初おたおたしたが、なんとか走り出した。
「くそっ、なんだこいつら!!」
スーツ姿の男が発砲した。狼の一頭に命中し、一頭が倒れたが、またもう一匹が飛びかかり、腕を噛まれ、銃を落とした。
「しまった、ぐあああ」
しばらくもがいていると、狼が噛んでいた力を緩め、急におとなしくなった。立ち上がると、そこに赤い瞳の男がいた。赤い瞳の男は、スーツの男が落とした銃を拾い上げ、上空に向け、何発か発砲した。すると、狼たちは、何かから覚めたかの様に、一斉に逃げていった。スーツ姿の男たちは、みな満身創痍だった。流血している者もいる。
「どうします?オールドさん。追いますか?」
「この状態では無理はしないほうがよいでしょう。ましてや、ここは
「しかし、それでは奴らもここから出られなくなるのでは?」
「これは私の勘ですが、彼らはこの森を生きて出ますよ」
「なぜです?」
「見たでしょう?彼ら、
「だったらオールドさんだって・・・」
「皆さんの体が心配です。大丈夫、私を信じてください」
オールドには、勘ではあったが、割と自信があった。彼らは、生きてこの森を出る。
「オールドさんの催眠術で、狼を追わせる手もあったのでは?」
「無駄でしょうね。動物に対する異能(ストレンジ)は、彼のほうが上でしょう。彼の
「そうですか。」
「私に考えがあります」
「といいますと?」
「この広大な森を抜ければ、その先に広がるのは?」
「・・・ゴールド・エイト荒野」
「そこへ先回りして、待ち伏せしましょう」
「そうなると、いったんフジテに戻り、鉄道でアサヒ経由で、テビエスですね?遠回りですが、間に合いますか?」
「間に合うでしょう。あちらは徒歩ですから」
「わかりました。ではすぐ向かいましょう。おい、いったんフジテにもどるぞ」
満身創痍の男たちは、来た方向に戻っていった。
「それにしても…」
オールドは思った。さきほどの村長のように、かからない人は時々いるが、かかった催眠術をいとも簡単に覚醒されたのは初めてだった。
「同じタイプの
可能性がないわけではなかったが、低いだろう。同じ時代に、同じような
「医者の
オールドは自分の推理に得心し、満足した。
「フフフ…ライバル出現といったところですか…」
オールドは不敵に微笑んだ。
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