14-29【太陽のモンスター】

俺がゴモラタウンに到着したのは、ソドムタウンを出た晩のことだった。


流石に休憩無しでアキレスを走らせて来ただけあって疲れたぞ。


もしもアキレスが普通の馬ならば心臓が破裂して死んでいただろう。


やはり赤兎馬を上回る名馬である。


旅の友には最高だね。


っと、言っても俺のお尻も限界だ。


もう皮が擦り剥けそうなぐらいパンパンである。


とりあえず夜も深い時間帯だ。


夜目スキルと月が出ているお陰で、明かり無しでも夜を走ってこれたが、とにかく体が冷えてしまった。


早くワイズマンの屋敷に行って暖炉で暖まりたいものだ。


出来ればお腹も空いたので暖かいスープと豪華な料理でもてなしてもらい、お風呂に浸かったあとでヌクヌクとベッドでゆっくり休みたいものである。


「確か、この辺だったよな」


俺はゴモラタウンの外周を走りワイズマンの屋敷を探す。


「あった」


確か、この屋敷だ。


窓には明かりが点灯している。


たぶん誰かしら起きているだろう。


俺は玄関前までアキレスを進めた。


「よっと」


俺が馬から降りると視線を感じた。


上を見る。


二階の窓から誰かがこちらを見下ろしていた。


それが誰かは分からなかったが、これで来客を知らしめただろう。


誰か出てきてくれるはずだ。


俺は玄関の扉をノックする。


するとしばらくして両開きの玄関ドアの覗き窓が開いた。


そこから老人の目が覗き見る。


知った眼差しであった。


「どうも、夜分に申し訳ない。ソドムタウンのソロ冒険者アスランだ。ワイズマンを訪ねて来た」


「これはこれはアスラン様。よくぞお越しになりました」


玄関の扉が開いて俺は屋敷の中に招かれる。


迎え入れてくれたのはいつもの爺さんだった。


もう顔馴染みである。


俺は執事の爺さんに問う。


「ワイズマンはまだ起きているかい?」


執事の爺さんが丁寧に答える。


「旦那様は現在外出中です。お城でパーティーが御座いまして、奥さまとお出かけになっております」


奥さまか~。


マヌカハニーさんと結婚したんだよな、あのモッチリ親父もさ~。


あっ、俺、結婚式に招かれてねえぞ。


寂しいな~……。


俺一人だけ結婚式に呼ばれないって、もしかして嫌われてるのかな。


まあ、いいか。


お祝儀代をぼったくられなかったと言うことで良しにしておこう。


「旦那様は明日のお昼ごろに帰宅予定ですので、今晩は客間でお休みになってくださいませ」


「ああ、そうさせてもらうぜ」


「ところでお食事は済みましたか?」


「いや、まだだ」


「では、簡単な料理しか出せませんが、あとでお部屋にお運びいたします」


「ああ、助かるよ」


いやいや、マジで助かるな!!


簡単な食事とか言ってたけど、結構なご馳走が出た。


マジで有り難い!!


