18-13【楽々奇襲】
「あ、あの糞女……」
俺は爆弾が爆発した病室の隅に居た。部屋のあちらこちらで焦げ臭い臭いが上がっている。
テーブルを盾に爆風を凌いだのだが、咄嗟に動いた際に背中の傷口が開いたようだ。激痛と共にポタポタと血が垂れている。
「アスラン君……」
『アスラン様、大丈夫ですか』
俺と一緒にテーブルの影に隠れたスバルちゃんとヒルダが、俺に身を寄せながら心配気に囁いた。
俺はスバルちゃんに身体を被せて守って居たが、そんな俺をヒルダが細い身体を被せて更に守ってくれていた。
だが、ヒルダの左腕が肩の辺りから千切れて落ちている。
「ヒルダ、お前は大丈夫か?」
『平気です』
「スバルちゃん、怪我は無いかい?」
「えっ?」
スバルちゃんは片耳に手を当てて聞き直す。どうやら爆音で鼓膜をやられたようだな。俺もキンキンするもの。
でも、見た感じだとスバルちゃんには大きな傷は無さそうだ。時期に聴覚も取り戻すだろう。
「よいしょっと……」
俺が立ち上がろうとするとスバルちゃんが身体を支えてくれた。爆発にやられても気遣いだけは忘れないよい子でぁる。
「大丈夫ですか、アスラン君!」
スバルちゃんの声がデカイな。
「ああ、大丈夫だよ」
「えっ?」
やっぱり耳が聞こえてないんじゃんか……。まあ、いいか。
立ち上がった俺は室内を見回す。壁や天井が黒々と火薬で汚れて、床には爆弾が炸裂した痕跡がハッキリと残っていた。ベッドは壊れてシーツから煙が上がっている。
でも、大きな火の手は上がっていない。爆風は強いが、爆炎は少ない粗悪品な爆弾なのだろう。
そもそも火薬が有るかどうかも怪しい異世界だもの、俺が居た世界に比べれば爆弾も低レベルな品物しか無いのだろうさ。
そのお陰で助かったとも言える。
「これなら火災は起きそうにないな」
「えっ、なんて?」
スバルちゃんが再び耳に手を当てて聞き直す。もうウザイから無視だ。
俺はスバルちゃんの肩を借りながら窓の外を見た。宙を舞っていたミーちゃんの姿は見えない。
飛んでいたのかな?
それとも跳躍してから爆弾を放り込んだのかな?
俺は窓の側に寄ると通りを見下ろす。
大勢の一般人が白煙を上げる窓を見上げて居たが、ミーちゃんの姿が見当たらない。
「逃げたか?」
これじゃあテロじゃんか。爆発テロだよ。
「まあ、いいか。とりあえず無事だったんだ」
すると隣の部屋からスカル姉さんの大声が飛んで来た。
「ちょっとアスラン。何事だ!!」
ドタドタとこちらに迫って来る足音が聞こえて来る。かなり怒ってるな……。これは大きな雷が落ちそうだぞ。
『ドクトル、すみません。わたくしがついていながら奇襲を許してしまいました』
言いながらヒルダが出入り口に近づくと、いきなり彼女が倒れ込む。唐突に倒れたヒルダの首が俺の足元に転がった。
「斬られた!?」
俺が部屋の入り口を見てみれば、そこにはスカル姉さんではなくミーちゃんが立っていた。手には例のダガーを持っている。
ミーちゃんは怪しく微笑みながら言う。
「どう、油断しちゃうほどドクトルにそっくりな声色だったでしょう~♡」
モノマネか!?
