21作目:取り乱す

「制御しろ」と言うんだ。

 怒りを、悲しみを。

 理不尽な八つ当たりに、声を押し殺して。

 何も悪いことなんてしていないはずだった。

 俺じゃない、そう言いたかった。

 されど誰かが唄っていた。

「自分の身に降りかかる不幸はすべて己のせいだ」と。

 我が身に当てはめてみれば、確かにそうかもしれないなんて、無理やりに納得させている。

 気づけばその声は己自身のものとなっていた。

「制御しろ」と言うんだ。

 嘆きを、絶叫を。

 いつしかこの身は醜いけだもののように成り果てていて、思うがままの振る舞いをすれば、きっと恐れられることだろう。

 恐れて離れていく人間すら、周りにいないと言うのに。

 赤子ですら、あんなにも泣き叫ぶことを許されているというのに。

 遠吠えは内側に向かって残響を残していく。

 深い夜の底で、終わらない夢を見る、いたいけな精神に届くまで。

「制御しろ」とうるさいんだ。

 それ以上に、叫びたくってやまないんだ。

 心臓は暴れたいと。

 喉は枯らしたいと。

 脳はぶちまけたいと。

 腕は殴りたいと。

 脚は蹴り散らかしたいと。

 すべてぶち壊してしまいたい。

 そんな衝動が、もう、鎖を引きちぎって駆け抜けていった。

 だから俺は事務所の机を殴った。

 拳はひどく裂傷し流血した。

 対してガラス製の机はわずかにひび割れたのみだ。

 治療をされる前に危険人物として取り押さえられた。

 そのまま警察署で取り調べを受けた。

 会社からは解雇され、机の弁償を請求された。

 今、俺は精神病棟に入れられている。

 なんで、なぜなんだ。俺はひとっつもおかしいところなんてない。

 なのにもう一人の俺は、相も変わらずにうるさいんだ。

「だから言ったんだ。制御しろと」

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