18-10【お見舞い】
俺は病室のベッドに寝そべりながら窓の外を眺めて居た。
することが無い。暇だ……。
俺は昨日のことを思い出す。
そう、ミーちゃんにダガーで刺されたのだ。
何故にミーちゃんが俺を指したのかは彼女の証言で分かっていた。なんでもミーちゃんはアマデウス派に所属する冒険者で盗賊だったらしい。そんな彼女の正体を俺は知らなかったのだ。
ゴリに訊いたらゴリはミーちゃんが不動産屋と冒険者を掛け持ちしていたのは知っていたらしい。ただ本当に俺だけが知らなかったようだ。だからミーちゃんが俺を騙していたとは少し違うのかも知れない。
まあ、そんなことはどうでもいい。俺が刺されたのには代わりがないのだから。
そして、俺が刺されたあとに、俺はスカル姉さんたちに助けられたらしい。
たまたまスカル姉さんたち一行が食事を取っていた食堂の窓から俺たちが戦っている広場が丸見えだったらしいのだ。
そして、賑やかに観戦しながら食事を取っていたら俺がピンチになったから慌てて助けに入ったのことだ。それで俺は助かったのだ。
更にクラウドにミーちゃん、それに角刈りポニーテールの野郎も捕まえて冒険者ギルドに引き渡したらしい。今後どうなるかはギルガメッシュの采配しだいである。
そして今俺はスカル姉さんの診療所に入院していた。傷が深すぎて動けないのだ。
二階の窓から見える景色は迎えの建物の窓だけである。ベッドから腰すら起こせない俺には青空すら見えないのだ。
「つまらない……」
俺がスカル姉さんの診療所に運び込まれて二日が過ぎた。その間、スバルちゃんが仕事を休んで俺の面倒を見てくれている。食事をスプーンでア~ンしてくれたり、尿瓶を支えてくれたり……。
ある意味で、色々と恥ずかしい体験を味わってますわん。
幸いなのは、まだ大便をもようしていないことぐらいだろう。だが、それも時間の問題だ。食事を取ってれば時期に大便だってもようするだろう。
その時スバルちゃんは、俺の大便を手伝ってくれるのだろうか?
それより何より、俺は彼女の前で大便をヒリキだせるのだろうか?
正直なところ自信が無い。
何せ今まで女性の前で大便なんてしたことないからな。そんな卑猥で下品な趣味は持ち合わせていないのだ。
もしもスバルちゃんの前で大便をしたら、彼女は俺を受け入れてくれるだろうか?
それより俺の大便をオマルで受け止めてくれるだろうか?
分からない……。でも、これは、チャレンジしてみるしか無いだろう。
怖い……。嫌われたらどうしようかな……。
ここはスーパーヒーリングルビーを試してみるか?
それで傷が全回するなら幸いだ。
でも、スーパーヒーリングルビーでも傷が癒えなければ、レアなマジックアイテムが勿体無い。何せルビーは使い捨てだからな。
しかも二つ在るうちの一つは先日の戦いで落としてしまった。紛失してしまったのだ。ここはやはり一ヶ月は大人しく怠惰を満喫しようかな。
スバルちゃんが言ってくれた通り、俺の大便を受け止めることに抵抗が無ければ儲け物だしな。
そうなれば、美少女にウンコを受け止められ放題のパラダイスになるしさ。新しい世界が花開くかも知れないぞ。
ここはルビーを我慢してみるか──。
「よう、スバルちゃん。アスランは起きているか?」
んん?
病室の外から男の太い声が聴こえて来た。たぶん、この雑で太い声はゴリだな。
「たぶん起きていると思いますよ。ゴリさん、お見舞いですか?」
「ああ、俺もドクトルに傷を見てもらった帰りでな。ついでにあの糞垂れの様子を見に来たんだよ」
まだ、糞は垂れてないぞ。
「バイマンも居ま~す」
「オアイドスも居ま~す」
なんだ、野郎が三人してお見舞いか。むさ苦しいな。
「まあ、病室に入るぜ」
病室の扉が開くとゴリたち三人がゾロゾロと入って来る。すると先頭で入って来たゴリが手を振りながら大声を出した。
「よ~う、変態スケベ野郎、元気か~」
「元気じゃあねえよ……。あれ?」
俺はゴリの顔を見てから目を点にさせた。
ゴリは剥げ坊主の顔に包帯をミイラのようにグルグルと巻いていたからだ。
怪我をしているのか?
