天才少女は旅に出る~婚約破棄されて、色々と面倒そうなので逃げることにします~

キョウキョウ

第1話 無反応と怒りの婚約破棄

「ユリアンカ・マルクラム! お前との婚約を破棄する!」


 そう告げたのは、ノイマイン王国の第一王子アーベルトである。彼は物凄い形相で、目の前に立つ少女に婚約破棄を告げた。

 

 パーティー会場が静まり返る。その日、アーベルトの誕生日パーティーが行われていた。参加者も多数。その主役である彼が怒っている。周囲の注目が、アーベルトとユリアンカの二人に集まった。


「……」


 婚約破棄を告げられた少女は、何の反応もない。口を閉ざして立ったまま、無表情でアーベルトの顔を見つめるだけ。その様子を見たアーベルトはイラつきながら、話を続けた。


「君は私の婚約者という立場にありながら、裏でイジメを行っていた。非力で可憐なニアミーナに嫌がらせ行為をしたらしいなッ! 彼女が勇気を出して証言してくれたおかげで、お前の卑劣な行動の数々は明らかなんだぞ!」

「ニアミーナ? それは一体、誰なのでしょうか?」

「な、なに……!?」


 激しく糾弾するアーベルト。普通の少女ならば、その圧に怯えてしまうだろう。


 しかしユリアンカは無表情のまま、まるでティータイムでの会話のように普段通りの様子で質問した。


 その言葉を聞いたアーベルトは唖然とした。一瞬、理解が遅れる。目の前に立っている少女が何を言ったのか理解した瞬間に、ますます怒りが湧いてきた。


「知らないフリをするつもりか!? なんて卑怯なッ!」

「ですから、それは誰なのですか?」


 ユリアンカの質問には答えずに、彼女が逃げようとして知らないフリをしていると決めつけてアーベルトは怒り続けた。


「貴女は、私の頬を叩きました。それを忘れたというの!?」


 アーベルトの横から、一人の少女が前に出てきた。彼女も怒りの表情で、ユリアンカを睨みつける。


 彼女がニアミーナか。顔を見たことがあるが、話したことは一度もない。


 ナウエルス男爵家の娘。自分と同い年。学園の成績は悪い。友人は男友達が多め。身近にいる女性から嫌われているようだ。


 彼女に関する情報を、データベースの記録から次々と引き出すユリアンカ。やはり彼女をイジメていた事実は無いと再確認した。


 どうやら他の誰かと勘違いしているようだ、という結論に至る。


「人違いではありませんか?」

「……まだ、言い逃れしようとするとは」

「自分の卑劣な行いを認めようとしないなんて、最低な人ね」


 軽蔑した眼差しをユリアンカに向ける、アーベルトとニアミーナの二人。それでもなお、ユリアンカは何も気にしていない様子だった。まるで他人事のような態度で。

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