19-6【迫り来る達磨さん】
鋼鉄のバットで後頭部を殴られたのと一緒だ。あれは痛いぞ。
いや、気絶しちゃったかな、鋼鉄化が始まりやがったもの。また一人が感染してしまう。これは早くメタルキャリアを止めないとアカンぞ。
でも、まだ俺は怪我が完全完治していない。今ここで戦ったら傷が開くかも知れないし……。でも、ここはやっぱり俺が戦わないとアカンのだろうな~……。
「しゃあないか……。俺が戦うよ……」
「アスランの兄貴、それは不味くないっスか。傷が開いてしまいやすぜ!?」
「凶介、不味いも不味くないも、しゃあないだろ。それともお前が戦って、あの鋼鉄野郎に勝てるのか?」
「む、無理っス!!」
「だろ~。ならば勝てる見込みがある俺が戦うしかないだろうさ」
二人の会話にメタルキャリアが割って入る。
「おいおいおい、ちょっと待てや、アホンダラ!!」
「誰がアホンダラだ、アホンダラ!!」
「お前が俺に勝つだと。舐めんなよアホンダラ!!」
「だから誰がアホンダラだ、アホンダラ!!」
「そもそもあのサイクロプスより小さい人間のお前が、鋼鉄人間の俺に勝てるわけないだろ、アホンダラ!!」
「勝てるか勝てないかなんて、戦って見ないと分からんだろ、アホンダラ!!」
「じゃあ、勝って見ろよ、アホンダラ!!」
「ああ、分かったよ。それじゃあこれでも食らいやがれ、アホンダラ!!」
俺は怒りに任せて異次元宝物庫からシルバークラウンを取り出して頭に被った。
「マジックイレイザー!!!」
俺はいきなりの大技を遠慮無く放った。口から魔法の波動砲を吐き出す。
ゴゴゴゴゴォっと音を唸らせる光の砲弾。俺の口から発射された波動の光が真っ直ぐにメタルキャリアを包んだ。
「ぬおおっ!!」
直撃だ。だが、これで勝てるなんて、俺だって思っちゃいない。何せメタルキャリアの防御力はピカイチだからな。
でも、着ている土嚢袋は別だろう。この一撃で消し炭のはずだ。
とりあえず姿を見てしまえば動きが封じられる。そうなれば勝ったも当然だ。
そして、マジックイレイザーの眩い光が止むと、土嚢袋が焼き取られたメタルキャリアが立ち尽くしていた。
硬直していた。完全に土嚢袋が剥ぎ取られ、その鋼鉄の姿が露になっている。
メタルキャリアの外観は、感染者と代わらない。ただの鋼鉄マネキンのようだ。顔には目も無ければ口も無い、無表情ののっぺら坊である。
「よし、止まったぞ……」
幸いにも、まだこちらの人数とあちらの人数が五分五分だ。感染者は全員見張れている。
でも、一人が一体ずつの感染者を見張って居る状態だ。人数配分はギリギリである。
「よし、皆、一人が一体ずつの見張りだが、もう少しすればバイマンたちが応援を引き連れてやってくるはずだ。それまで持ち堪えれば、こっちの勝ちだぞ!」
「でも、アスランの兄貴、目がシュバシュバしてきやしたぜ……」
「凶介、瞬きぐらいしてもいいんだぞ」
「でも、瞬きすると、少しずつ鋼鉄のモンスターが動いてくるんですよ……。ちょっと怖いっスわ~……」
「それなら、瞬きしたら一歩下がるとかで良くないか?」
「なるほど、名案ですね、アスランの兄貴!」
「いて、誰か俺の背中にぶつかって来たぞ?」
「俺っスよ、アスランの兄貴……」
「ええ、もうそんなに下がったの!?」
「他のメンバーも俺たちに近寄って来てますよ……」
「えっ、そうなん?」
「たぶん皆が皆して、自分が見張って居る感染者から目が話せないから気付いてなかったみたいでやんすが、俺ら、囲まれてませんかね……?」
「いや~~、これは~~……。視線が外せないから分からないけれど、俺ら見張り役が一ヶ所に集まってるよね……」
「たぶん、そっスね……」
「これは、最悪のポジショニングだ……」
「瞬きすると少しずつ感染者が近づいてくるのに後が無いでやんすよ!!!」
「瞬きすんな、今から瞬き禁止な!!」
「いーやー、目がー、シュバシュバするーー!!」
「俺もだーーー!!!」
ヤバイ、メタルキャリアが1メートル前まで接近してるわん!!!
鉄腕を伸ばして来てる!!!
瞬きする度に、少しずつコマ送りのように近付いて来やがる!!!
やべぇ!!
もうメタルキャリアの指が俺の鼻先まで接近してるよ!!
あと10センチぐらいでタッチされちゃいますわん!!
もう意地でも瞬きが出来ませんぞ!!
こえーーー!!!
「ぎぃぁあああ、触られたっス!!!」
凶介だ!!
俺の背後に居る凶介が感染したぞ!!
不味い!!
「とうっ!!」
俺は全力でジャンプしてメタルキャリアの頭の上を飛び越えた
もうダメだ。あんなに仲間が固まった状態で感染者が出たら全滅も免れないぞ!!
てか、あの輪から抜け出せたのは俺だけだった。次々と残りのエルフたちも感染して行く。
だが、幸いにも感染者が一ヶ所に固まっていやがる。これなら俺一人で視線を配れるぞ。
「あれ、俺、誰か忘れてないか?」
そうだ、さっき気絶して感染したミケランジェロの姿が視界に入っていない。
「あんな巨漢なのに、どこに行った……?」
背後だ……。背後から巨大な気配を感じるぞ。
その脅威に引かれて俺は振り返った。そこには両拳を高々と振り上げたまま硬直した巨大な鋼鉄モンスターが立ち尽くしていた。俺に見られて止まったんだ。
でも、こっちが止まったのならメタルキャリアたちが動き出しているはずだ。だが、俺は振り返らずに前へ走り出した。
そして、ミケランジェロの股ぐらを潜り抜けてから振り返った。
「よし、全員を視界で捕らえたぞ!!」
「甘いぜ、アホンダラ!!」
上から声が聴こえた。メタルキャリアだ。アイツ一人だけジャンプしてやがったんだ。ミケランジェロの頭部を越えて来る。
「食らえ、ダイナマイトパンチだ!!」
ダイビングからのフルスイングパンチが降って来た。俺は素早く身を引いて退避する。メタルキャリアは拳を空振った状態で墜落した。俺の視線で動けなくなったのだ。
だが、今度は数体の感染者が俺の視界から外れて行った。すると何体かが左右に別れて散り散りにバラける。
まーずーいーぞーー!!
俺は後ろ向きに走り出した。少しでも距離を作りながら視界を広げてメタルキャリアたちを見張らなければ。いずれは逃げ出た感染者たちが左右から攻めて来るはずだ。
トンっ……。
あれ、何かにぶつかったぞ。まだ道の真ん中のはずだ。しかも柔らかい……。
『旦那様、お助けに参りましたわ♡』
えっ、この色っぽい声は……。
「マミーレイス婦人か!?」
『はい、旦那様のママさんですよ~♡』
そこにはローブ姿の巨乳リッチが立っていた。
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