16-15【クラーケンの横穴】

「おい、ゴラァ。寄り道せずに真っ直ぐクラーケンの住み処まで行くんだぞ!」


俺はノーチラス号の操縦桿を握るネモ船長の後ろに立つと、髑髏の首筋にダガーを添えながら脅すように言った。


「いや~、アスラン君……。何をそんなに苛立ってるんだい……?」


前方の三画面を凝視しながらネモ船長は髑髏の額に冷や汗を流していた。


「なんだ、お前は、この骸骨の中には脳味噌が入っていないのか?」


俺はネモ船長の軍帽を取り上げると髑髏の脳天をダガーでコンコンっと叩きながら言った。空っぽの音が響く。


「そりゃあ苛立つだろうさ。騙されて男体盛りの皿として使用されたらよ、誰だってイライラするわな!」


「で、ですよね~……」


「しかもビーチクを箸で長々と摘ままれたり、キャン玉を箸で何度も何度も持ち上げられれば、誰だってイラつきますよね!!」


「で、で、すよね~……」


「もしもテメエーにビーチクとキャン玉が有ったら、マーマンやマーメイドたちの前で同じように身体全身に刺し身を盛り付けたあとに焚き火で丸焼きにしてから一週間ほど念入りに放置してやるのによ!!」


「ほ、放置プレイは、俺の専門外だわ~……」


「まあ、今回は許してやる。いい経験だったからな」


「癖になりそうかね?」


「なるか、ボケ!!」


俺は怒りに任せてダガーをネモ船長の脳天に突き刺した。


ガンっと音を鳴らしてダガーが脳天の骸骨を突き破りながら突き刺さる。


「いたーーー!!!」


「あっ、すまん……。ついつい刺しちゃった」


「ちょっと、何すんね。もしも俺がアンデッドじゃあなかったら、今ので死んでたぞ!!」


「まあ、これで許してやるから感謝しな」


「さっき許すって言ったんだから、それで許せよな!!」


「知るか、ボケ、変態、糞野郎」


「言いたい放題だな!!」


俺とネモ船長が喧嘩をしていると、スケルトンクルーの一人が言った。


「二人とも~。そろそろクラーケンの巣穴が見えてきましたよ~」


「なに、本当か?」


俺が三画面モニターを覗き込むと、巨大な岩山が逆さまに映り混んでいた。


天井から氷柱のように垂れ下がった岩山だ。


かなりデカイ規模である。


「あの氷柱のような岩がクラーケンの巣か?」


スケルトンクルーが指差しながら言う。


「上のほうを見てください。この辺です」


「あー、大きな穴があるな」


「これが巣穴ですわ~」


「ノーチラス号で入って行けないのか?」


「無理ですわ~。入って直ぐにカーブがあるんですがね。そこがノーチラス号だと曲がりきれないんですよね~」


「じゃあ、行けるところまで入って行ってくれないか」


「了解しやした、キャプテン」


ネモ船長がクルーを睨みながら突っ込む。


「キャプテンは俺だろ!!」


「すみません船長。でも、この際だからアスランさんとキャプテンを交代してはどうでしょうかね~」


「えっ、なんで!?」


「同じ変態ならば、強いほうがキャプテンに向いてませんか?」


「いやいやいや、それは違うだろ。このノーチラス号は、俺がアトランティス帝国から賜った船だぞ!!」


「いや~、そろそろ引退時期じゃあないでしょうかね?」


「えっ、なに、これってクーデターなの!?」


「おい、ちょっと待てよ。俺は潜水艦の船長なんてやらないぞ。海に縛られながら行きたくないからな」


「ほら、アスランもこう言ってるしさ。俺がキャプテンで我慢しないか!!」


「しょうがないですね……。じゃあネモ船長でもいいですよ」


俺はネモ船長の脳天からダガーを抜き取ると言った。


「良かったな、ネモ船長。クルーに見放されなくってよ」


「あ、ああ……」


なんだろう。