こうして俺は一晩をワイズマンの屋敷で過ごした。


フカフカのベッドが最高である。


金持ちの持て成しは素晴らしい。


もう、やめられないな。


そして、朝もなかなかの朝食が出た。


こんなに良い料理が朝から出ていたら、ワイズマンもモッチリと太るのが分かる気がしてきたぞ。


「さてと──」


朝食を食べ終わった俺は庭に出てベンチに腰を下ろしていた。


日差しが暖かいな~。


ポカポカの太陽が眩しいぞ。


たまにはゆっくりも良いもんだ。


すると知った顔が現れる。


「やあ、アスランくん。お久しぶりだね」


「あ、あんたは……」


マヌカビーさんだ……。


マヌカハニーさんの実弟で、ソドムタウンの冒険者ギルドのメンバーである。


マヌカビーさんと会うのは彼をトリンドルに生け贄として差し出して以来であった。


この人、生きてたんだ……。


もうミイラになってるかと思ってたのに……。


「い、いやぁ、マヌカビーさんじゃあないか……」


気まずい……。


あの絶倫ドルイドに生け贄として差し出したことを怒っていないだろうか……。


いや、普通なら怒っているだろう。


そう、怨んでいるだろうさ。


何せあの絶倫女はワイズマンですらお手上げだったのだから……。


「どうしたんだい、アスランくん。顔色が悪いようだけど?」


「いや、何でもないよ……。うん、何でもない……」


「もしかして今日ゴモラタウンに来た理由は、兄さんの依頼を引き受けに来たのかい?」


兄さん?


あー、ワイズマンのことか。


もう兄さん呼ばわりかよ。


「ああ、何の依頼かは分からんが、その件で来たんだ」


「そうか~。本当なら僕が受けたかった仕事なんだけどね」


「そうだったのか。じゃあなんで受けなかったんだ?」


「僕ね、冒険者を引退したんだ」


「えっ、本当に?」


「結婚するんだよ」


マーージーーでーーーー!!!


もしかして相手はトリンドルか!?


てか、すげー満面の笑みで言いやがったぞ、こいつ!!


あのトリンドルと馬が会うのかよ!?


「あのー、つかぬことを訊くけれど、相手は……」


「君が紹介してくれた、トリンドルだよ♡」


やっぱりー!!


それよりも、こいつ語尾にハートマークを付けやがったぞ!!


なに、幸せなのか!?


あれを相手に幸せを感じられるほどの絶倫なのか!?


「彼女は僕の理想に叶った女性でね。だから冒険者を引退して、結婚を決意したんだ」


理想って何さ!!


やっぱりこいつも絶倫か!?


この結婚は絶倫同士の結婚か!!


「そ、そうなんだ。おめでとう……」


とりあえず祝っておこう。


祝っておけば俺とは揉めないだろう。


それにしてもこの人は、ワイズマンと穴兄弟って知ってるのかな?


「と、ところで、トリンドルは?」


「彼女はまだ茨の塔で仕事をしているよ。魔法使いギルドのほうで後任が見付かるまでだけどね」


「そ、そうなんだ……。ところでマヌカビーさんは、冒険者を引退して次に何をやるの?」


「次の職は商人だよ。って言ってもワイズマン兄さんの元だけどね」


「まあ、それが妥当で安定だろうさ」


それにしても驚いた。


まさかマヌカビーさんとトリンドルがめでたくゴールインするなんて……。


生け贄に差し出したときには思いもよらなかったぜ……。


「ところでマヌカビーさんは、今回俺に依頼される仕事の内容を知ってるのかい?」


「ああ、なんでも北の地を納める貴族の領土にジャイアントサンライズが出現したらしいんだ」


「ジャイアントサンライズ?」


聞いたことも無いモンスター名だな。


「そのモンスターを知らないかい?」


「知らない……」


「僕も見たことはないけれど、でっかい太陽のようなモンスターらしいよ」


「それは何となく想像できるが、どんな害が有るんだ?」


夏来るなつきたるだ」


夏来るなつきたる?」


「小範囲だけれど、あまりの暑さで植物が枯れてしまうほどの夏が来るんだ。まさに日照りだね」


「それがジャイアントサンライズなのか」


日照りをもたらすモンスターなの?


農園の被害が酷そうだな。


「それで外観は?」


「3メートルほどの球体で、赤く燃えているんだ。氷属性の魔法に弱いって言われているが、珍しいモンスターだからあまり情報も少なくてね」


「氷属性の魔法か~……」


俺ってば氷属性の魔法なんて、フロストアローとアイスエンチャントしか持ってないはずだ。


フロストアローもアイスエンチャントも、超初期魔法だもんな。


それに氷属性のマジックアイテムも持って無いしさ~。


この二つだけで役に立つかな……?


んんー……、無理だろう。


これは少し下準備が必要かも知れんぞ。



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