ゴリの後ろから姿を見せたバイマンとオアイドスは見た目で普通だ。痛々しく包帯を巻いているのはゴリだけである。
「ゴリ、その顔は、どうした?」
ゴリはグルグル巻きの包帯から見える坊主頭を手で撫でながら言う。
「ミーちゃんにダガーで切られてな」
「マジか……」
なるほどね。ミーちゃんのヒールが効かないダガーで顔面を切られたんだ。
「それ、傷が残るだろ、ゴリ……?」
「ああ、残るらしいわ。何せヒールが効かない傷らしいからな」
「どのぐらい切られたんだ……?」
「右の額から、左頬へ、ザックリだ」
俺はベッドに寝たまま謝った。
「すまん、俺のせいで……」
ゴリは笑いながら言った。
「これは俺のミスだ。だからお前は気にすんな。それに顔面に傷があったほうが、なんだか格好いいだろ。今度から俺のことをスカーフェイス様って呼んでくれてもいいんだぜ」
「本当にすまん、お前を傷物にしてしまった。この責任はちゃんと取って、結婚してやるからな……」
「「マジで!!」」
バイマンとオアイドスの二人が驚愕の表情で驚いていた。俺の結婚宣言を本気だと思っている。
「本気にすんなよ。あははははっ」
俺が笑うと三人も笑い出した。だが、俺の背中に激痛が走って笑いが止まる。まだ、笑うのも辛いようだ……。そこからミーちゃんに刺された傷が深いことを悟る。
「大丈夫か、アスラン?」
ゴリが心配そうに言った次の瞬間だった。突然ゴリが白目を向いて膝から床に崩れたのだ。
俺も驚いたが、バイマンとオアイドスも驚いていた。
その崩れて倒れたゴリの背後に注射器を持ったスバルちゃんが笑顔で立っていたのだ。俺たち三人が身構えながらスバルちゃんを凝視する。
この薬師……、ゴリに何か薬物を注射しやがったな……。
笑顔のスバルちゃんが注射器を背後に隠すと優しく言った。
「皆さん、そろそろアスラン君は寝る時間ですから、そのゴリラ男を連れて帰ってもらえませんか?」
「「は、はい……」」
青い顔のバイマンとオアイドスが気絶したゴリを抱えて病室を飛び出した。
俺は見舞いに来てくれた三人を見送るとスバルちゃんに問うた。
「なんで、ゴリを……?」
「だって、アスラン君がゴリラと結婚するとか言い出すから……」
「や、焼きもちなの……?」
「もう、知らない!」
顔を赤面させたスバルちゃんが病室を駆け出て行った。恥ずかしがってるのだろうが、こえーーーよ!!
スバルちゃん、可愛いけれど、こえーーーよ!!
すると走り出て行ったスバルちゃんと入れ替りでスカル姉さんが病室に入ってきた。スカル姉さんは廊下を指差しながら訊く。
「何かあったのか?」
「いや、なんでもないよ……」
「あんまりスバルちゃんを苛めるなよ。私はお前のウンコを処理したくないんだから」
「分かってるさ……」
踵を返したスカル姉さんは、病室から出て行った。コツコツとヒールの足音が遠ざかって行く。
「あ、やべぇ……。ウンコしたくなってきた……」
すると廊下の外で振り返ったスカル姉さんが仰け反りながら顔だけで病室を覗き見て言った。
「私は絶対に、ウンコの世話なんてしないからな」
「分かってるってばさ……」
「それと──」
「なんだよ、スカル姉さん?」
「さっき魔王城から使いが来てな。地下牢獄に幽閉していた三人なんだけど」
あいつらがどうしたのかな?
「流石は腕利きの盗賊だよな。ミーちゃんだけ逃げ出したぞ。どこに行ったか分からない」
「あらら……」
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