ネモ船長の骸骨な表情からは、何気に納得していないような不満気な色が見えた。


そんな沈んだネモ船長を無視してスケルトンクルーが言った。


「では、洞窟内に侵入しますぜ~」


「頼んだぜ、クルー!」


「イエッサー」


すると前方のライトを点灯させたノーチラス号が、ロースピードで洞窟に入っていった。


「結構広いな……」


洞窟の直径は30メートルは有りそうだ。


ネモ船長が奥の作りを説明し始める。


ノーチラス号がカーブを曲がれない理由を述べた。


「奥に進むほど洞窟は狭くなる。そして更にカーブだ。それでも軟体動物のクラーケンは優々と奥に進めるんだ」


「あー、なるほど。クラーケンは軟体か……」


タコは頭が通る隙間が有ればスッポリと狭い穴の中にも入って行けるって聞いたことがある。


だから岩場の陰などに居着くのだ。


「クラーケンもタコと一緒か……。でも、デカイんだろうな~」


俺のぼやきを聞いたネモ船長がクラーケンの体長を説明してくれた。


「泳いでいるときのクラーケンの全長は、30メートルから40メートルはあったぞ」


「そんなにデカイのか……」


デカイデカイで有名だが、30から40メートルとは……。


俺、そんな怪物と一人で戦えるかな……。


「よし、到着だ。俺らが進めるのはここまでだぞ」


ノーチラス号が洞窟内で停止した。


「じゃあ、行って来るぜ。二時間ぐらいしても帰って来なかったら、俺が負けたと思って帰っていいぞ」


ネモ船長が腕を組ながら悩みだした。


そして悩んでみた結果を語る。


「二時間は長くないか。三十分ぐらいで良くね?」


「テメーやっぱり殺すぞ。新キャプテンは別のクルーに任せちまうぞ!!」


「ごめんなさい……」


「まあ、とにかくだ。行って来る」


俺はそう言うとコックピットを出て二重扉の部屋に入った。


内側の扉を閉めたあとにブーツを脱ぎ捨てる。


それから乙姫から貰った腕輪を足首に嵌めた。


手首には別の腕輪が付いているからだ。


足首には何も付けていなかったから丁度良さそうだった。


更にトライデントの先にマジックトーチの魔法を掛ける。


更に更にと魔法を連呼した。


「ジャイアントストレングス、ディフェンスアーマー、ディフェンスシールド、フォーカスアイ、カウンターマジック!」


よし、これでバフ魔法は良しだ。


準備を終えた俺は外側のハッチのバルブを回した。


すると海水が室内に流れ込んで来る。


直ぐに俺の身体は溜まり来る海水の中に沈んだ。


「おお、本当だ。海水の中でも呼吸が出きるぞ。これは凄いな」


なんか肺の中に水が入ってきてるのに不思議だな。ちゃんと呼吸が出来る。


ちょっと違和感が有るけど、直ぐに慣れるだろう。


俺は二重扉の部屋が海水に満たされるとハッチを開けて船外に泳ぎ出た。


そして船前に出て、コックピットから見ているだろうクルーたちに親指を立てる。


するとノーチラス号がウィンクするようにライトを点滅させた。


「よし、行くか──」


水中でターンした俺はトライデントを翳しながら洞窟の奥を目指して泳ぎだした。


俺の記憶にあるスイミングスキルよりもスムーズに泳げていた。これもトライデントの効果なのだろう。


そして、トライデントを片手に俺は泳いで洞窟の奥を目指した。


「それにしてもクラーケンと一騎討ちか~。ちょっと無茶しすぎかな~」


まあ、何も作戦は無いけれど、正面から正々堂々と挑むまでだ。


できればクラーケンが寝ていてくれると助かるんだよな。


寝首を刈れればマジでラッキーだもん。


俺はそのような甘い期待を抱きながら洞窟の奥に向かって泳いで行った。



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