14-30【グレイスママとの再開】

仕事に行くと言ったマヌカビーさんと別れた俺はゴモラタウンに来ていた。


ワイズマンが帰ってくるのが昼過ぎだと聞いていたので俺は時間潰しにグレイスママの店を訪ねようと出掛けたのだ。


「懐かしいな~」


幻術のグレイス──。


幻覚系の魔法を得意とする魔女で、ワイズマンの母親だ。


そんでもってゴモラタウンで会員制のマジックアイテムショップを営んでいる。


「確か、この辺の路地だったよな」


俺は貧民街の裏路地に来ていた。


グレイスの店は幻術で隠されているので厄介だ。


グレイスの幻術は感覚を麻痺させる魔法だ。


だから記憶だけでは店に辿り着けない。


「ああ~、この辺に空間の歪みがあるぞ。よし、無理矢理突破するか~」


見えない空気の壁がある。


俺は気合いを入れて裏路地を突き進む。


「よし、見えた!」


俺の眼前に小さな店が現れる。


地味な入り口にはポーションを画いた看板が出ていた。


俺がノブを捻るとカチャリと扉が開く。


前より簡単に入れたな。


俺の成長の成果だろう。


「ごめんよ~、グレイスママは居るか~」


俺は元気良く店の中に飛び込んだ。


すると店の奥のカウンター内にはチャイナドレス姿のグレイスが座って居た。


相変わらず後期高齢者とは思えない美しさである。


なんとも若々しく見えるのだ。


「あら、無駄に元気なお客さんが来たわね」


「このエロエロボディーマダムめ。俺をクールにあしらいやがって。もぉ~、素直じゃあないな~!」


「えっ、なに、侮辱?」


「褒め言葉だよ~」


「ところであなた、誰?」


「うわ、酷い……。アスランだよ~。忘れちゃった。それともボケた?」


「まだボケる歳じゃあないわよ」


嘘つけや。


もう年齢不詳なくせしてよ。


「でえ、久々にやって来て、なんの用だい、坊や?」


グレイスは素っ気ない。


しかし俺には関係なかった。


この美ババアにツンデレられても仕方ないからな。


「グレイスママ。ジャイアントサンライズってモンスターを知ってるかい?」


「ああ、知ってるわよ。今ごろ北のほうで猛暑を振るってるとか」


「うわ、そんなことまで知ってるんかい……」


へびの道はじゃよ」


難しい言葉を使いやがって。


いちいちつっかかって来るところが可愛いな。


「まあ、それでだ。何か効果的なマジックアイテムを探しているんだ。何かアドバイスをくれないか」


「ならば、そこの棚にある長剣なんて氷属性だぞ」


「いくらだい?」


「500000Gだ」


「50Gに負けてくれないか?」


「舐めんな、もう帰れ」


うわー、クールに言われたよ。


もう照れやがってさ。


「もっと安くて手頃な物はないか?」


「そこの三番目の矢筒。その矢はどうだ」


俺は幾つか並ぶ矢筒の数々を見た。


「右から火、氷、雷、風、光、闇の属性を持った矢だ。一本10Gで格安だぞ」


俺は氷属性の矢を一本取って見た。


「ほほう──」


あー、確かに氷属性のマジックアイテムだ。


矢の一本でもマジックアイテムなんだな~


「これ、一本3Gに負けてくれないか?」


「一本7Gでどうだ?」


「高いよ~」


「一本5Gだ。それ以上は負からんぞ」


「よし、全部買ったぜ!」


「奥の倉庫に十万本あるから今持って来るぞ」


「ちょっと待った!!」


「なんだ、五月蝿いな?」


「十万本も在庫があるの?」


「ああ、十万本全部お買い上げだろ?」


「全部で300000Gにもなるじゃあねえか!!」


「全部で500000Gだ。無断で値切るな」


「流石にそんなにいらんがな!」


「じゃあ何本ほど買うんだ?」


「二十本くれ……」


「なにセコイことを言っておる。せめて百本ぐらい買っていけ」


「えー、百本も買ったら450Gになるじゃあねえかよ~」


「だから微妙に値引きするな」


「じゃあ五十本買うよ」


「セコイな。ほら、五十本で300Gだ」


「はいはい、300Gね……。払いますよ、払えばいいんでしょう……。あれ、んんー、まあいいか」


俺は矢筒から五十本の矢を数えて受け取った。


「矢筒は要らんか。ひとつ5Gで売ってやるぞ」


「矢筒は持ってるから要らんよ」


グレイスママが煙管を蒸かしながら言う。


「それにしても相手がジャイアントサンライズだろう?」


「そうだが?」


「そんな安物の矢が通じるかどうか分からんぞ」


「ちょっと待てやババア!!」


「誰がババアだ!!」


「効かねえ物を売り付けるな。返品だ、返品!!」


「じゃあこの汁を矢先に浸けるといいぞ」


グレイスママがカウンター奥の棚から壺をひとつ取り出した。


サッカーボールサイズの壺で、板と布で蓋がされている。


なんか梅干しが浸けられていそうな壺だった。


「なんだ、それは?」


「冷凍水だ」


「冷たい水か?」


「氷狼フェンリルの小水を氷属性の魔法石で冷やした水だ」


「どんな丁寧に言っても、狼の小便だろ……」


「まあ、臭いはキツイが、火属性のモンスターには効果的なアイテムだ。矢先をこの水に浸けてから放てばいい。最悪はこの水をジャイアントサンライズにぶっかけてしまえ」


「分かった。でえ、いくらなの。お高いのでしょう?」


「たったの500Gだ」


「高いよ。100Gに負けてくれないか?」


「よし、売った」


なに!?


もしかして、相当ぼったくられてるの、俺!?


「それで、その壺は幾つ在庫があるんた?」


「在庫は三つかのう」


「じゃあ三つ全部買うよ」


「ならば三つで250Gに負けてやる」


なに!?


やっぱり俺はぼったくられてるのか!!


「まあ、矢で倒せずに接近戦を挑むのなら、それを頭からかぶるんだな。じゃないと火傷が酷いことになるぞ」


「えー、小便を頭からかぶるのかよ……」


「それだけジャイアントサンライズは灼熱だってことだ」


「アドバイスサンキュー」


俺は支払いを済ませてから矢と壺を異次元宝物庫に片付けた。


「ところでグレイスママ、ワイズマンが結婚したな。おめでとう」


「ああ、私もこれで安心して次に進めるわ。あのモッチリで不細工な駄目息子が嫁を貰えたんだからね」


酷い言いようだな……。


まあ、間違いではない。


「んん、あれ、次に進めるってなんだ?」


死んであの世に行けるってことかな?


「私もそろそろ再婚を考えようかなっってことよ」


「まだ人生を謳歌するつもりかい!?」


「当然だわ」


言いきりやがった!!


この糞ババア!!


どこまで生きて、とれほど花を咲かせれば気が済むのだろう。



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