この糞女は、どんだけ騙し討ちを心得ているんだよ……。
「さて、これで戦士系はアスラン君だけでしょう。もう負傷しているから楽々よね~♡」
やべぇ~……。
俺は傷が痛むのを堪えながら言った。
「直ぐに誰か仲間が来るぞ!」
ミーちゃんは怪しい微笑みを続けながら言い返す。
「無理無理、ちゃんと今度は情報を収集してから奇襲をかけてるんだからね~♡」
ミーちゃんは右手に持ったダガーをクルクルと廻しながら言う。
「ドクトル・スカルは診療で町の反対側に出向いてるから、一時間は帰ってこないわよ。私がそう仕込んだんですもの~♡」
スカル姉さんは、誘き出されたのかよ……。
「その他の仲間は魔王城に居るから直ぐに駆けつけられないわよ。それに転送絨毯もさっき畳んで来たもの~♡」
やばいな……。
この糞女、俺らの情報を調べ上げていやがるぞ……。
「アスラン君は、私から受けた傷でほとんど動けない。薬師のスバルちゃんは非戦闘員だもの。もう私の手の内よね~♡」
俺は深い溜め息を吐いてから言った。
「はぁ~~……。ミーちゃんは暗殺者なんだな~。ちゃんと色々調べてから作戦を練って襲ってきているわけだ」
「勿論よ。でも私はアサシンなんかじゃあないわよ。シーフなの。不動産屋で部屋を貸して、間取りや借り主の動向を観察してから盗みに入る完璧な計画犯なのよ」
「不動産屋が自分て紹介した客の家に盗みに入るって悪質じゃあねえか……」
「合鍵も在るから楽々なのよね~♡」
「そんな泥棒さんが、なんでアマデウスについて俺の命を狙うんだ?」
カチッ。
ミーちゃんのスイッチが変わった。眼差しが鋭く尖る。
これは、ミーちゃんではなく、天秤の表情なのだろう。
「すべては愛のためよ」
「泥棒も恋をするか?」
「泥棒も人間ですからね」
その台詞を聞いた俺の広角が僅かに上がる。
「でも、今日の相手は俺じゃあねえぞ」
「えっ、なに?」
「可笑しいと思わないか。大怪我してベッドから一人で起きれない俺が、あんたの爆弾からテーブルを盾に使って防げると思うたか?」
「根性を出したんじゃあないの?」
俺はスバルちゃんに肩を借りながら答える。
「こいつらに手伝ってもらったんだよ」
俺が言うと背後の空気が歪んで靡いた。
「なにっ!?」
ミーちゃんが驚いていると、俺の背後から甲冑を身に纏った一団が姿を表す。
「ナイト……」
ミーちゃんが驚愕しながら見詰める一団は五名の騎士たち。
グレートソードを背負った剣豪ティラミス。
腰にレイピアを納めた隼斬りのエクレア。
それにキャッサバ、スターチ、プティングの三名。
計五名のハイランダーズだ。
「彼らは暗闇のハイランダーズだ。今は魔王城騎士団を名乗っている」
ミーちゃんが目を見開きながら呟いた。
「異次元宝物庫は、生物は入れないって……。だからメイドたちを倒せば無人のはず……」
剣豪ティラミスが述べる。
「我ら魔王城騎士団は人間であらず。我々ハイランダーズは魔法生命体だ。ほぼほぼマジックアイテムに近い」
俺がチラリと背後を見てから気づいたことを訊いた。
「あれ、タピオカは?」
一人だけブラックプレートを纏っているキャッサバが恥ずかしそうに頭を撫でながら言う。
「わ、私と姫は前日結婚しまして、今は専業主婦に落ち着いております」
「えっ、マジ。お前ら結婚したんだ。おめでとうさん!」
俺がキャッサバを祝っていると、その隙にミーちゃんか懐から丸い小玉を取り出した。
それを床に勢い良く叩きつけると、モクモクと爆煙が室内に充満した。
視界が妨げられる。
「目眩まし、煙玉か!!」
数で負けたと悟りミーちゃんが逃げ出したようだ。
「ハイランダーズ、ミーちゃんを逃がすなよ!!」
「「「「「御意!!」」」」」
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